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勉強って何のため?

2021.05.06 更新 ツイート

だから古典はおもしろい(第4回)

イエスの説得力の秘密は比喩にある 野口悠紀雄

古典とは時代を超越した作品であり、決して古くなることがない――。無類の読書家として知られる経済学者の野口悠紀雄さんは、次々刊行される経営書やビジネス書を乱読するより「古典」を読もう、と言います。なぜなら古典には、仕事や人生の深い洞察が凝縮されているから。そしてそれが今も役に立つから。勉強は自分の血肉にしないともったいない!大反響の『だから古典はおもしろい』(幻冬舎新書)から試し読みをお届けします。

 

巧みな比喩で、複雑な概念を伝えた

イエスが説教において用いたテクニックは、比喩です。

 
(写真:iStock.com/LigntFieldStudios)

イエスは、伝道にあたって、多くの比喩を用いました。というより、イエスの説教のほとんどにおいて、比喩が登場するのです。実際、聖書に、つぎのように書いてあります。

 

イエスすべて此等(これら)のことを、譬(たとへ)にて群衆に語りたまふ、譬ならでは何事も語り給はず。

(『我らの主なる救主イエス・キリストの新約聖書』改訳、日本聖書協会、マタイ伝、第13章、34)

そして、「なぜ譬(たと)えで言うのでしょうか?」との弟子たちの質問に対して、イエスは、「人々は理解力が低いからだ」と答えています。

確かに、比喩を用いれば、複雑な概念を分かりやすく伝えることができます。説得において、巧みな比喩は極めて有用で強力な武器なのです。

例えば、イエスは、「新しい葡萄(ぶどう)酒を古い皮袋に入れてはいけない」と言っています(マタイ伝、第9章、17)。

「大事なものや新奇な発想は、それにふさわしい環境に置け。そうしないと真価が発揮されない」と抽象的に言うよりは、ずっとよく分かります。葡萄酒も皮袋も日常的なものですから、「新しい葡萄酒でも古い皮袋に入れれば、まずくなる」ということが、誰にでも、直ちに分かるのです。

あるいは、「金持ちが天国に迎えられるのは、ラクダが針の穴を通るより難しい」とも言っています(マタイ伝、第19章、24)。

ラクダは、中近東ではごく普通に見られる動物で、しかもかなり大きいので、「これが針の穴を通るのは難しい」と直ちに理解できたでしょう。そして、貧しい人たちは、「自分たちは貧しいが幸せだ」と感じたことでしょう。

また、「わたしはぶどうの木で、あなたがたはその枝。もし人がわたしにつながっており、またわたしがその人とつながっていれば、その人は実をゆたかに結ぶ」(ヨハネ伝、第15章、5)と言っています。

これを聞いた弟子たちは、葡萄の木を想像して、イエスとのつながりを実感し、連帯感を強めたに違いありません。

葡萄の木には太い幹があり、幹や枝は複雑に曲がったり、絡み合ったりしています。つながっていないようにも見えるが、実はつながっています。そして、沢山の実がなっています。だから、「イエスと弟子たち」というイメージに結びつくのです。

もし、百合の花を持ち出したらどうでしょうか? あまりに単純な構造の植物なので、「イエスと弟子たち」という関係は想像できないでしょう。

比喩は、われわれも、さまざまなところで利用できます。

例えば、経済政策の議論をしているとき、「経済構造の改革とは手術のようなものだが、痛みを伴う。そのため、金融政策という麻薬が使われがちだ。しかし、それでは病気は重くなるばかりだから、痛みを伴うにしても構造改革が必要だ」といった主張をすれば、理解されやすく、したがって支持も集まるでしょう。

 

(最終回へ続く)

関連書籍

野口悠紀雄『だから古典は面白い』

「最近、本の質が落ちた」と感じる人が多いと聞く。無類の読書家であり経済学者の著者は、そんな人にこそ「古典を強くすすめる」という。「古典に新しい情報はない」と思うのは早計だ。組織のメカニズムを知りたければトルストイの『戦争と平和』、人を説得する術を知りたければシェイクスピアの『マクベス』。人が作った組織や人間の心理は昔から基本的に変わっておらず、トルストイやシェイクスピアといった洞察力を持った作家が書いたものは、現代人に多くのことを示唆するのだ。著者が推薦する本を読めば、そのめくるめく世界観に心浮き立つだけでなく、仕事で役立つ知識も身につくこと、請け合い!

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野口悠紀雄

一九四〇年東京生まれ。六三年東京大学工学部卒業、六四年大蔵省入省。七二年エール大学でPh.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、二〇一七年九月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『情報の経済理論』(東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、吉野作造賞)などがある。

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