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マンガ停留所

2021.01.19 更新 ツイート

読みごたえ抜群!過酷な英会話教室勧誘の営業ウーマン&マンの群像ドラマ たかたけし『契れないひと』 中条省平

今回ご紹介するのは、たかたけしの『契れないひと』(講談社、全3巻)というマンガです。

作者は、40歳にして初めてこのマンガを単行本として出すことができた新人です。

 

マンガ家になるために14年前に上京して、2年前にようやくある雑誌でマンガ賞を受賞してデビューしたものの、人間関係で心が折れてその雑誌をクビになり、コンビニでその雑誌をタダ読みしては最終ページの編集者の言葉に毒づいたりしていた、という過去の持ち主です。

本書『契れない人』は、子供の英会話教室への勧誘をおこなう戸別訪問販売員(契約のためのアポを取ることから「アポインター」というらしいのですが)を務める若い女性、野口舞子をヒロインとして、その仕事の内幕を誇張して描くギャグマンガです。

作者のたかたけし自身が、この「飛びこみ営業」の仕事をしていた経験があり、それは面白そうだから描いてみたらと「ヤングマガジン」の担当編集者から誘いを受けたのですが、その仕事はあまりに辛い思い出だったので、悩んだというのです。

というのも、その仕事をしていると、自分が人間じゃなくなるような場面や感覚に襲われることがしばしばあったからです。

しかし、連載を始めてみると、そういう悲惨な経験は笑うしかないということに気づき、だんだん自分が救われていくような気持ちになったそうです。

そう、この誇張を重ねる強烈なギャグマンガには、それを描いている人間の魂の救済が賭けられていたのです。そこがこのマンガの、たんに笑わせられるだけではすまない、凄みの感じられるゆえんなのです。

登場する人々は、ゴミ屋敷に住んでいて訪れる勧誘員の女性をことあらばクンニにもちこもうとするような元ヤクザの老人とか、死んだ夫を模して娘が作ってくれた木彫のコケシを貯めこんでいるシワシワの老婆とか、まあ、まともな人はほとんど出てきません。

とくに異常なのは、ある家のコロという飼い犬で、この獰猛な巨犬はあろうことか野口舞子を愛してしまい、同じく舞子を愛したストーカーの美青年と舞子を争いあう始末です。

つまり、あまりにも常軌を逸しすぎて幻想奇譚の領域にも突入しかかっているのですが、その面白さはこのマンガの一面にすぎません。

なんといっても一番の読みどころは、舞子と一緒に英会話教室の営業をおこなう先輩、後輩、同僚のスタッフたちとの人間模様です。

なかでも秀逸なのは、舞子の直接の上司である中野主任です。中野は肉体的なパワハラを得意とする凶悪な男ですが、女性の多い職場で女性社員が酒盛りでもりあがるなか、酒を飲めずに、性悪な愚痴を執拗にねちねちとくり出すほか、妙に繊細な心配りを見せるなど、その人間像に厚みと陰翳があります。

ほかの登場人物もひと癖もふた癖もあって、群像劇としての読みごたえが抜群です。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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