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物理の4大定数

2021.07.11 更新 ツイート

地球が丸いのは重力のおかげ 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
今回からは新テーマ「重力定数G」。重力という、か弱い力が宇宙をいまのような姿にしているという。

*   *   *

 
(写真:iStock.com/CIPhotos)

地球が丸いのは重力のおかげ

今回からの主題は重力定数Gです。

重力は私たちを支配している力です。私たちは生まれ「落ちる」と、床に寝転がって身動きもままならない状態にまずおかれます。

重力にあらがって初めて立ち上がると、家族から拍手を浴び褒めたたえられます。

雨は重力に引かれて天から降りそそぎ、低きに流れて川となり、山をけずり谷を埋め、そうした作用によって地球の丸いかたちが保たれています。天体が丸いのも重力のおかげです。

重力は生活や自然環境を支配するばかりでなく、宇宙の構造をも決定しています

地球や火星や木星などの惑星は、重力に引かれて規則正しく太陽を周回します。時計のように正確な天体の運行はニュートンの万有引力の法則にしたがいます

ニュートンの時代から技術が進歩して、電波やニュートリノや重力波などをとらえる新しい観測装置が、はるか遠方の奇妙な物理を映しだすと、宇宙の姿は一変しました。

きわめて強い重力を持つブラック・ホールという天体がそこかしこに浮かび、物質を飲み込んだり、衝突したりしています。宇宙はかつて「ビッグ・バン」と呼ばれる大爆発とともに誕生し、今も膨張を続けています。

重力定数Gは重力の強さをあらわす基礎物理定数です。

ニュートンの万有引力の法則によってデビューし、アインシュタイン(再び登場)の相対論でも活躍します。宇宙の誕生と成長を決定し、今あるような構造を作っている定数なのです。

(写真:iStock.com/vchal)

重力定数G登場

重力は、質量と質量の間にはたらく引力です。とりあえずこの段階ではそのように説明しておきます。

質量という言葉を普段づかいするかたはあまり多くないかもしれません。本連載ではさんざんこれまで使ってきたのに今さらですが、質量とは物質の量をあらわす基本的な物理量であり、「キログラム」で測られます。

水1 Lの質量は1 kg、成人の質量は40 kg~90 kgくらいです。

キログラムで測るならそれは「重さ(重量)」では、と思われるかもしれません。が、物理学では重さと質量は区別します。物理学では、物質の量をあらわすには質量とキログラムを用います。

一方、重さ、あるいは重量と呼ばれる量は、質量にはたらく(地球の)重力を指します。月に行くと体の重さは6分の1になりますが、質量は変わりません

じつは重さをキログラムで測るのは正しくなくて、力の単位で測るべきなのですが、それをやると世間の慣習とかけ離れてしまい混乱を招くので、ここではそれはやめておきます。

 

目の前においたボトル入りの水も人体も地球も月も太陽もどれも1個の質量です。

これらの質量の間には重力がはたらきます。ボトル水と人体は互いに引きあい、人体と地球は互いに引きあい、太陽と地球は引きあい、人体と太陽も引きあいます。

ありとあらゆるものは互いに引きあい、その組み合わせをすべて列挙するにはページもお使いのデバイスの記憶容量も足りません。ありとあらゆる万物が有する引力なので、万有引力とも呼ばれます。

これらの中で体感できるのは、地球が人体を引く重力だけでしょう。どんなに思いきり飛んだり跳ねたりしても、この力が地球に引き戻します。転ぶとひざをすりむきます。

1 m離れた1 kgの水が人体を引く力は、それに比べて30億分の1くらいなので、人間も現在のもっとも鋭敏な測定装置も、気づくことはありません。

このように、重力はか弱い力です。1 kgの質量を2個、1 m離した場合、両者にはたらく重力は6.67430×10-11 N(ニュートン)です。

突然現れましたが、「ニュートン」は力の単位です。史上最高の科学者とも呼ばれるアイザック・ニュートン(1643-1727)にちなみます。(誰が史上最高の科学者か、ニュートンかアインシュタインかそれとも他の誰かか、という熱い議論は別の機会にしましょう。)

(写真:iStock.com/olga_d)

1 Nの力を1 kgの質量に加えると、1 m/s2の加速度が生じます。1 Nは1 kg m/s2ともあらわされます。

1 kgの質量を2個、1 m離した場合、間にはたらく重力が6.67430×10-11 Nであることを、「重力定数Gは6.67430×10-11 N m2 kg-2」と言いあらわします。

Gは重力の大きさをあらわす基礎物理定数です。数字と記号がやたら出てきたことをお詫びします。

か弱いけれど宇宙を支配する重力

重力は電磁気力などの他の力に比べてか弱い力です。

たとえば、原子を構成する電子と陽子は、電気力で互いに引きあっています。電子も陽子も質量なので、両者の間には重力もはたらいています。

比べてみると、電子と陽子の間にはたらく重力は電気力の3×10-42倍、つまり1兆分の1の1兆分の1のさらに1兆分の1の100万分の3くらいです。

これほど弱い力を形容する言葉はちょっと見つからないほど弱いです。(ところで「圧倒的」という言葉は「強い」や「大きい」などを修飾するにはぴったりですが、「圧倒的に弱い」にはなんだか違和感を覚えます。)

電気力は重力を圧倒するため、電気力で引きあう物体どうし(たとえば電子と陽子)は軽々と重力を振りきってひっつき、電気力で反発する物体どうし(たとえば電子と電子)は重力をものともせずに別れて飛び散ります。

正や負の電気を帯びた物体が、そうやって電子などをやりとりして電気的に中性になると、そこで電気力は消えます。

そうするとこれは、電磁気の力は重力に比べて圧倒的に強いため、かえって中和されて消えてしまうという、ちょっと意外な事態になります。宇宙ではこういう現象がよく見られます。

一方、重力は中和することができません。重力を打ち消す「反質量」あるいは「負の質量」のようなものは見つかっていません。おそらくそういうものはなく、質量は常に正です。

中和できないので、大きな質量が集まると、か弱い重力も無視できない強さになります。

そうして宇宙では、電気的にほぼ中性な質量のかたまりが、互いに重力で影響を及ぼしあう光景が、あちこちで見られるというわけです。

たとえば地球と月、たとえば太陽と惑星、たとえば無数の恒星からなる天の川銀河などです。

(写真:iStock.com/den-belitsky)

地球や月のような岩石のかたまりや、太陽のようなガスのかたまり、天の川銀河などは、宇宙の始まりからそこにぷかぷか浮いていたわけではありません

地球や月や太陽は、46億年ほど前、宇宙をただよう希薄なガスやちりが集まって作りました。天の川銀河はそれよりもっと前の時点で、ガスやダーク・マターという正体のよくわからない物質が集まって作りました。

そしてそれらを集めてかたまりとしたのは重力です。

希薄なガス状の水素やダーク・マターの中に、わずかに濃い部分がたまたま生じ、そこは弱い重力の中心となって周囲のガスを引き寄せ、そのためにますます濃くなり、したがって重力もますます強くなり、徐々に巨大なガスのかたまりとなったのです。

これは単純化した説明で、実際の過程はガスのエネルギーや角運動量が外に放出されるもうちょっと複雑な工程ですが、基本的には天体を生みだしたのは重力です。

つまり、今あるような宇宙のかたちは、か弱い重力によって作られているのです。

その重力を定義する基礎物理定数が、重力定数Gというわけです。

 

●次回は7/26の公開予定です。

関連書籍

小谷太郎『宇宙はどこまでわかっているのか』

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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