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めぐみの家には、小人がいる。

2022.11.29 公開 ポスト

15話 交換日記を奪おうとしたいじめっ子が見たものとは?滝川さり

オカルトホラーの新星、滝川さりさんの新刊『めぐみの家には、小人がいる。』の試し読みをお届けします。

机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔はあなたを狙っている――。

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めぐみのことを白井に報告すると、彼は今朝の中村真奈の一件も忘れて美咲を褒め称えた。それはよかった、いや、立野先生の熱い想いは必ず子供に通じると思っていましたよ。ですが、浮足立たないように。このときの対応で、彼女が今後も登校できるかが決まるのですから──

満足げに自席に戻っていく白井の背中を見て、芝田が肩を竦めていた。

早歩きで三年二組の教室に戻ると、めぐみは席に座ったままだった。周囲の子は誰も席についていない。ぽっかりと空いた空間で、彼女は次の授業の教科書を読んでいた。美咲が教室に入ると、わずかに表情を綻ばせる。天妃愛たちは、天妃愛の席に集まって談笑している。自分がいなくなった途端にちょっかいを出さないか心配だったが、何事もなかったらしい。

美咲はなるべく、休み時間も教室で過ごすことにした。昼休みになっても、誰もめぐみに話しかけようとすらしない。他の子たちが仲良しグループで机をくっつけて給食を食べる中、めぐみは一人ポツンと取り残されていた。いたたまれず、美咲は椅子を持っていってめぐみの机で一緒に食べた。

だが、旧ゲオルグ邸のときとは違い、めぐみは一言も話そうとしなかった。うつむいたままチビチビと給食を口に運ぶばかりで、美咲が話しかけても首を横か縦に振るしか反応がない。仕方のないことだった。

午後の授業が始まる頃には、めぐみの登校というインパクトは薄れつつあった。

めぐみは真面目に授業を受けていたが、さすがにあてて答えさせることはしなかった。今日はとにかく、波風を立たせずに過ごすことが大事だ。

そうして、放課後がやってきた。

『帰りの会』が終わり、美咲はホッとした。結局、めぐみはクラスメイトの誰とも話さなかったようだが、今日はそれでいい。

椅子と机が教室の後ろにやられ、掃除当番の子たち以外は教室を出ていく。ランドセルを背負っためぐみに、美咲は声をかけた。

「小紫さん。ちょっといい?」

顔を上げためぐみは、口を一文字に結んでいた。

「ノートを渡すから、先生と職員室まで来てくれる?」

交換日記とは口に出せない。めぐみはすぐに察したようで、こくんと頷いた。

(写真:iStock.com/Pornpak Khunatorn)

二人で教室を出てすぐ、美咲はこっそりと「めぐみちゃん、一日頑張れたね。えらいね」と褒めてあげると、めぐみは少し頬を赤らめてはにかんだ。

「明日からはどう? 来られそう?」

少しためらってから、彼女は首を縦に振った。

 

職員室前の廊下でノートを渡したそのとき、

「それ、何のノート?」

間に割って入ってきたのは、いつの間にかそこにいた天妃愛だった。

彼女の後ろには、西沢詩音と根本きらりが立っている。多分、どこかでめぐみに絡んでやろうと教室から追ってきたのだろう。美咲はつい嘘をついた。

「……宿題のノートだよ。返してただけ」

ふーん、と天妃愛は薄ら笑いを浮かべた。母親によく似たつり目が、生き生きと輝いている。すると、彼女はぞんざいに片手を伸ばして「見せて」と言い出した。

「何で? 小紫さんのノートだよ」

「いいから早く」

美咲はあっけに取られた。「自分以外の存在は自分の言うことを聞く」と信じて疑わない人間の物言いだった。どんな親ならこんな風に育つのだろう。

めぐみは動けずにいた。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

天妃愛が近づき、めぐみの手にあるノートを掴む。

「ちょっと──」

「触ったらママに言いつけるから」

肩に置きかけた美咲の手を、天妃愛はその一言で制した。

「叩かれたって言うから。そしたらママ、また学校まで来るけど、いいの? センセー」

挑発的な眼差しに、今度は美咲が動けなくなる。それがどうした、大人を舐めるな。そう言ってやりたかった。

だが、中村真奈に対する恐怖心は骨の髄まで染み込んでいた。

天妃愛がノートを奪おうとし、めぐみは必死に抵抗する。宿題のノートという嘘は明らかに見抜かれていた。天妃愛は、どうしてここまでノートに固執するのだろう。天妃愛のような人間は、他人の弱みを嗅ぎつける嗅覚に優れているに違いない。

数秒間の引っ張り合いが続き、先に手を出したのは天妃愛だった。彼女はやにわにめぐみの髪の毛を引っ張り始めた。めぐみは声を出さないまま痛がる表情を見せ、そしてノートを抱いたまま亀のように廊下にうずくまろうとした。

しかし天妃愛はそれを許さなかった。無理やりめぐみの身体を仰向けにさせ、自分より小さなめぐみに馬乗りになった。ごっと鈍い音がした。

周囲では、異変に気づいた子供たちがざわざわとし始めている。

「やめて! いい加減にしなさい!」

声を荒らげた瞬間、天妃愛がぎゃあと叫んで尻餅をついた。

美咲は、めぐみが天妃愛の手を噛んだのかと思って駆け寄ったが、手は何ともない。

天妃愛は、目を見開いていた。

「お……お前、何、それ……?」

彼女の声は震えていた。めぐみは起き上がり、ノートを胸に抱いて天妃愛を睨みつけている。すると、天妃愛は床に手をついたまま後ろにずり下がろうとする。普段の彼女の態度からは想像もできない怯えっぷりだった。

「ソフィアちゃん、大丈夫?」

「どうしたの?」

詩音ときらりが駆け寄ったが、天妃愛は「気持ち悪い」とつぶやくと、足早に走り去ってしまった。めぐみもまた、ノートをランドセルに入れると、さよならのあいさつもなしに廊下を駆けていった。美咲が呼び止めても無駄だった。

……失敗した。最後の最後で、めぐみに嫌な想いをさせてしまった。

すぐに止めに入っていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

明日からまためぐみは、学校に来なくなるだろう。

関連書籍

滝川さり『めぐみの家には、小人がいる』

群集恐怖症を持つ小学校教師の美咲は、クラスのいじめに手を焼いていた。ターゲットは、「悪魔の館」に母親と二人で住む転校生のめぐみ。ケアのために始めた交換日記にめぐみが描いたのは、人間に近いけれど無数の小さな目を持つ、グロテスクな小人のイラストだった――。 机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔は、あなたを狙っている。オカルトホラーの新星、期待の最新作!

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