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礼はいらないよ

2023.02.20 更新 ツイート

「最低760万円」必要予算を公開して視聴者とともに作った映画「劇場版センキョナンデス」 ダースレイダー

先日、街宣活動をした。僕と時事芸人のプチ鹿島さんが監督を務める映画「劇場版センキョナンデス」の宣伝として選挙で使われる街宣車に乗って街に出て街宣することにしたのだ。

 

この映画は僕と鹿島さんが毎週金曜日のお昼12時に、僕の娘の部屋から配信しているYouTube番組「ヒルカラナンデス」がきっかけになっている。毎週様々な政治の時事ネタを取り上げて、あちこちでボケる日本や海外の政治に対してツッコミを入れていく。日本の国会議員は、議院内閣制で選ばれる総理大臣も含めて皆が選挙で選ばれている。その意味では政治のボケの根幹は選挙にある、とも言える。

ある配信の時、大島新監督の映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を取り上げた。これは面白い! と盛り上がった僕らは香川1区という選挙区の存在を知る。映画の中ではあれだけ必死に選挙活動を行う小川淳也氏が、それでも選挙区では負けてしまう。勝つのは自民党の候補、平井卓也氏だ。一体どんな強者なのか? 

地元でシェア6割を誇る四国新聞のオーナー一族の長男(社長は弟、オーナーは母)。元電通社員で、四国新聞系列のテレビ局西日本放送の社長も務め、岸田派に属しながら菅政権の目玉政策、デジタル庁では初代大臣を担当する。

さらには僕とプチ鹿島さんが選挙取材の師匠と仰ぐライター、畠山理仁さんが「コロナ禍の選挙漫遊記」という本を出した。コロナ禍で行われる選挙を取材しながら、その地域の名物を食べて名所を巡る漫遊を勧める本。これまた面白い! 僕らは部屋にいる場合じゃない! 選挙を見に行きたいという気持ちを抑えられなくなっていた。

そんな中、菅政権から岸田政権に変わり、2021年の衆議院選挙がアナウンスされた。平井氏は、岸田派なのにデジタル大臣を譲っている。NECへの脅し音声などの文春報道の影響もあっただろう。ここで大島新監督は新作「香川1区」をアナウンス、衆院選香川1区の選挙戦を丸ごと追いかけることを表明した。

これは……香川1区に行くしかない! 僕らは無料のYouTubeとは別に定期的にトークライブを開催しているライブハウス、ロフトグループに相談した。ロフトはコロナ禍でのライブハウスの苦境の煽りをモロに受けながら配信にシフトしてなんとかイベント事業を続けていた。僕らがトークライブをライブハウスでやることにしたのも、少しでも苦境を売上で助けることが出来れば、と思ったからだ。

ロフトの配信担当は宮原塁くん。宮原くんに相談してロフトの配信スタッフをそのまま外に連れ出し、香川1区からの配信トークライブを実現できないか? ライブハウスは店という場があって初めて成立する。そのスタッフとともに外に出るというのは逆転の発想で前例がなかった。

ロフト側もこのチャレンジに興味を持ってくれたが、果たして商売として成立するのか? まずは出張トークライブにかかる経費を算出してくれた。チケットの値段を決めて赤字ラインを算出する。この時、僕と鹿島さんは経費計算を公表することを選んだ。赤字ラインを可視化してチケットの売り上げ目標を視聴者と共有する。こうして視聴者と一緒に作り上げる体制で実現した出張選挙取材「香川1区ナンデス」は大成功した。

メディア一族の長男が率いる自民党の帝国における選挙戦終盤に潜入する、という想定で飛び込んだ僕と鹿島さんはあまりに意外な顛末に驚くことになるが、チケット販売数はこの年のロフトの記録となった。

翌年、今度は参議院選挙が実施されることになった。この時は年初に日本維新の会に対して”闘うリベラル派”宣言を出し、大阪特命担当に就任して維新本拠地の大阪で戦いを挑む菅直人元総理大臣に密着することにした。そして3日間の選挙取材配信トークライブを企画。経費を算出し、同じく赤字ラインを公表して視聴者と協力して企画を実現させた。

この取材では7月8日の安倍元総理銃撃事件という歴史的な出来事を体験する僕らをカメラが撮影していた。この日、僕は、鹿島さんは、あなたは、君は何を考え、何を語り、どう振る舞ったか? その記録はとても大きな意味を持つ。月日が経っても都度都度立ち返るべき1日になったと思う。チケット売り上げも好調で、視聴者とともに作り上げるスタイルが確立した。

今回の「劇場版センキョナンデス」はこの2回の選挙取材の素材を編集して作ったものだ。プロデュースは制作会社ネツゲンの大島新さんと前田亜紀さん。きっかけとなった大島監督にお願いすることになった。映画化企画の相談をしたら制作を請け負ってくれたのだが、その際に前田さんからドキュメンタリー映画を作るのに必要な予算が提示された。撮影が済んでいる前提でも必要額は760万円。これは宣伝費などを含まないミニマムな額だという。僕と鹿島さんは、この時も必要な予算を公開することを選んだ。必要な金額を最初に公表し、トークライブ「映画資金パーティー」を開催、Tシャツ、パーカーといったグッズも作り、売り上げを映画制作資金に充てていく。さらにエンドロールへのクレジットという条件での一口5万円の個人スポンサーも募集した。視聴者ととに作り上げる映画だ。

ロフトグループからの出資も含めて資金は1,000万円近く集まった。ここで宣伝が打てる余裕が出来たので街宣車、ウグイス嬢を雇った街宣活動が可能になったのだ。
 

ここでは多くの選挙映画ボランティアが集まり、チラシやのぼり、襷の準備から会場の設営、チラシ配りまで手伝ってくれた。映画というものが実際のお祭りのように路上に出ていく。これも視聴者と作りあげる過程での出来事。

だが、先はまだ長い。ネツゲンは制作、編集、宣伝などを引き受けてくれているがドキュメンタリー映画でのヒット水準といわれる動員1万人ではまだ赤字だという。ここからは公開された劇場にどれだけの視聴者が足を運んでくれるか? にかかってくる。

僕らは可能な限り必要な経費も公開して映画自体も記録として残す意図でやっている。公的立場の人たちが資金パーティーで不正をしたり、公文書をすぐに廃棄したり、データを改竄したりしなければ世の中はもっとちゃんと回るのではないか? 視聴者とともに作り上げる映画はどんな姿になっていくのか? 楽しみでならない!

『劇場版 センキョナンデス』公式サイト
 

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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