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礼はいらないよ

2023.01.21 更新 ツイート

「乱世、来る」ブラジルに住む友人の一時帰国で知るボルソナロ派暴動の意味 ダースレイダー

ルーラ(左)とボルソナロ(左) photo by Wikimedia Commons

アメリカ2021年1月6日という乱世の始まり

 

高校の同級生の杉浦がブラジルの首都、ブラジリアで日本料理屋を10年やっている。ブラジリアは日本でいえば霞ヶ関。大統領府に議事堂、裁判所などの官公庁が集まり、そこで働く人々が暮らしている。高収入の人も多く、そんな場所で日本料理屋を営業するのはなかなか良い目の付け所だと周りも評価している。彼が年末年始、日本に帰省するというので友人で集まることにした。

僕も杉浦もサッカー部。当時、部活から一緒に帰っていた4人で集まることになった。ブラジルを離れる前に彼からメッセンジャーで連絡が来る。

「今から日本帰ります! ちなみに空港への道、ボルソナロ支持者が封鎖してて通れないのでまずは空港に辿り着くのが第一関門」

というような内容だ。2022年10月30日にブラジル大統領選挙の決選投票が行われ、50.9%の票を得たルーラが現職ボルソナロを破っていた。選挙前の多くの世論調査では11人の候補の中でルーラが過半数を取ると思われていたが実際の得票率は48. 4%。この時点でボルソナロは43. 2%を取っていて、決選投票でも差は僅かではあった。ブラジルでも政治的分極化がかなり進んでいるのだ。そして、選挙結果が出てもボルソナロを支持する人たちの一部は選挙結果を認めず、抗議運動を続けていた。ボルソナロ本人は敗北宣言はせずに米国フロリダのオーランドに行ってしまう。

11月から12月には、カタールでサッカーのワールドカップが開催された。僕は個人的に今大会のブラジル代表チームが好きで試合を楽しんでいたのだが、ブラジル代表に関しては別の話題も出てきた。

ブラジル代表チームはセレソンと呼ばれ、そのユニフォームは国旗の黄色、緑、青をあしらった鮮やかなものだ。サッカーのフィールドをこの黄色いユニフォームがパーっと一斉に動いていく様子は実に美しいのだが、ボルソナロ支持者たちも好んでこのユニフォームを着用していた。彼らの右派的スタンスと強いブラジル代表の国旗をあしらったユニフォームの相性は良いだろうが、セレソンのユニフォームがボルソナロ支持者のユニフォームでもあるかのような印象になってしまい、反発が起きていたのだ。

さらにチームの中核にして世界のトッププレイヤーでもあるネイマールがボルソナロ陣営のキャンペーンソングに合わせて笑顔で踊る投稿をTikTokにしたことも波紋を呼んだ。多くのSNSユーザー、そして特に左派メディアから批判された彼はTwitterでこう反論する。

「彼らは民主主義だとかいろいろ話しているが、誰かが違う意見を言うと、民主主義を主張する彼らから攻撃される」彼らと僕ら、なのだ。

年始の1月7日、僕らは集まった。杉浦にボルソナロ派の道路封鎖について聞いた。

「店の仕入れも遅れちゃうんだよ。トラックとか止めちゃうからさ」

皆がえーっと驚く。

「まあ、でも政権移行も進んでるし、そろそろ落ち着くんじゃないかな?」

同席していた同級生の石谷はNHKでドキュメンタリー番組を作っている。先日、日本のブラジル移民を取材したところ、日本にいるブラジル人のほとんどがボルソナロ支持だったことに驚いたと言う。海外でコミュニティを作るとき、”強い”祖国が自分たちのバックボーンになる。ただ、彼らのその心境に日本社会というパラメーターがどう働いているのかも気になるところだ。

楽しい宴だった。2日後、1月9日の朝、CNNの報道を見て驚いた。ボルソナロ支持者たちが大統領府、連邦議会、最高裁判所に侵入し破壊行為に及んだのだ。完全に2021年1月6日のアメリカ議事堂乱入事件と同じ光景だった。

僕はアメリカが1月6日についていまだに政治的な決着をつけられないことにも驚くが、その影響がブラジルでも同じ形で現れたようだ。1.6は世界史的出来事だと思ったが、これは一つの事件ではない。これから起こる一連の出来事の始まりなのだろう。僕は最近は口癖のようにこう言っている。乱世、来る。

「近くの美容室が窓ガラス割られて強盗にあったみたい……うちは大丈夫だったけど」

杉浦からはこんなメッセージが届いた。ブラジルではルーラが軍を出して関係者を次々と逮捕、早急な事態鎮圧に動いているが、これは一時の出来事ではないだろう。そして、アメリカのニューメキシコでは中間選挙に落選した共和党議員がガンマンを4人雇って民主党議員の自宅を銃撃させた容疑で逮捕された。銃弾は10歳の娘の寝室を貫通したという。もう次の時代は始まっている。そして、これは乱世だ。

 

【お知らせ】

ダースレイダーさんとプチ鹿島さんが監督・出演を務める政治ドキュメンタリー映画『劇場版 センキョナンデス』が2023年2月18日(土)より渋谷シネクイント、ポレポレ東中野 ほか全国順次公開になります。

『劇場版 センキョナンデス』公式サイト
 

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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