
一日一冊読んでいるという”本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。※書店の皆様、POPはどうぞ自由にご活用ください!
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第11回 劇団ひとり『浅草ルンタッタ』

こんにちは。どさくさに紛れて浅草で道草したアルパカ内田です。
新旧の価値観が蠢く街・浅草に、度肝を抜かれる物語が誕生した。時代は混迷する明治から大正期。さまざまな十字架を背負った女たちが流れ着いた置屋が舞台だ。店の前に捨てられた赤ん坊を仲間たちで助け合いながら育てていく。お雪と名づけられた少女の成長譚。これが一筋縄でいくはずがない。
闇の世界で地を這うように生きる者たちが味わう奈落の底。生き地獄のような境遇であっても不思議と暗さはない。艱難辛苦(かんなんしんく)の日々を癒すのは温かなユーモアであり、感情のすべてを吐き出せる歌声である。そして生きる糧となるのは、我が命と引き換えにしても守らねばならない愛おしい存在なのだ。
大らかな包容力と無償の愛が印象的だが、とりわけ終盤の展開は凄みさえ感じられて息をのむ。読者を引きこんで離さない圧巻のテクニックは、ステージの光と闇、現実世界の善と悪を知り尽くした劇団ひとりならでは。痛みを伴い流れ出る血もあれば、次の世代へと受け継がれるべく尊く巡る血もある。これが偽らざる人間の営みなのだ。
僕らが待ち望んでいた、むき出しの感動がここにある。
抜群のリズムと高揚感は最高峰の演劇を特等席で鑑賞したかのよう。『陰日向に咲く』で人々にスポットライトを当て、鮮やかなマジックのごとき『青天の霹靂』を用意する。著者にとって既刊2作品を収斂(しゅうれん)したような本書は、作家としての存在感を確固たるものにする特別な一冊となるはずだ。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
まさきとしか『レッドクローバー』

一方こちらは、現代社会のゆがみをまざまざと突きつけられる傑作ミステリ。
東京・豊洲のバーベキュー場で、ヒ素を使った無差別殺人が発生した。犯人の丸江田は、SNSで知り合い、その日初対面となる富裕層の人々を集めて、そのパーティを主催していた。具体的な動機は語らず、「ざまあみろって思ってます」という供述から、社会への鬱屈した恨みが丸江田を犯行に走らせたとみられていた。
この事件を追う雑誌記者の勝木が思い出したのは、十二年前、北海道の片田舎で起きた赤井家一家殺害事件。助かったのは当時高一だった長女・三葉だけ。供述が二転三転したこともあり、三葉の犯人説も根強かったが、決め手がなく結局迷宮入りしていた。勝木は丸江田と面会、一家殺害事件との関連を問うが、丸江田は「あのときの彼女、いまどこにいるんでしょうね」と謎の言葉を残す。やがて、丸江田には過去に札幌での逮捕歴があることがわかり、二人に接点があるのではと思い至るのだが……。
東京と北海道、過去と現在を行き来しつつ、読者は真相にたどり着く。その過程はとても息苦しい。ようやく真実が像を結ぶとき、この加害者も被害者ももしかしたら自分だったかもしれないと思い至るはずだ。三葉の過去や彼女を取り巻く社会の現実。人間の生々しさ、個としての人間よりも手に負えない「社会」や「集団」の怖さ。
読者はこの小説の深さに恐れおののくに違いない。この小説はすごいぞ!
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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