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アルテイシアの59番目の結婚生活

2020.03.18 更新 ツイート

母親を殺した犯人はお前だ!アルテイシア

新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』に書いたが、59歳の時に遺体で発見された母のアパートは、壁一面にギャル服がかかっていた。
その部屋には食べ物が何もなく、キッチンには大量のビールと白髪染めの箱だけが残されていた。

私がコナン君なら「白髪染めの中に毒薬を混ぜられた?」と推理するところだが、母の死因は拒食症による衰弱と心臓発作だった。

母の手帳には「目指せ32キロ」「2週間に一度は白髪染め」と書かれていて、そのヘタクソな丸文字を見て胸が痛んだ。
しわしわのミイラみたいな状態で「痩せなきゃ」「白髪を染めなきゃ」と思っていたのか。“女の価値は美しさ”という呪いにかかったまま死んでしまったのか、可哀想に。

 

とは思ったが、だから毒親を許すとかって話じゃない。母に呪いをかけたのは私じゃないので、私が犠牲になるのはお門違いだ。

けれども見た目は中年、頭脳は子どものへっぽこコナン君は言いたい。「ルッキズム、母親を殺した犯人はお前だ!」と。
私自身もルッキズムに傷ついてきたし、それは人を殺す呪いになると知っているから。

スリムな美人だった母と違って、私は幼少期からのびのびと太っていた。でも中高は女子校だったので、教室で相撲を取ったり、文化祭で若貴兄弟のコスプレをしたり、のびのびと過ごしていた。

その後、共学の大学に進んでショックを受けた。というのは女子校育ちあるあるで、男子から見た目で差別されたり品評されたり、ルッキズムの洗礼に傷つく女子は多い。

難関大の医学部に進んだ友人は「お前みたいなブスに勃起する男はいない」と男の先輩に言われたという。私もバイト先の飲み会で「うるせえなブス、黙ってろよ」「俺こんなブスと飲むのイヤだ」と先輩に言われて、ショックで固まってしまった。それがキッカケで、過食嘔吐するようになった。

18歳の私は「自分がブスだからダメなんだ」と思っていた。でもその彼が私に暴言を吐いたのは、女をいじめることで男の優位性を示したい、「俺の方が上だ」とアピールしたかったからだと思う。

実際、彼は触る者みな傷つけるギザギザ子守歌系ではなく、自分より立場が上の人には暴言など吐かなかった。つまりあれは、弱い者いじめだったのだ。

「だったら努力して綺麗になればいい」とか言う人がいるが、それはいじめられっ子に「いじめられないよう努力しろ」と言うのと同じで、どう考えてもいじめる側に問題がある。変わるべきは人を見た目で差別する側、それを容認・助長する社会だろう。

「見た目イジリで笑いをとる日本のテレビとか見ると、ほんとギョッとするわ~」と久山も語る。久山て誰やねん、なぜ呼び捨てか? というと、彼女は古くからの友人なのだ。

久山葉子氏は「日本で子育てするのは無理ゲーや」と娘が1歳の時にスウェーデンに移住して、現在は北欧ミステリの翻訳家およびエッセイストとして活躍中。『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』という著書も出している。また現地の高校で日本語教師としても働いている。

彼女のエッセイを読むと「スウェーデンってマリネラみたいに架空の国かな?」とククロビン音頭を踊りたくなる。ククロビン音頭がわからない人は周りの中年に聞いてほしいが、それぐらい日本との違いに驚くのだ。

本人も『海外に移住してもっとも大きかった学びは、日本では「こうあるべきだ」と思い込んでいた常識が「海外では全然そうじゃない」と気づかされたこと』とエッセイに書いている。(詳しくはこちらを

たとえば、スウェーデンでは保育園の時から「性別、民族、宗教、セクシャリティ、障害に関わらず、人間には全員同じ価値がある」と子ども達に教えるそうだ。

また子どもに順位をつけることが禁じられているため「受験」が存在しない。人気の私立の学校でも、合格を決めるのは「早いもの順」であり、それもオンラインで子どもの情報を入力するだけで申し込みは完了。

『子どもに順位をつけない、つまり「子どもを比べない」という考えは、親たちの普段の子育てにもしっかり根づいています。例えば「○○ちゃんはできてるのに」と他の子と比べるような発言は絶対にしません』という話を読んで、子ども時代の全私が号泣した。

私なんて中学受験の塾で点数順に並ばされてビンタされていたのに。私を殴ったジジイが生きてたら絶対に息の根を止めてやる。

また、スウェーデンに移住して印象的だったのは『大人に対しても子どもに対しても、見た目について言及しないこと』。
スウェーデンでは“人の価値は見た目じゃない”“人を見た目でジャッジしない”が子どもでも知っているモラルの基本、という話を読んでまたもや全私が号泣である。

私なんて法事で親せきのジジイに「おまえは将来、相撲取りになるんか」と言われて、恥ずかしくて死にたくなったのに。あのジジイいつか絶対スーパー頭突きで沈めてやる。

それに日本では親が我が子の見た目をディスって、外見コンプレックスを植えつけのもあるあるだ。

久山氏はスウェーデン育ちの娘に何度かマジギレされたという。娘が保育園に通っていた時「○○ちゃんのママ、美人だよね~」とうっかり言ってしまったら「ママ、見た目がどう関係あるの?」ときつく返されたんだとか。

また小学生になった娘に「あの男の人、○○ちゃんのママの新しい彼氏だったのかな? ほら、あの肌の色の濃い……」とつい言ってしまったら「他人の肌の色に言及するもんじゃない! 失礼すぎるよ!」と激怒されたという。

『マジギレされて、心から嬉しかった』という彼女はべつにドMなわけじゃなく『スウェーデンの子どもたちは、人間としてモラルに反することがなんなのかをしっかり理解している』と感じたからだ。

「今すぐスウェーデンに亡命だ! ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵!!」と旅立ちたくなった人も多いだろう。拙者の推しはオスカル様だが、日本で暮らしていると「どこから革命を起こせばいいのやら」と絶望する。

20代の女子は「会社の男性社員が女子社員の顔面偏差値ランキングを作ってて、『お前は最下位クラスだから(笑)』と言われた」と話していた。

大学生の女子は「ゼミの男子の間でアプリで会った女性をブスとかデブとか品評するのが流行ってて、学校に行くのがつらい。男性の教授に訴えても『単なる悪ふざけ』とまともに取り合ってくれない」と話していた。

ルッキズムとミソジニーでおなじみのヘルジャパンでは、若い世代に悪しき文化が引き継がれている。それで「オラこんな国イヤだ」と批判すると「だったら日本から出ていけブス」とクソリプが飛んでくる。

そんなヘルから脱出した久山氏とスカイプでやりとりした。

久山:スウェーデンでは「人の見た目に言及しない」が常識だから、けなすのはもちろん、褒めるのも基本NGなんだよね。
うちの高校の生徒たちも見た目のことは絶対言わない。だから日本の姉妹校の高校生たちが訪問した時に「○○ちゃんかわいい! 美人!」と連発されて、めっちゃ戸惑ってる(笑)

拙者:顔や体型について触れるのはNGなんだよね。

久山:そうそう、「今日の服ステキだね」「その髪形よく似合ってるね」とかは積極的に言うけど。

拙者:日本だと職場でも「美人だね」とか平気で言うよね。あと前にコラムでも書いたけど「おっぱい大きいね」「エロい体してるな」と本気で褒めてるつもりで言ってきて、セクハラという自覚がないとか、普通の人々の感覚が麻痺してると思う。

久山:スウェーデンでそういうセクハラはまずありえないし、あったら新聞沙汰になると思う。職場で「美人だね」と発言する人も見かけない。人の容姿について何か思ったとしても、口に出すのはマナー違反、というのが常識だから。

ちょっと前の私がスウェーデンに行ったら、だいぶ非常識な人間だったと思う。娘さんにもバチギレられたんじゃないか。

百合の里出身の私は綺麗なお姉さんに会うと「う、美しすぎます……!」と震えて「美人ですねデュフ」とか言ってしまう人間だった。
ちなみに中学時代は憧れの美人の先輩と文通していた。平安時代か? と若い人は驚くだろうが、当時はスマホどころかポケベルすらなかったのじゃよ。

そんな私も昨今は「美人」ではなく「ファビュラスですねデュフ」と言うようにしている。ただ個人的には「かわいい」はパンダやルンバにも使うし、意味が広いのでOKにしてほしい。

こんなふうに気を使うのは「人の見た目に言及しない」が常識になってほしいからだ。

ルッキズムを批判すると「女だってイケメンが好きだろ!」とクソリプが飛んでくるが、私はガルマよりもドズル派だった。という個人的な好みはさておき、美人を好きなことを批判してるんじゃなく、ブスいじめやブスいじりをやめろと言っているのだ。

また世間は「ブスが美人に嫉妬する」「女の敵は女」説が大好物だが、ブスの敵は美人じゃなく、ブスを差別する人間である。
彼らは「ブスのくせに生意気だ」と抜かした口で「美人だからって調子に乗るな」とほざき、美人が成功すると「女の武器を利用した」と実力を評価しない。すなわち、美人にとっても敵なのだ。

無論、容姿差別に傷ついた男性もいるだろう。だったら「人の見た目に言及するな」「人を見た目でジャッジするな」と声をあげてほしい。そして共にルッキズムと戦おうぞ、ブオオーー!!

イマジナリー法螺貝を吹きつつ、ふと考えた。うちの母もスウェーデンに生まれていれば、“女の価値は美しさ”という呪いに殺されずにすんだのだろうか?

その答えはわからない、真実はいつも一つとは限らないから。ただ私は来世は「ママ、見た目がどう関係あるの?」とマジギレする少女になりたい。

熟女入門でも書いたが、私は母に一度も「かわいい」と言われたことがない。そして今、猫を育てながら「一度もかわいいと言わないって逆にスゲーな」と感心する。
私は猫に「かわいいかわいい」を連発して、猫は「かわいい」を自分のあだ名だと思っている。この「かわいい」は「いとしい」と同義語である。

私は母に見た目を褒められたかったんじゃなく、愛されていると感じたかった。そんなわけで、夫に「かわいい?」と聞きまくる女が爆誕した。口裂け女的な妖怪みがあるが、夫はいつも面倒くさがらず返してくれる。

「この髪型、かわいい?」
「ベンキマンみたいでかわいい」
「このコート、かわいい?」
「ブチハイエナみたいでかわいい」
「このワンピース、かわいい?」
「ゴマダラカミキリムシみたいでかわいい」

という風に。夫は私が14ミリの鼻毛を見せつけた時も「たいそう立派だ」と褒めてくれたし、腸炎でウンコを漏らした時も「ウンコを漏らしてこそ一人前だ」と褒めてくれた。

このヴェルタースオリジナル方式によって、我がインナーチャイルドが癒されている。妻が弁髪にしても「ラーメンマンみたいでかわいい」と褒めてくれそうなので、一度試してみようかと思っている。

 

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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