1. Home
  2. 社会・教養
  3. じゆうちょう「Q」
  4. あなたにも聞こえますか? 第7話「赤ちゃ...

じゆうちょう「Q」

2025.09.30 公開 ポスト

あなたにも聞こえますか? 第7話「赤ちゃん」フェイクドキュメンタリーQ

この連載は、とある事情にてお蔵入りとなった文章を、一部再編集のうえ公開できるようにし、掲載したものです。第7話の今回は、乳児の泣き声についてのトラブルがテーマ。いったいどなたの赤ちゃんですか?

*   *   *

 

騒音トラブル事例 06——2015年『マンション・団地のトラブル事例とその対応』に掲載予定だった調査報告書

―――――――――

■■団地第3棟における異音発生事象について(調査報告)

管理会社名:■■管理株式会社
部署名:管理事業部 調査課
報告書番号:H0X-調-07
作成日:199X年3月16日
作成者:調査員 田山■■

1. 調査の目的
当該団地第3棟において、複数の入居者より「夜間に乳児の泣き声が聞こえる」との申告を受けた。
本報告書は、当社調査員による現地調査の結果をまとめたものである。
________________________________________
2. 調査対象

  • 物件名:■■団地 第3棟
  • 所在地:■■市■■町
  • 構造:鉄筋コンクリート造4階建て
  • 築年数:2年
  • 戸数:全8世帯

  ________________________________________
3. 調査方法

  • 住人への聞き取り(計5名 当該棟及び隣接棟の住人)
  • 共用部・対象住戸内の目視点検、および写真撮影
  • 建物設備(配管・電気系統)の確認
  • 住人より提供されたカセットテープ録音資料の聴取

________________________________________
4. 調査経過

  • 1月28日 対象住戸Aより最初の苦情申告を受領
  • 1月29日 各世帯に乳児がいるかどうか聞き取り。該当世帯なしを対象住戸Aに報告
  • 1月30日〜2月3日 複数世帯より同様の苦情申告を受領
  • 2月4日 対象住戸Bより録音テープ(コンパクトカセット、C60)を受領
  • 2月6日 現地調査(共用部・対象住戸内)実施。住人複数名が立ち会った

________________________________________
5. 調査結果
(1) 住人への聞き取り(計5名)

  • 住人A(当該棟・1階):「夜の11時頃に赤ちゃんの泣き声がする。階段を登ったり降りたりしているように聞こえる。自分の部屋の前から2階への踊り場あたりまでを往復しているようだ。一度、ちょうど部屋の前で聞こえたときにドアスコープを覗いたら泣き声は止んだ」
  • 住人B(当該棟・3階):「上の階から赤ちゃんの泣き声がする。あまりに毎晩泣くのでベランダに出て確かめた。4階か屋上の東側から聞こえた」
  • 住人C(当該棟・4階):「隣の2号棟の方から毎晩赤ん坊の泣き声が聞こえる。時間は9時頃だったり深夜0時を回っていたりまちまち。4階の自分の部屋で聞こえるので下の方の階ではないと思う」
  • 住人D(当該棟・4階):「夜中に下の階から赤ちゃんの泣き声がする。他の住人ともこの件について話したが、皆聞こえる場所がバラバラ。本当の赤ちゃんではなく、心霊現象なのではないかと思う。とても怖い。お祓いをしてほしい」
  • 住人E(第2棟・3階):「夜間に赤ん坊の泣き声は聞いたことがない」


(2) 共用部・対象住戸内の目視点検および写真撮影

  • 騒音報告がある午後9時から11時に調査を実施(調査員2名)。
  • 共用玄関、階段、住戸内において目視点検を行った結果、特段の異常は確認されなかった。
  • 調査中、現場にいた住人の一部は「今泣き声が聞こえる」と発言したが、当社調査員には確認できず、音源も特定できなかった。
  • 動物などの侵入は発見されなかった。
  • 調査時に撮影した写真を確認したところ、ほぼ全ての写真においてフィルムの劣化が原因と思われる光状の写り込みがあった(写真1〜9参照)。


写真1


写真2


写真3


写真4


写真5


写真6


写真7


写真8

 
(3) 建物設備(配管・電気系統)の確認

  • 給排水設備、電気配線、分電盤等について確認したが、特段の異常は認められなかった。


(4) 住人より提供されたカセットテープ録音資料の聴取

  • 録音には足音や風音とともに乳児の泣き声、あるいは猫の鳴き声に類似する音が含まれていた。
  • 詳細は末尾添付資料を参照。

________________________________________
6. 総合所見

  • 現段階では、建物設備や構造的な不具合との因果関係は確認できなかった。
  • 住人から「事故物件ではないか」との質問があったが、築2年であり過去に死亡事故等の事実もなく、特異事由を有する物件には該当しない旨を回答。
  • 録音に含まれる音については、自然現象・人為的行為のいずれかで説明可能な可能性があるが、原因の特定はできず。
  • 環境ノイズと感覚過敏が誘因となった心理的反応である可能性が高い。

________________________________________
7. 今後の対応

  • 現時点で本件に関連する退去者は確認されていない。
  • 入居者からの追加報告があれば随時調査。
  • 必要に応じて外部専門業者への依頼を検討。

________________________________________
付記(参考意見)
入居者の強い要望により、199X年3月1日、霊能者を名乗るA氏に所見を求めた。
同氏の発言要旨は以下のとおり。

  • 水子の霊を感じる。
  • 住人の誰かが産んで下水に流した赤ん坊の霊。
  • (住人は60代以上がほとんどで入居後の出産は考えにくい旨を伝えたところ)しかし、親族などではなく、住人の赤ん坊だとしか思えない。
  • 写真に赤ん坊が写っている。(写真9参照)


写真9


 なお、当社としては本意見を科学的根拠のある調査結果として扱うことはできないため、参考資料として付記するにとどめる。

以上

 

添付資料:住人より提供されたカセットテープ録音資料

 

 

―――――――――

本報告書は、「問題解決はしなかったが迅速な対応によって退去を避けられたトラブル事例」としてマンション管理に関する書籍に掲載予定であったが、本文中の「霊能者」A氏の強い要望によりお蔵入りとなった。
なお、出版予定であった2015年時点で、当時の住人は誰一人退去することなく、件の団地で余生を過ごし、亡くなったという。

{ この記事をシェアする }

じゆうちょう「Q」

この連載では、とある事情にてお蔵入りとなった文章を、一部再編集のうえ公開できるようにし、掲載していきます。呪われたモノ・こと・人…あなたのまわりにも「それ」はあるかもしれません。

バックナンバー

フェイクドキュメンタリーQ

「フェイクドキュメンタリーQ」は、映像制作を生業とするクリエイターの集合体で、YouTube上でホラー系のフェイクドキュメンタリー作品を不定期に公開。テレビ局の未放送VTRや素人動画を再編集するというフォーマットを採用し、その高いクオリティと迫真性で視聴者から高い評価を得ている。 初の著作『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社、2024年)は累計発行部数6万部を突破。
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@pro9ramQ 
X:https://x.com/pro9ramQ 

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP