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2021.04.17 更新 ツイート

アジア系へのヘイトクライムと、ステレオタイプな属性差別が起きる理由 ダースレイダー

(写真:iStock.com/Wachiwit)

ロンドンの地元の小学校で経験したこと

 

アメリカにおけるアジア系アメリカ人へのヘイトクライムは、カリフォルニア州立大学の調査によると、2020年度は前年度から149%増加した。パンデミック下で一気に件数が増えた背景には、当時の米大統領の発言が大きいと思う。

だが、そもそも欧米でのアジア系へのステレオタイプな決め付け、そしてそれに基づく差別は以前から存在している。ステレオタイプで人を見てしまう背景には、知識不足がある。知らない相手をステレオタイプで判断してしまい、それが差別だったり差別に基づく陰謀論まで引き出してしまう。アジア系がコロナを持ち込んだ。アジア系が感染を広げている。目の前にいる個人を見ないで属性でしか考えられない理由は、”知らない”からだ。

僕は「Dreamer」という曲でも歌っているが、10歳まではロンドンにいて地元の小学校に通っていた。たいていの日本人家庭の子供たちは、日本人学校に行き、日本のカリキュラムに従って教育を受ける。だから、僕はその地元の小学校の学年で唯一の東アジア人になった。友人は多く、彼らと日常付き合っているうちに英語も上達したので、僕は何不自由なく同じ学生だと思って学校生活を送っていた。元々ユダヤ人の多い地域だがインド人もインドネシア人もイラン人もポーランド人もベネズエラ人もいた。

ところが、その輪っかからちょっと出たところでは違ったようだ。食堂でプレートに載ったランチを食べていた。ナイフとフォークを使って。そこに数人の上級生がやってきた。ニヤニヤしながら歌を歌っている。「チャイナマン、チャイナマン」。僕のところに来ると、「箸を使えよ、ナイフとフォークは向いてないぜチャイナマン」と言ってプレートを床に叩き落とした。え? 何が起こったのかわからない僕を尻目に、彼らは笑いながら去っていった。床には食べている途中の肉やマッシュルームが転がっていた。

彼らはステレオタイプの差別をしていたし、背景には無知があり、そして目の前の僕という個人は見ていなかった。ただ、僕はそこを逆手に取る手段も持っていた。当時、忍者や空手が子供たちの間でブームになっていた。僕が「日本人はみんな忍者と空手の秘術を家で教わっている。3年後に相手を殺せる技もある」と言うと、彼らは震え上がった。

無知によるステレオタイプな単純化の馬鹿馬鹿しさが本当によく分かる。彼らの目の前にいる僕は、丸々とした小さな子供に過ぎなかった。そして彼らは、中国と日本の違いなど考えたことも無かったと思う。

近所の子供たちともよく遊んだ。一緒にサッカーしたり、自転車で遠出したり。僕が住んでいたのはフィンチレーというユダヤ人が多い地区で、道の角にはシナゴーグ(ユダヤ教の教会)があった。ユダヤ人は宗教上の理由で豚を食べないのだが、僕には全くその理由が分からなかった。金曜に食事に誘われると、頭に丸い帽子を乗っけられておじいさんの祈りを聞いた。これも意味が分からなかったが、彼らがそうした生き方をすごく大切にしていて、それが祖父のそのまた祖父に連なるものだということは理解できた。ドイツから引っ越してきたある一家は、祖父母の代の人たちが誰も生きていないと言っていた。その時、理由は言わなかったが今なら分かる。彼らはドイツから来たユダヤ人だった。

同じ道にアラブ人の一家も住んでいた。兄妹がいて彼らともよく遊んだ。兄は力強くサッカーが上手い。小さい妹はいつもみんなを必死で追いかけていた。僕らはみんな同じだ、と思っていた。ただの近所の友達。

ところがある日、ユダヤ人の友達とアラブ人の友達が殴り合いの喧嘩になった。僕は何が起こっているか分からず、ただただ悲しい気持ちになっていた。その後、アラブ人の兄妹は遊びに参加しなくなり、一家も引っ越して行った。

ロンドンから遠く離れたレバノンの状況が緊張感を増している中で、各家庭にもそうしたニュースが伝わり、そして多感な子供たちにも伝播していったのだろう。学校ではユダヤ人の同級生が無邪気に勝利の歌を歌っていたが、それはアラブに対する勝利を意味していたのも当時の僕は知らなかった。僕らはただ公園で駆け回っていただけで、お互い仲も良かった。ところがある時期からもっと大きい何かに所属してしまい、その論理に囚われてしまった。かけっこをしている時は何も関係なかったのに。

僕らはあまりにも何も知らない。知らないとステレオタイプに囚われ、属性で判断するようになってしまう。様々な生活様式があるし、自分と異なるものに接すると違和感を覚える。でも、同時に個々人は笑ったり、美味しそうに食べたりしていることも相手を知ることで分かる。それでも何年経っても、インターネットが普及しても”知らない”は減らないし、新たな”知らない”が生まれてくる。せめて自分たちが何も知らないことを知ること、そしてそこから知る努力を続けることを心がけたいと思う。

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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