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アルテイシアの59番目の結婚生活

2019.06.18 更新

借金取りがやってきて、心が軽くなった理由アルテイシア

今回の借金騒動の後、憑き物が落ちたように心が軽くなった。ウンコで喩えると、宿便が全部出たようなスッキリ感があったのだ。

この憑き物の正体とは、罪悪感である。
「父が自殺したのは私のせいじゃないか」、そんな思いが心の片隅にこびりついていたのだ。

無論、頭ではそうじゃないとわかっている。父は69歳の大人であり、彼の人生の責任は彼自身にある。子どもは親の人生に責任を負う義務などない。

父は家族を顧みず好き勝手に生きて、勝手に死んだ。私は父にさんざん傷つけられ、迷惑をかけられた。だからまあ、自殺したのは自業自得である。

と、頭では理解していた。死んだからといって「お父さんもつらかったんだね、育ててくれてありがとう」みたいな気分には1ミリもならなかった。

私は毒親ポルノ的なコンテンツが嫌いだ。一番ムカつくのは「絶縁していた毒親が余命わずかとなり、最期は和解してハッピーエンド」みたいなやつだ。

その手のお涙頂戴コンテンツは「親と和解するのが正しい」「親を見捨てるのは間違っている」と毒親キッズを追いつめる。

ただでさえ「親子なんだから」「過去は水に流して」「育ててもらった恩があるでしょ」と世間に圧をかけられ、罪悪感に苦しむ人たちを何重にも傷つける。だから虐待されても逃げられない子どもが多い。そういうきわめて悪質なコンテンツだと思っている。

なにより当事者からすると、めっちゃ嘘くさい。余命わずかな毒親に「すまなかった、許しておくれ……」と手を握られても、許せるわけがなかろう。

「ふざけんな! そんな一瞬の謝罪でチャラになると思うな! 私が受けた傷や苦しみはどうなる! てめえの人生を美談で締めくくろうとするな! 結局それも自己満足の懺悔だろう! そういうとこやぞ!!」

とバチギレたいが、死にかけの年寄りにキレたらこっちが悪者になる。
そのうえ「死にかけの親が謝ってるのに、許さないなんてひどい」「心の狭い薄情な娘だ」と責められたら、点滴にこっそり十六茶とか混ぜてしまう。

実際、毒親フレンド同士で「親の介護は死んでもしない。弱ってる今がチャンス! と殺してしまうから」「わかる!」と頷き合っている。ポリス沙汰を避けるためにも、毒親とは関わらないのが賢明だ。

というのが私の意見だし、親が死んでからも変わらない。さすがに父が自殺した直後はショックだったが、2週間もすれば落ち着いたし、普段は父のことなど忘れて機嫌よく生きている。

それなのに、たまにふと思うのだ。たとえば原稿を書き終えて、昼間から銭湯でのんびり湯につかっている時。この後、寿司屋で昼酒でもキメるかな……と日常のささいな幸せを感じている時に「父はこんな幸せな時間もないまま、死んでしまったんだな」と。

父の住んでいたアパートは風呂も壊れて、ベッドはカビだらけだったという。外食する余裕もないギリギリの暮らしは、お坊ちゃん育ちの父にはキツかっただろう。

そんなことをふと考えて、可哀想で胸が痛んだ。もし私が父に連絡して、生活費を援助したり、たまに食事に誘ったりしていれば。そうすれば、父は自殺せずにすんだんじゃないか。

どうしても、そんな想像が浮かんでしまう。優しくするとつけこまれて、また金を無心されることは、痛いほどわかっているのに。だから縁を切ったのに、「親を見捨てた自分はひどい人間じゃないか」という罪悪感が消えなかった。

それはつまり、私がサイコ田パス子じゃない証拠である。私には人並みの良心や優しさがあるし、かつ、案外エモい人間なのだ。

父が死んだ一週間後ぐらいに、夢を見た。夢の中では、私と父と弟が三人で楽しそうに食事していた。私は父の笑顔を見ながら「あ、お父さん死んでなかったんだ、よかった~」と思っていた。

そこで目が覚めて「……エモい!!!」と叫んだ。となりに寝ている猫も夫もびっくりだ。

「家族はガチャだから、うまくいかなくてもしかたない」と頭ではわかっている。むしろ血のつながった家族だから厄介なのだと。
それでも潜在意識の中には「家族仲良しでハッピハッピー」という家族幻想が残っていたのだろう。

頭では納得していても、心はままならないものである。そんなわけで日々楽しく暮らしていても、心の片隅にうっすら罪悪感があった。

それが借金騒動の後、気づけば消えていたのだ。

「23歳の娘を脅して2000万の債務の保証人にするなんて、正真正銘のクズ、吐き気をもよおす邪悪、これだけの借金を背負わされたんだから、もう自分を責めなくてヨシ!」と、潜在意識さんがOKを出したのかもしれない。

もしくは「死ぬまで毎月返済するんだから、それでもう罪悪感はチャラでよくね?」と判断したのかもしれない。その両方のような気がする。

なんにせよクソが出切ったようにスッキリして、心が軽くなった。こんな予想外の効果があるなんて、人生とは珍奇である。

ここで毒親フレンドにお伝えしたいのは「私は父が死んで罪悪感はあったけど、後悔はなかった」ということだ。

毒親と絶縁したのは2億%正解だったし、過去に戻ったとしても同じ選択をする。死ぬ前に会っておけばよかった、なんて全然思わない。むしろ会わなかったことで自分を守れたと思う。

もちろんこれは個人の感想で、みんながそうとは限らない。でも「絶縁したまま親が死んだら後悔する」という一般論に流されないでほしい。自分が会いたくなければ会わなくていいし、それを決める権利があるのは自分だけだ。

私は両親が死んでホッとした。もう二度と迷惑をかけられずにすむし、「100歳まで生きて、介護や金銭的援助を求められたらどうしよう」と心配せずにすむ。
それはすごい安心感と解放感だったし、両親が早死にしてくれたことは、最大の子孝行だと思っている。

それと「あんな死に方をして可哀想だな」という気持ちは両立する。両親のことを可哀想だと思うが、自分が何かすべきだったとは思わない。だって、もらってないものは返せないから。

私がつらくて死にそうな時、彼らは何もしてくれなかった。というか、つらさの主な発生源は彼らだった。それなのに「親子は助け合うべき」とか言う奴は、ぶっころころすけになって家中ススだらけにしてやる。

ぶっころころすけが毒親フレンドにお伝えしたいのは「親がどんなにクソでも、友達がいれば何とかなる」ということだ。

実は3年前、「父が体を壊して入院している」との情報が知人経由で入ってきた。私はどうしたもんかいなと考えて、JJ(熟女)仲間と集まった時に「病院に行くべきかな?」と相談してみた。

すると満場一致で「行かなくていい」という意見だった。

「アルが決めることだけど、一回関わっちゃうと面倒くさいと思うよ」
「あのお父さんのことだから、またつけこまれて搾取されるでしょ」
「このまま親が死ぬまで逃げ切る方がいいんじゃない?」

父親を看取ったばかりの友人は「介護とかめちゃめちゃ大変だし、あのお父さんにそんなことしてやる義理ないし。一回会ってヘタに情が湧いてもアレだし、無視した方がいいと思うよ」と言ってくれた。

「会わないと後悔するよ」とか言わない彼女らに、私はいつも救われている。親が助けてくれなくても、友達がいれば何とかなる。

23歳の私は毒親のことを誰にも話せなかったが、43歳の私にはなんでも話せる味方がいる。だから私はもう十分幸せなのだ。

親のことで唯一後悔しているのは、23歳のあの時、実印を膣にしまって逃げなかったことである。

あの時、誰かに相談できていれば。「絶対に判子は押しちゃダメ!」「○○しなきゃ死ぬ、と脅すのは毒親の手口だから!」「それで万一死んでも、あなたのせいじゃないから!」「テロリストとは交渉しない!!」と言ってもらえれば、私は実印を膣(以下略)

なのでどうか皆さんは膣圧を鍛えつつ、困った時は誰かに相談してください。1人で抱え込むと人生詰むので。身近に話せる人がいなければ、弁護士の無料相談や行政の相談窓口などを頼ってほしい。

私も今回のことで「とにかく弁護士さんに相談だ!」と学習した。そしてAちゃんに勧められたとおり、書類を持って弁護士の無料相談に行ってみた。
(各地域の弁護士会でも無料相談を行っているが、私は家の近くの区役所の法律相談に行くことにした)

その日の担当弁護士さんは、30代半ばぐらいの感じのいい男性だった。「何食べのシロさんみたいな、めんつゆの貴公子が現われたら緊張するな」と思っていたが、とてもリラックスした空気で話は進んだ。

書類を見た弁護士さんは、Aちゃんと同意見だった。「もし弁護士さんが私の立場だったらどうします?」と聞くと「僕も同じ方法を選ぶと思います」と同意してくれたので、「やっぱりこれがベターな選択だな」と納得することができた。

アル「ただ返済額を毎月1万円じゃなく、5千円って言えばよかったな~と思ってるんです」
弁護士「金融機関に出向いて交渉するのもアリですよ。1万円はキツいから5千円に減らしたいって。その時は、生活が苦しい感じを演出してください」
アル「ぼろぼろの穴のあいた服とか着て」
弁護士「そうそう、偽物のクロックスとか履いて」
アル「ベランダにあるやつを履いて行きます!」

やはり貧乏アピールは重要らしい。その時は偽クロックスを履いて、泥まんじゅうを持参していこう。千の仮面を装着して「こんなうめえものくったことねぇ」とジャリジャリ……と夢想していたが、わざわざ出向くのも面倒くさいので、試しに5千円を振り込んでみた。

それで先方は何も言ってこないので、このまま逃げ切りたいと思う。もし今後また何かあっても大丈夫、43歳の私には助けを求める強さがあるから。

毒親フレンドにお伝えしたいのは「JJになると、メンがどんどん強くなる」ということだ。

20代の私はおぼろ豆腐のようなメンタルで、現実逃避のために酒やセックスに依存していた。寂しさに耐えられなくて、彼氏がいないと生きていけない女だった。

それで合コンに参加して、男性陣が「父の日にプレゼントも贈らないような子とは結婚したくない」「俺も無理だわー(笑)」と話すのを聞いては、傷ついていた。
今そんな傲慢なアホに遭遇したら「やかましわ!!」としばいたる、凶器はもちろんグレッチだ。

ちなみに私はグレッチを武器だと思っているが、「ラットひとつを商売道具にしているさ」のラットはネズミだと思っている。なのであれは「丸の内にお勤めの研究者(薄給)の歌」という認識だ。

世界は毒親育ちを傷つける、“いともたやすく行われるえげつない行為”に溢れている。でも我々はそれに負けない、グレッチ族の戦士になれるのだ。
だから毒親フレンドのみんな、共に戦って幸せになろうな! 俺たちの旅はまだ始まったばかりだ!! (完)

 

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・解説 カレー沢薫

 

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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