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めぐみの家には、小人がいる。

2022.12.08 公開 ポスト

19話 小人が殺してくれたという、穴だらけの猫の死体を見つける――。滝川さり

オカルトホラーの新星、滝川さりさんの新刊『めぐみの家には、小人がいる。』の試し読みをお届けします。

机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔はあなたを狙っている――。

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職員室では、拷問のような時間が待っていた。

すみません、軽率でした、申し訳ありません──美咲は、思いつく限りの謝罪の言葉を繰り返した。言い返す気など起きなかった。一刻も早くこの苦痛の時間が終わることを願っていた。幸いにも今回の真奈は一方的にしゃべっていた。何が言いたいのかよくわからなかったが、美咲が教師としての資質に欠けることを懸命に証明しようとしているように聞こえた。

白井は応接室に通そうとしたが、真奈は職員室から動かなかった。他の教師の前で、美咲を見せしめにしたいのだとわかった。美咲を辱め、自分の恐ろしさを教師たちに知らしめる、一挙両得の手だった。

解放されたのは一時間後で、窓の外ではいつの間にか激しい雨音が響いていた。

真奈は、これからママ友と約束があると言って出ていった。そうでなければ、あと一時間は続いていただろう。

「交換日記はもうしないこと。いいですね?」

白井がそう美咲に言いつけた。いや、真奈だったかもしれない。頭の奥が痺れて、よくわからなくなっていた。

今日はもう退勤してください。これは白井が言った。放心状態になった自分を見かねてのことだろう。

小学校を出た美咲は、めぐみたちを探した。きっとまだめぐみはいじめられている。そんな確信があった。でも、どこにいるだろう。

唐突に頭をよぎったのは、天妃愛の声だ。

悪魔退治。

美咲の足は、自然と〈悪魔の館〉──旧ゲオルグ邸に向かっていた。

 

時刻は午後四時で、雨のせいで気温はどんどん低くなっていった。

高台から見える神海の街は雨にけぶっている。曇天と水平線の境界が灰色に潰れていた。遠くに微かに見える赤と白のクレーンだけが、港の位置を教えてくれる。夜の足がいつもより早い。じきに辺りは真っ暗になるだろう。

美咲は走った。濡れた石畳に何度も足を取られそうになる。そうしているうちに、傘の上で弾ける雨粒の音がますます大きくなっていく。

すっかり見慣れた森の小径を抜けると、旧ゲオルグ邸が現れる。

(写真:iStock.com/NAPA74)

夕闇の中、〈悪魔の館〉は膝を抱えて夜を待ち望んでいるようだった。

電気は点いていない。誰もいないのか。フラワースタンドの横を通ろうとしたとき、

 

きし……きっ……

 

雨音に交じって──何かが軋むような音が聞こえた。

硬い何かが擦り合わさる音にも思える。

きし……きし……きし……

何の音だ。スタンドが軋む音か。家鳴りか。小動物の鳴き声にも聞こえる。

きし……きしっ……

き……きし……

きし、きし、きぃ……

音は増えていった。共鳴するかのように。

集中しないと拾えないくらい微かだったそれは、やがて美咲の聴覚を支配した。

何だ、この音は。

足が無意識に一歩、後ろに下がった。

すると、ぐにゃりと柔らかいものを踏んだ。

美咲は飛び上がって、踏みつけたものを確認する。

それは地面から飛び出た──黒い塊だった。雨で視界が悪くてよく見えない。

木の枝だろうか。もっとよく見ようと近づいて────先に鼻が反応した。

ひどい腐敗臭だ。そして、嗅覚が視覚を補正した。

 

泥の中から突き出ていたのは、黒い猫の足だった。

 

すぁっと息を吸って、口に手を当てた。反射的な行動だった。

足の根本には、土を被った胴体らしきものが見える。しばらくフリーズして、美咲はめぐみが猫の死体を家の前に埋めたと言っていたことを思い出した。恐らく、あまり深く埋めることができず、この雨のせいで出てきてしまったのだろう。

どうしようか迷って──美咲は、埋め直してあげなければと思った。だが、手を近づける勇気は出ない。仕方なく、足で周辺の泥を寄せ集めようとする。しかし失敗して、むしろ胴体にかかっていた土をよけてしまった。

猫は、お腹の一部の毛が抜け落ちて、地肌が露わになっていた。

ドス黒く変色した──小さな穴がたくさんあいた肌が。

 

今日、いたずらねこを、小人がころしてくれた。

 

吐かずに済んだのは、薄闇でよく見えなかったおかげだ。

 

ねこは、ぎゃあとか、ふぎぃとか、言っていた。
にげようとしたけど、小人は、にがさなかった。
どんどん、まっ赤になって、さいごは、家の前でしんだ。

 

本当だったのだ。日記に書かれていたことは。

見せられないと言ったのは、美咲が群集恐怖症だからだ。

 

小人は、おこると、すごくこわい。

 

よろよろと死体から離れて、スタンドにもたれかかる。

何かが擦れるような音はまだ続いている。

風が吹く。雨が横殴りになる。木々が揺れてざああと森が鳴る。

逃げ出したかった。けれど、胸騒ぎがしていた。

関連書籍

滝川さり『めぐみの家には、小人がいる』

群集恐怖症を持つ小学校教師の美咲は、クラスのいじめに手を焼いていた。ターゲットは、「悪魔の館」に母親と二人で住む転校生のめぐみ。ケアのために始めた交換日記にめぐみが描いたのは、人間に近いけれど無数の小さな目を持つ、グロテスクな小人のイラストだった――。 机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔は、あなたを狙っている。オカルトホラーの新星、期待の最新作!

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