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礼はいらないよ

2021.06.17 更新 ツイート

菅首相のG7「はじめてのおつかい」状態を笑えない ダースレイダー

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国際会議はテンパるものだ

 

G7サミットが開催された。

海外での報道からも、バイデン政権率いる米国が話し合いのテーブルに戻ったことを軸に、バイデン大統領の提案する枠組に各国が合わせる内容でとりあえずはまとまったようだ。

ホスト国英国のジョンソン首相は、パンデミックにおけるワクチンの10億回分を低所得国へ無償供給すると突如ぶち上げ、日本政府が事前に知らされていないといった事態も報じられた。パンデミック対策も気候変動も、実は米国による対中強硬政策という文脈で語られているのだが、「ワシントンタイムズ」では英国、フランス、カナダが同調するもドイツと日本が対中政策には経済面でかなり慎重で、特に日本の菅首相は以前から中国への対応で柔軟さを求めてきたと報じた。

「ガーディアン」はドイツのメルケル首相を対中慎重派として名指し。ところが日本の「毎日新聞」は、ドイツとイタリアを対中慎重派の国として報じている。「ニューヨークタイムズ」ではトランプ政権の4年間がつくったG7諸国と米側の亀裂を修復できるか? という視点で報じていたが、この場合、世界で最もトランプ政権と親密だった日本は、そもそも除外されている。

海外報道では「五輪」という単語は登場しなかったが「産経新聞」は五輪への支持を得たと報じている。こうしたバラつきからも、日本という国はどうも変わった立ち位置でG7に混ざっている様子が窺えるが、これは菅首相本人の立居振る舞いからも現れている。

集合写真で手を挙げるタイミングも、歩調も、周りとずれてしまう。周りが談笑している時も、居心地悪そうに一人で孤立している。

一方、ビーチサイドで一対一で話し合ったバイデンとフランスのマクロン大統領のことは各国が報じている。記者がバイデンに「米国が戻ってきたと同胞各国に確信させることに成功したか?」と聞くと、バイデンはマクロンに向かって「彼に聞けば?」と振る。マクロンは「イエ~! 間違いないね」と答える。G7のセレモニー的側面から考えれば、事務方の擦り合わせて作られた共同声明より、こうしたパフォーマンスこそが外交メッセージとなる良い例だ。

僕と時事芸人のプチ鹿島の番組「ヒルカラナンデス」では、こうした菅首相の行動を「はじめてのおつかい」だと思って、後ろで「ドレミファだいじょーぶ」をかければしっくり来る、と話したが、一緒の写真に収まったあと、事務方が用意した原稿を読むのは、はじめてのおつかいとしてギリギリのラインだと思う。

ただ、僕はあまり笑えなかった。菅首相の気持ちはよくわかるからだ。

僕は各国のナイトカルチャーの代表が集まる国際会議ナイトメイヤーサミットに何度か出席している。日本での会話に慣れたまま、急にこうした舞台に放り込まれるとリズム感が分からず戸惑ってしまう。いつ移動するのか? 今の議題は? 誰が喋っているのか? 周りが阿吽の呼吸で進めていく流れに乗るのが難しい。

僕の場合、小学生レベルの英語は話せるが、英語で思考する英語脳に切り替えるのには2日ほどかかる。ましてや菅首相は英語が分からないから大変だろう。

初めてのナイトメイヤーサミットはアムステルダムで開催されたのだが、初めての国際会議に望む際には苦労した。日本側の事務方はとにかく形式にこだわり、どんな格好をしていくのか? とか、肩書きをどうするか? という議論に終始していた。

僕はサミット側と交渉してラッパーのZeebraを登壇させ、日本の風営法を巡る状況を説明する時間を10分貰うことに成功した。Zeebraはアーティストとして参加し、僕は実際の交渉担当として随行したのだが、僕の名義と肩書きに注文がついた。僕は本名が和田なので、それをWordupと表記して海外活動で使用している。しかし今回は、事務方として参加するのだからパスポートの名前で行くことを要求され、名刺の表記にもチェックが入った。スーツも揃えて失礼のないように、と確認が入った。

こうした心配は生真面目さに由来するのも分かるし、国内での儀礼的な場では重要視されているのも事実だ。菅首相の海外訪問ともなるとこうした形式の確認はそれこそ何重にもなされるだろうし、それらのメンタルへの縛りは菅首相および参加スタッフ全員に強く作用しているはずだ。

実際の本番ではZeebraは見事なパフォーマンスを披露し、その後のサミットでは常に存在感を発揮できる土台を作ったし、名義や肩書きにはなんの意味もなく、すぐにファーストネームで呼び合える仲間が何人もできた。でも事前の確認ごとに縛られたまま行動していたらとてもそういう関係は築けなかっただろう。

結局大事だったのは、「言うべきこと、伝えるべきことがあるか? それを伝える意思はあるか?」に尽きる。新庄剛志がニューヨーク・メッツ在籍時、ほぼ英語が使えないにも関わらず、チームメイトに身振り手振りでコミュニケーションできていた事例にヒントがある。形式は関係ない。挙手や歩調のタイミングが周りとズレることも、堂々としていればむしろ周りとの違いは好意的に捉えられることもあるだろう。

問題は、菅首相にあの場で本気で「言うべきこと、伝えるべきことがあったのか?」だ。そこが空虚であり、その空虚さを国内向けに必死で形式を保持しながら何かを成し遂げたかのように顔をしていることこそが滑稽な笑い話だと思う。

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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