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2021.02.12 更新 ツイート

少し欠けた、心やさしき家族のお母さんはグラビア「美魔女」 ながしまひろみ『鬼の子』(小学館) 中条省平

今回ご紹介するのは、ながしまひろみ『鬼の子』です。

 

A5判、オールカラー、上・下2巻、計666ページと、一見したところ大作のような感じですが、表紙に見るとおり、淡い水彩の色づかいが最高にチャーミングなマンガです。

そのみごとな色づかいに呼応するように、登場人物たちも確かな個性をもっているのに、自分を押しだすことを恥じるような、心やさしく、デリケートな人びとです。そう、マンガのキャラというよりは、人間として生きいきと息づいているのです。

主人公は、固有名をもたず、ただ「オニくん」と呼ばれる小学生くらいの年齢の、鬼の子です。髪の毛は天然パーマで、頭からは角が1本にょっきりと生えています。

どうやら桃太郎に退治された鬼の子供らしいのです。そのオニくんが、どういうわけか、中学生の福田みのると中学校の校庭で出会い、勝手に福田家について来てしまいます。

みのるは、母と子のふたり暮らしです。というのも、みのるの父親はけっこう有名なプロ野球選手だったのですが、ある日、突然、理由もなく家を出て、いなくなってしまったからです。

みのるは熱心な野球部員だったのですが、それ以来なんだかやる気がなくなってしまい、ついに部活動担当の先生に退部を告げます。

いっぽう、みのるのお母さんは、ちょっと色っぽい、鷹揚な(テキトーな?)性格の持ち主で、週刊誌で「美魔女」などと呼ばれてヌードグラビアに出ていたりします。蒸発した夫がそのグラビアを見て、自分のことを思いだしてくれるのを狙っているような気配もあります。

お母さんは根が楽天的なので、オニくんを自分の家に引きとって一緒に暮らすことになり、オニくんは近所の小学校に通いはじめます。

みのるは野球部をやめて暇なので、オニくんはじめ、小学校の生徒を集めて野球チームを作り、子供たちに野球を教えるコーチ兼監督になります。

そんなある日、みのるのお父さんらしき人の姿が、目撃されるようになります。お父さんは別の町の子供野球チームの監督をしていたのです。そして、みのるとオニくんのチームと対戦することになり……。

ひと言でいえば、人間ではない鬼の孤児が、無条件で自分を受けいれてくれる場所を得て、他者である人間の世界で生きていく力を培っていく物語です。

いっぽう、みのるも、みのるのお母さんも、オニくんと暮らすことで、新たな人生を発見し、一度はやる気を失ったみのるも生きる張りあいをとり戻していきます。そして、なぜかプロ野球選手と家庭の父という立場を捨ててしまったみのるのお父さんも、ふたたび別の人生を生きるようになります。

そんな喪失と再生の物語のつづれ織りが、読者に生きる勇気をあたえてくれるようです。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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