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衰えません、死ぬまでは。

2025.03.05 公開 ポスト

第24話 筋トレへの回帰と、新たなる不調(後半)

階段で筋肉がつくのは、上りではなく下り宮田珠己

「散歩って本当に効果ある?」と、疑念を抱き始めてきた宮田さん…!

*   *   *

正直、好き嫌いは別として、散歩より筋トレのほうが手応えを感じられる。

挫折防止のため最小レベルではじめた筋トレは今も続いており、もう4カ月になる。このサステナブルな筋トレによって、数値には現れていないものの、なんとなく二の腕に筋肉がつきはじめている気がする。

 

当初の目論見では、慣れてきたら徐々に回数を増やしていくつもりだったが、今のところ増やしたのは腕立て伏せ2回分ぐらいで、今も2セットやることはないし、1日10分もあればすべて終わる。筋肉がついた気がするのも錯覚かもしれない。それでも運気アップに貢献しそうなのは散歩ではなくやっぱり筋トレなのでは? と考えはじめている自分がいる。

歩くだけでは負荷が小さすぎるのではあるまいか。散歩するなら、少なくとも平地ではなく、もっと負荷の高い階段や坂道を選ばないと効果がないのでは?

聞くところによると、階段で筋肉がつくのは上りではなく下りだそうだ。

(写真:宮田珠己)

たしか中学生のときだったか、クラスの友人が山登りは下りがきつくて嫌いだと言っていて、はあ? こいつ何言ってんだ、上りのほうがきついにきまってんだろと思った記憶があるが、そいつの意見にも一理あったことが判明したわけである。すなわち上りは体力的にきついが、下りは筋肉がきついと。ということは、上りで心肺機能を高め、下りで筋肉をつける階段は、素晴らしい健康ツールということになる。

そういえばジムには、階段がどんどん繰り出されてきて、それを黙々と上るというエスカレーター地獄のようなマシンがあるが、あれには逆回転モードがあっただろうか。下りのほうが筋肉がつくというなら、延々と下り続けるマシンがあってもいいはず。

ジムに行って、階段マシンを確認したところ、残念ながら逆回転はしないようだった。全然わかってない。

筋トレの常識は日進月歩で、そもそも私が小学生のときは、うさぎ跳びなどという今では悪の権化のように言われる凶悪筋トレが幅を利かせていたし、高校時代になっても体幹などという言葉は誰も知らなかった。インナーマッスルを鍛えるなどと言われはじめたのは大学生か社会人になってからで、今じゃ当たり前のプランクなどという筋トレメニューは、プの字も知らなかった。常識は変わるのだ。今こそ階段下りマシンを登場させよ。

そんなわけで久々にジムに顔を出しはじめているが、おかしなもので、ほのかに楽しい気持ちになっている私がいる。

昔はそこにいるだけで気持ちがドブ川のように淀んだのに、いったいどういう変化であろう。

(写真:宮田珠己​​​​)

筋肉がついて楽になったのではない。そうではなくて、サステナブル筋トレの精神、すなわち「きつくなったら即やめる」の精神が身についたために、筋トレマシンを見てもビビらなくなったのだ。毎日ほんの少しでも筋トレしていることで、筋トレ耐性がついたとも言える。

黒々とした筋トレマシンは、その存在に威圧感がある。ただの機械に過ぎないくせに、やれよ、と無言で圧力をかけてくるのだ。これまではその圧力に心が負けていた。

でも今は大丈夫、無言の圧に対し、やらねーよ、もしくは、ちょっとだけならな、という心の返しができるようになった。

以前なら、そうすると、弱っ! 軟弱、それでも男か、というマシン側からのさらなる返しがあったものだが、今はそんな煽りに対しても、弱いのではない、老いたのだ、と強い心ではね返すことができるようになった。還暦になって、開き直りのパワーが身についたのである。

2セット禁止のルールにより、ジムでも同じマシンを2回はやらない。空いているマシンを適当に選び、かつ負荷を大きめにするかわりに回数を極端に減らして、きついけどちょっとしかしないの精神で乗り切る。

これだ。ジムでの筋トレを続けるコツは、自宅での自重筋トレ同様、ちょっとしかしないことだ。大事なのは、また来ることが心の負担にならない気軽さなのである。

そうして2025年はジムの頻度を増やす方向で決意を固めた私だったが、なんと年明け早々誕生日が来て、気がつくと、還暦を超え、61歳になっていた。

(写真:宮田珠己)

いや、誕生日とかそういうの、もういいから。

去年から何も進歩しないまま1年が過ぎてしまった。

こんなことでは運気が上がる前に死んでしまうのではないか。

ぱっとしない人生だったとか悔やみながら、もうすぐ逝くのではないか。

と凹んでいると、突然、下腹部が激しく痛みだした。

昼間散歩に行き、夕方自宅で筋トレをしはじめた頃から、だんだん痛みはじめ、夜には我慢できないぐらいに凶悪化してきた。下痢かな? と思ってトイレに行っても何も出ない。深夜になってもますます痛み、救急車を呼ぼうか迷ったが、それほどの事態なのかどうか判断できない。 痛み止めを飲んで、その夜はなんとかしのいだものの、翌朝になると今度はみぞおち付近に鋭い痛みがあり、我慢できずに病院へ行くと、即刻胃カメラの予約を入れられたのだった。

踏んだり蹴ったりだ。

なんなんだいったい。このところ、セロトニン症候群やら、目の硝子体剥離やら、いろいろと不調が続いていたが、ついに胃カメラまで飲む事態に。これが老いということだろうか。

粛々と胃カメラを飲んだ。

結果は、少し荒れているけれど、たいした異常はなしとのこと。原因は胃じゃないらしい。となると何なのか。そんなわけで次はエコーの予約を入れられた。

次から次へと迫りくる体調不良。新年早々だだ下がる運気。この状況で言うのも何だけども、今年はいい年になりますように。

(連載は「小説幻冬」でも掲載中です。次号もお楽しみに!)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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