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衰えません、死ぬまでは。

2024.04.02 公開 ツイート

第13話「筋トレの終わり。そして伝説が始まる(予定)。」前半

大谷翔平選手の移籍契約金は、普通のサラリーマンの2万年分。旧石器時代から働いていないと太刀打ちできず… 宮田珠己

還暦を迎えた宮田珠己さん。筋トレを続ける目標、いまだ達成できず…。

*   *   *

前々回、スマホに筋トレアプリを導入し、回数のノルマがないワークアウトをやったら、気軽で簡単だったのでこれなら続けられそうだと書いた。

その後どうなったか。

まったく続いていない。

 

乙。

なんだろう、この続かなさは。

読者もきっともう私を信用していないにちがいない。

(写真:宮田珠己)

どういうわけか、ありとあらゆる筋トレが私を拒んでいる。というか、まあ、私が拒んでいるんだけども、なぜ続かないか。

ダイエットが続かない、禁煙が続かない、勉強が続かない。

これまでいろいろな続かない人の話を耳にしてきた。他人事のときは、なんて意志が弱いんだと上から目線で呆れていたのに、あろうことか私こそが続かない人であった。

もはや自分自身が信用できず、自己嫌悪に陥りそうだが、そうは言いつつも客観的に見てみれば、何もかも続かない100%ダメな人とまでは言い切れない。散歩は相変わらず続いているし、日記も毎日ちゃんとつけている。完全なるダメ人間というわけではないのである。

結局好きなことは続くし、好きじゃないことは続かないという単純な話なのである。

もちろん、好きじゃないことは絶対続かないかといえばそうとも限らない。私は会社員時代、約10年にわたってコツコツ会社に通ったのである。遅刻をしたことがまったくなかったわけではないけれども、99%以上真面目に通勤していた。 これは会社が好きだったからではもちろんない。仕事である以上、それが当たり前だから続けていただけである。

ならば筋トレも、それが当たり前であれば続くであろう。

給料が出るならば、給料相当分は絶対に怠けない自信がある。

つまり筋トレをしても給料が入らないのが悪い。

ここでドジャースの大谷選手を考えてみよう。

大谷選手はプライベートでもほとんど遊ばず、飲み会の誘いも断って黙々と体を鍛え、それが済んだらさっさと寝ていると聞く。スポーツ選手は生活全般が仕事のうちといえなくもないとはいえ、ちょっとぐらい遊びに行きたいのではないか。それでも練習だけして帰って寝るという。 その強いメンタリティには驚くばかりだけれども、ある新聞記事に、大谷選手のドジャース移籍契約金が普通のサラリーマンの2万年分だと書かれていた。

2万年!

そりゃ、筋トレぐらいやるだろう。私だってやる。

サラリーマンなら旧石器時代から働いてないと太刀打ちできないのである。そんな時代からサラリーマンを続けるぐらいなら、筋トレしたほうがましだ。

筋トレはバイトだと思って、心を無にして取り組もうとしたことがあったが、実際バイト料がもらえるわけじゃなし、どだい無理な話であった。

この先、給料が出ない筋トレを私がやる日はもう来ない気がする。

きっとみんなはこう思っているだろう。こいつ、結局やらないな、やるやる詐欺もいいところだ、と。

(写真:宮田珠己)

もう筋トレはあきらめて、何か別の方法で未来を切り拓いたほうがいいのでは?

ここで確認しておきたい。私の最終的な目標は、歳をとって衰え始めた運気を、肉体を変えることによって、上昇へと転換させることだった。

近頃転げ落ちるように運気が下がっているという悩みが、今回の筋トレ計画の発端であり、わが苦しみの中心であった。

なので筋トレが続かないなら、何か別の方法で体を鍛えなければいけない。つべこべ言ってる場合ではない。パワフルな肉体を獲得せずして未来を拓くことはできない。

たとえば水泳でもいいのだ。

水泳なら一時期やっていた。週に2回ほどプールに通って1時間程度泳いでいたことがある。あれは筋力も鍛えられるうえ、有酸素運動でもあって素晴らしいエクササイズであった。素晴らしいエクササイズではあったけども続かなかった。思えば私は海で遊ぶのが好きだが、水泳そのものはとくに好きじゃないのだった。

好きじゃなかった……いつもそこで止まってしまう。

好きじゃないからやらないって、ただの甘えではないのか。

好きなことだけやって生きていけるなら、そんな楽な話はないと読者は思うだろう。私もついこの間までそう思っていた。

だが、最近考え方に変化が起こりつつある。

前に、還暦になったからといってとくに心境の変化があるわけではないと書いたが、どうやらじわじわと心境も変化してきたようなのだ。

すなわち、もういいんじゃないか、と。

会社員なら、この先はもう働かないという人も出てくる年齢である。

そんなに自分を追い込まなくても、もういいんじゃないか。

筋トレはしなかったが、今までそれなりにつらいこともやってきた私である。十分がんばった。

そろそろ手綱をゆるめて、気持ちの赴くままに生きてもいいんじゃなかろうか。

つまり自分を鍛えるという考え方をやめてもいいのではないかということだ。鍛えるんじゃなく、好きなことをやっていたら少し強い体になっていたというぐらいの発想でやってはどうか? たとえば私は、階段昇りなどは案外嫌いじゃないのである。

(写真:宮田珠己)

散歩の途中長い階段に出会うと燃える。20段、30段程度だと馬鹿らしくて昇る気は湧かないが、100段を超えるような長い階段は、敢えてチャレンジしたくなる。

ところが、これがジムの昇降マシンだとやる気が出ない。やることは同じでもあれは萎える。景色が変わらないからだ。エスカレーターを逆向きに昇っているようなもので、自分はずっと同じ位置にいるままなのだ。退屈でしょうがない。

長い階段の途中でふり返り、おお、こんなに昇ったぜ、と悦に入るのが楽しいのだ。熊本だかどこかに3333段の階段があるそうで、そんなのがうちの近所にあればいいのにと思う。

なら、登山はどうだろう。かつて山岳会に在籍していたぐらいだから登山は嫌いではないし、達成感や充実感も十分だが、日々コツコツ続けるには大掛かりで、時間もお金もかかる。週に何度も行けないし、山行のために別途鍛える必要がある。

それに階段にしても登山にしても鍛えられるのは下半身がメインで、上半身があまり鍛えられない。

と、そこまで考えたところで思いついた。

(後半につづく)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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