1. Home
  2. 社会・教養
  3. 礼はいらないよ
  4. ミャンマーの不正を防ぐインクを作った日本...

礼はいらないよ

2021.03.17 更新 ツイート

ミャンマーの不正を防ぐインクを作った日本でメディアは政府の不正を監視できるか ダースレイダー

(From Wikimedia Commons)

アメリカ大統領選トランプ陣営との奇妙な相似形

 

ミャンマーから日々届くニュースには怒りと悲しみが溢れている。毎日軍部のクーデターに反対する市民がデモを行い、そこに軍が投入されデモを弾圧する過程で死者が多く出ている。

19歳のチェー・シンさんはデモに参加していて頭部に銃撃を受けて死亡した。その時彼女が身につけていたTシャツには「everything will be OK」と書かれていた。その後行われたとされる軍による検死で銃撃の責任は軍の治安部隊にはない、と発表されたが市民の多くは疑いを持っている。軍部はクーデター当初から情報のシャットダウンに務めてきた。ネットを遮断し、テレビからは国軍の放送のみを流した。それでもチェー・シンさんのニュースは世界を駆け巡り、彼女の希望が記されたTシャツのメッセージも瞬く間に広がった。

そもそも軍によるクーデターの口実は不正選挙だ。昨年行われた選挙でNLDが圧倒的な勝利を収めた結果に対し、軍部は不正を訴えたが具体的な証拠は提出できなかった。それでも不正選挙の訴えを辞めず実力行使に打って出て、アウン・サン・スーチー国家顧問らを拉致軟禁した。その後も口実とされる不正選挙の具体的な証拠は提出されていない。それでも軍部は、ある程度は”不正選挙”の存在を信じていたという指摘もある。

奇妙な相似形が見えてこないだろうか? この連載でも触れたトランプ川である。昨年の米国大統領選挙でも、トランプ陣営からは不正選挙が盛んに訴えられたが証拠は提出されず、裁判でも次々と敗訴した。それでもトランプ氏をはじめとした陣営側が不正の訴えを取り下げることはなく、今年の1月6日、米国史上に残る議場乱入事件が起こった。

これはクーデター未遂であり、実力行使による政権転覆を狙ったものだ。実際、議場に乱入した人々はペロシ下院議長やペンス副大統領を探していた。もし発見していたらどうなっていたか? スーチー顧問とは違う運命だっただろうか? あれだけの事件が起こったにも関わらず、共和党支持者にはいまだに選挙に何らかの不正があったと信じる人は多いという。多くの要因はあるだろうがメディアの在り方とメディアに対する信頼の在り方が一つの鍵だと思う。どういうメディアとの接し方をしているのか? 

ミャンマーの選挙では不正を防ぐための対策もちゃんと講じられていた。投票所にはインクが用意されていてそれを指につけるのだ。このインクは1週間程度落ちず、同日に別の投票所に行っても再投票はできない。これは国連から提供されたインクだが、実は日本製だという。日本のインクがミャンマーでの不正を防いでいたのだ。

最近、国内のメディアでは総務省への接待のニュースで持ちきりだ。そもそも菅総理の長男が勤める東北新社はなぜ総務省への接待をする必要があったのか? そこには日本のメディアの根幹に関わる問題がある。1952年、戦後最初の国会で決議された電波法によって放送免許は郵政省(のちに総務省に再編)の管轄となった。 

その後、ずっと放送メディアは政府によって免許を与えられる立場だ。これは先進国ではかなり珍しい。欧米の主な国では独立機関にこの権限を委ねているが、それはメディアの役割が権力の監視であることが前提だからだ。日本ではクロスオーナーシップにより新聞と放送メディアも同グループとなっているため、形としては主要メディアは全て政府に首に縄をかけられている状態だと言える。

日本はそんな状況で70年間やってきたわけだが、何も問題ないじゃないか! メディアは正常に機能している! と考える方もいるだろう。その点についても大いに議論があるのは、総務省接待の報道でこの点に触れる放送メディアが全然ないからだ。そもそもの”政府”に対して、例えばミャンマーのような事件が起こった時を想像して欲しい。ミャンマーの軍部はメディアをすぐに抑えにかかったわけだが、我々が無意識に「政府」と呼んでいる組織の中身が入れ替わったらどうなるか? すでに放送免許を与える権利は政府にあるのだ。そんな状況で国民が触れるメディアが、果たして本当に僕らの「知る権利」に応えてくれているだろうか?

チェー・シンさんの、そして多くのミャンマーでデモに参加している方々の悲報はそれでも世界の多くの人の知るところとなった。これもまたメディアの在り方の変化だ。それでも僕ら日本人はメディアとの関係を考えなければいけない。ミャンマーで選挙の不正を防いだインクを作った国の市民として、Evertything will be OKと大きく書くためにも。

{ この記事をシェアする }

礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

バックナンバー

ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP