真下みこと『わたしの結び目』／志駕晃『そしてあなたも騙される』－若い女性の心の闇に迫るミステリー2作！｜アルパカ通信幻冬舎部｜アルパカ内田／コグマ部長

幻冬舎営業部コグマ部長からオススメ返し
志駕晃『そしてあなたも騙される』

シングルマザーの貴代に届いた滞納家賃の督促状。追い詰められた彼女がすがったのは、SNS上で客を集める個人間融資の闇金だった。やけに親切に返済を猶予してくれる「未奈美」と名乗る見知らぬ貸主。その優しさとは裏腹に貴代の借金は増えていく。未奈美とは、いったい何者なのか―？

一方こちらは、スリリングな小説。主人公は20代のシングルママの貴代。DV夫から逃れながら、小2の娘を育てているが、体調を崩して働けなくなり家賃を滞納。アパートの立ち退きを迫られる日々だ。無職では消費者金融でも借りられず、周囲にも借金を断られ、万策尽きてS N S上で「個人間金融」に手を伸ばす。そこで貴代の立場を親身になって考えてくれる貸主に巡りあうというオープニング。

この「個人間金融」の世界がすごい。貴代は担保代わりに肉体関係を迫られるが、その他にも相手を借金漬けにして身ぐるみはがそうとする貸主、「借りパク」して逃げ切ろうとする借主までいて、魑魅魍魎だらけだ。

そしてこの作品の凄さは、そんな現代のダークサイドをリアルに描きつつ、読者にも巧妙な「罠」を仕掛けているところにある。登場人物は皆「自分だけは大丈夫」と思いながら、泥沼にはまっているのだが、まさしくそれと同じように読者も自分は騙されないと思うだろう、だが……。

それぞれのセリフ、細かいトピックス、すべてが仕掛けとなり、さらにそれらが地下水脈のようにつながっている。読後、このタイトルの真意に気づいたときに思わず声を出してしまった。いいか、一行すら読み飛ばすな！

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アルパカ通信幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい！」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。

幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください！

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アルパカ内田

アルパカ内田ブックジャーナリスト

内田剛（うちだたけし）。ブックジャーナリスト。約30年の書店勤務を経て2020年2月よりフリーランスに。NPO法人本屋大賞実行委員理事で創立メンバーのひとり。文芸書をメインに各種媒体でのレビュー、学校や図書館でのPOP講習会などを行なっている。これまでに作成したPOPは6000枚以上で著書に『POP王の本！』『全国学校図書館POPコンテスト公式本オススメ本POPの作り方（全2巻）』あり。無類のアルパカ好き。
Twitter @office_alpaka