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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

2022.11.18 更新 ツイート

#32

名工の技、匠の味をダブルで楽しむ夜 京町家リノベ編 相場英雄

〔使用機材:Fujifilm X-T30 XF16-55,Fujifilm X100V〕

リノベーションを施した名割烹の客席(カウンターのみ)。築90年の建物とは思えない。
 

少し前のことになるが、ルーティンとして京都へ行ってきた。かれこれ10年、年に2、3度の割合でこの街を訪れている。その度に、忙しない東京で暮らす浅はかなモノカキはこの街の奥深さを思い知らされる。

さて、本稿を書くために訪れたのは祇園祭、五山送り火が終わった晩夏のある日。もちろん、人混みを嫌っての上洛だ(宿代やらが平時価格に=本欄の取材はフルメタル自腹のためコストは大切)。

そして当欄の第5回〈念願の鮎、切望の同伴 京都の夜編〉において、京都の名割烹を取り上げたとおり、天然の鮎を食いに行ったわけだ(第5回を読んでから以下の拙文にお目通しのほどを)。

 

もう一つの目的が、この名割烹が移転し、再スタートを切ったことから、新しい店舗を見たいという心理も働いた。

実は昨年の段階で、割烹の大将と女将から、京町家の良い物件を見つけたと知らされていた。市内中心部の中京区某所、鴨川に近い築九〇年の物件だ。

ちなみに京町家とは、戦前に同市内に建てられた木造住宅のこと。間口が狭く、奥行きが深い〈うなぎの寝床〉が特徴とされる。

今年3月、実際に工事中のこの物件を見学に行き、仰天した。まずは古い建物にも関わらず、傷んでいる箇所が予想以上に少なかったこと(築20年、あちこち外壁が痛んだ拙宅と比較するとほとんど奇跡レベル)。

改装前の客席。90年前の梁や柱、壁材が見える。
改装前の二階(店主たちのスペース)。傷みが進行している部分も散見される。

そして昭和初期のモダンな様式がそこかしこに残っていたのだ。二点目は、リノベーションを担当する職人さんたちが、京都に数多ある世界遺産の修繕を担う宮大工の皆さんだったことだ。

当然、歴史ある建物の構造を熟知した宮大工集団。90年前の柱や梁の具合を精緻にチェックした上で遺せる物は遺し、あとは新しい木の部材で補強し、修繕するというスタイルなのだ。実際にその仕事ぶりを見せていただくと、組手や継手など釘をほとんど使用しないでリノベを施していた。

古い梁、柱に新しい木材を継ぎ足していく。匠たちの技
組手、継手など熟練の宮大工の仕事は寸分の狂いもない。

不器用でDIYなど絶対無理(欧州家具量販店の椅子の組み立てすら怪しい)な私の目から見ると、まごうことなき神業の数々なのだ。

京町家の多くが、数十年後の改築を予見して建てられているとか。そしてかつての造り手の思いを受け継ぐ職人集団が残っている街とは、どれだけ懐が深いのか。

私の住む東京では、古い街並みを躊躇なく破壊することを〈再開発〉と言う。そしてどこの繁華街でも同じようなビルが建ち、大手チェーン店のテナントが入居する。こうした街並みに辟易すると、私はきまって京都を訪れたくなるのだ。

さて、移転後初めての名割烹はどうだったか。とても築90年とは思えない。もちろんエアコンなど空調設備や調理にかかわる器具は最新なのだが、鴨川方向から流れる風が町家の中を通り抜け、なんとも居心地が良いのだ。京町家は人が集い、憩えるように作られているのかもしれない。

改装後の二階スペース。ガラス戸を開けると、鴨川から風が吹き込んでくる。
改装後の二階スペース。家賃払って住みたいくらい居心地が良い。
女将専用の茶室前のタイル。90年前のデザインをそのまま使用。
町家のそこかしこに90年前の飾りが残っている。

この旅でも、和歌山富田川の天然鮎のほか、鱧や岩牡蠣など季節の素材をたらふくいただいた。

季節感溢れる先付け(取材当時)。もちろん全部美味い。
和歌山・富田川の天然鮎。大将と女将が釣り上げ、調理直前まで生け簀に。
稀少な炭を使って鮎を炙る。もちろん、頭から丸ごと、骨まで食べる。
女将がこつこつ集めた食器類。もちろん現役。

さあ、次はいつ上洛しようか。

例によって店名や連絡先は掲載しない。ご自分で探し出し、かつ“一見さんお断り”の京都ルールを乗り越えてご来店いただきたい(すげー感じ悪いな)。

鴨川近くの店舗前。植木の奥に長い廊下がある。

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食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』、『KID』(ともに幻冬舎文庫)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。近著は『アンダークラス』(小学館)、『Exit(イグジット)』日経BP、『レッドネック』(角川春樹事務所)、『血の雫』(幻冬舎文庫)、『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)。「小説幻冬」で『サドンデス』連載中。

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