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礼はいらないよ

2024.05.30 公開 ポスト

「あの頃の悪夢」論法は同じ?英スナク首相“解散劇”に見る日本との「類似点」と「相違点」ダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

英国下院(庶民院)議員選挙が7月4日に行われることになった。スナク首相の雨の中の宣言は、労働党が支持率で20ポイントほどリードしている現実と合わせたらやり過ぎな演出にも感じられた。

(写真:wikimedia commons)
 

英国では2022年に法改正がなされ、首相による自由な解散権が復活している。

2011年に下院の三分の二の賛成が得られなければ解散できないというかなり厳しい制限が付けられた。ブレグジットの採決の際、当時の首相のボリス・ジョンソンが議会を解散しようとしたが何度も阻まれる事態が発生。その際の国政の混乱から2011年以前の状態に戻す法改正がなされたのだ。

ちなみに議会解散権は国王大権とされ、国王が命じる体を取っているが、実質、首相の判断で行える。僕は日本の首相の自由な解散権には疑義を呈してきた。天皇の輔弼(ほひつ)という言い訳で解散権を行使する7条解散もおかしいと思うが、発想は英国議会に基づくのだろう。

じゃあ日本と同じじゃないか! と思う向きもあるだろうが、明確な違いがある。

英国は二大政党制が確立している。与党は「国王陛下の政府」と呼ばれ、野党は「国王陛下の野党」と呼ばれる。両院制なのも一緒のように見えるが、上院は貴族院であり、下院である庶民院の決定が優越する。

英国の主権は議会にあり、両院と国王の三者で議会が成立している。ただ、国王は「君臨すれど統治せず」という儀礼的立場である。

以前、この連載でエリザベス2世の国葬を取り上げたが、英国王という存在の大きさというか強かさはこの儀礼的立場の効果を最大限に活用しているとも思うが、庶民院の決定が優越するという構造上、民主主義社会としても機能していて非常に良く出来ている。

米国における二大政党制の分断による影響は英国でも深刻なはずだが、この国王の儀礼的立場が二大政党という在り方を保たせている。二大政党制を保つには英王国のような明確な器が必要だということだろう。

スナク首相が解散を宣言した後、すぐに労働党のスターマー氏が動画をXに投稿している。キーワードは「チェンジ」だ。

二大政党制の場合は、今回のような予想外のタイミングでの解散に対しても準備はしやすい。影の内角を組閣して常に臨戦体制を取ってきたからだろう。保守党政権は14年間続いている。この後の5年間をどうするか? 二大政党制ならば常に政権交代という選択肢がある。スナク氏は国際情勢の混乱を挙げながら、この状況で必要なのは実行力であり、ノープランな野党への変化ではないと訴えている。

このロジックは長期政権に就いている側がよく使う手法だ。あの頃に戻って良いのか? 我々も満点ではないが、それでもあの頃よりは良くなっているという話だ。ただ、英国の場合はブレグジットという明確なターニングポイントがあるため、あの頃はぼやっとした記憶に留まらないはずだ。

僕がロンドンに住んでいた80年台は保守党のサッチャー政権だった。労働党の党首はニール・キノック氏。街の中にはそれぞれのポスターがあちこちに貼ってあった。1985年の労働党大会におけるキノック氏の演説を聞いてみたら、スタンスやテンションはスターマー氏と近いと感じた。このシンプルさ、変わらなさが英国社会の一つの特徴であり、二大政党制が機能する所以でもあると思う。

翻って日本を見てみると、英国における二大政党制を担保するような条件が全く整っていないように感じる。条件が揃ってない土壌に二大政党制を前提とした制度だけを乗っけてしまったが故に、英国とは似て非なる政治状況が生まれている。

今回の英国の解散劇を見ながら、日本ではこうした政権交代をめぐる状況は生まれないが、制度上は与党と対抗する一つの野党を組織しなければ制度を変えることすら出来ない。二大政党も生まれなければ、多党制を前提とする制度に変える議論のスタートにも立てない。

この事実に雨のスナク首相どころではないずぶ濡れ感を感じた。英国は労働党政権になったところで直ちに好転はしないだろう。それでも、変える選択肢の先を想像できるのは良いことだと思った。

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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