1. Home
  2. 社会・教養
  3. 礼はいらないよ
  4. 誰もが「息のできる」社会のためにジョージ...

礼はいらないよ

2020.06.03 更新 ツイート

誰もが「息のできる」社会のためにジョージ・フロイドの殺害を対岸の火事にしてはいけないダースレイダー

(写真:Wikimedia Commons)

アメリカのミネソタ州で5月25日、黒人のジョージ・フロイド氏を白人警官デレク・ショービンが手錠をかけた状態で約9分間、膝で首を地面に押さえつけた。フロイド氏は途中で意識を失い、病院に搬送されるも死亡した。この動画がネットで拡散されるやいなや全米で人種差別に抗議する人々が溢れかえり、各地のデモが暴動に発展していく。

 

ショービンは最初解雇されたに過ぎなかったが、5月29日に第3級殺人罪で逮捕される。それでも抗議の声は収まらず、そこにトランプ大統領が、抗議する市民をただの暴徒扱いした上で暴力を煽るツイートをして混乱はさらに増加する。

アメリカでは何が起きているのか? この問題の根は深い。1960年代の公民権運動からどれだけ時間が経ってもアメリカ社会の根底に流れる人種差別問題は解決しない。

1991年のロドニー・キング事件は暴動にまで発展した。黒人大統領オバマの誕生以降もなお、2012年のトレイボン・マーティン射殺事件、2014年のマイケル・ブラウン射殺事件、さらに2014年エリック・ガーナー事件と悲劇的な事件は続く。#BlackLivesMatter はこうした背景を元にネット上でシェアされて行った。黒人の命というテーマはアメリカでそれだけ根が深く、命はみな平等みたいなお題目の前提条件すら未だ満たしていないのだ。

『ゲット・アウト』や『フルートベール駅で』のような映画作品が説得力を持って作られ、過去を題材にした『グリーンブック』や『デトロイト』、『ブラック・クランズマン 』といった作品もまた現代社会に向けての強烈なメッセージを内包している。

ヒップホップは今では世界中のポップカルチャーを席巻しているが、その中でよく見られる米黒人アーティストたちの過度に物欲まみれに見える振る舞いは社会状況を反転させた表現でもあり、それこそチャイルディッシュ・ガンビーノが歌った『This is America』なのである。ミネソタの事件の後、世界中でシェアされた12歳のキードロン・ブライアントは「ただ生きたいんだ」と歌っていた。

ジョージ・フロイドはラッパーでもあった。彼はBig Floyd名義で90年代後半、テキサス州ヒューストンを拠点として活動していたDJ SCREWの一派であったのだ。DJ SCREWはchopped and screwedという独特な楽曲アレンジの生みの親である。これは簡単に言えば曲のBPM (Beats Per Minute/テンポ)を極端に落として再生するもので、2000年代に渡ってヒップホップの一つのブームになった。実は一種のドラッグミュージックでもあり、コデインという咳止め用オピオイドを摂取した状態で聴くときに”ちょうどよい感じ”に聴こえるように編集されている。そしてDJ SCREW本人もコデイン依存が元で他界している。

僕は彼らの音楽が好きでよく聴いていた。今回、惨劇の犠牲者となったフロイドがヒップホップのビートの上で生き生きとラップしていたことを知り、僕の胸は苦しくなった。抗議デモが暴動のような形に発展し、全米各地で夜間外出禁止や緊急事態宣言が出されている。デモの一部が警官と衝突し、商店に押し入って強奪行為を働く人も出てきた。

マーティン・ルーサー・キング牧師は、「Riot(暴動)とはアメリカに無視された声が実体化したものだ」と言っている。破壊行為や強奪行為の背景には無言の、というより無視され続けてきた感情が蓄積しているという指摘だ。そんな中、声こそが武器であるラッパーの一人のスピーチが流れた。キラー・マイクだ。

彼はアトランタを中心に活動するラッパーで、今は白人のラッパーであるEL-Pとのユニット、ラン・ザ・ジュエルズとしての活動でも人気だ。社会性とユーモアを併せ持った切り口で展開する『キラー・マイクのきわどいニュース』というショーはNetflixで観ることが出来る。
 

アトランタ市長の記者会見に登場した彼は左右に市長と警察署長が立っている前で語り始めた。

「私の父も警官だ。従兄弟にもいる。警察には愛と敬意を持っている。そして1940年代のオリジナル・エイト、アタランタ市警最初の8人の黒人警官が、一緒に着替えるのを嫌がる白人の同僚のために更衣室を分けられていた頃からの歴史も知っている。そこから80年が経って、白人の警官が黒人の首に膝を乗せて殺害したのを見た。私は怒り狂った。もう黒人が殺されることにうんざりなんだ。世界が燃えちまっても良いと思った。あの白人警官は何事もないように9分に渡って膝を人の首に押し付けていた。ライオンのアゴの下のしまうまのように人が死んだんだ。

子供たちが感情に火をつけて暴れているのは彼らにはどうしてよいかわからないからだ。だから、これは私たち大人の責任なんだ。私たちが責任をもって物事を良い方向に持っていかなければならない。私たちは一人の警官が起訴されて終わりになることは望んでいない。あの場に居た4人の警官が全員起訴されて司法の裁きを受けることを望んでいる。私たちはターゲット(大型チェーン店の名前であり、標的の意)が燃えるのは望んでいない。構造的な人種差別を生み出しているシステムそのものが地面に燃え落ちることを望んでいるんだ。私たちの義務は敵への怒りに任せて我々自身の家(コミュニティ)を燃やさないようにすることだ。私たちのコミュニティは逃れてきた人たちの居場所にもなるし、明確に、戦略的に、計画的に組織化してシステムを変えるための基礎になる」

ざっと意訳した内容だが、これを彼独特のリズム感と口調で語ったのだ。素晴らしかった。彼はCNNのメディア報道にも触れ、恐怖と憎悪だけを垂れ流すのをやめて欲しいと訴え、抗議デモに対しても「壁を壊しただけで良かった。あの白人警官がしたように息子から父親を奪い、母親から息子を奪うようなことがなくて良かった」と、時折感情的に見えながらも必要なことを必要な言葉で述べていく。ラッパーの仕事だ。

この件に関してはオバマ前大統領も声明を出している。
 

コロナ禍がすぎて「ノーマル」に戻ろうという声を聞くが、人種差別による悲劇的な殺人が起こるような事態はノーマルではない。自分たちが住む社会をどういうものにしていくのか? 渋谷で警官による暴力的な取り調べを受けたクルド人の男性は15年も日本で暮らしている方だった。対岸の火事? いや、そうではない。僕たちには社会を豊かにしていく事が出来る。声を上げることから始める。そして「息ができない」状況を一刻もはやく変えていく。

*   *   *

ダースレイダーx北丸雄二 "全米で抗議デモ。今、アメリカで何が起きているのか? #3"

関連キーワード

{ この記事をシェアする }

礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

バックナンバー

ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP