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愛の病

2019.04.18 更新

聞き書き「宣言のような」狗飼恭子

 どうも、こんにちは。狗飼恭子です。作家です。脚本も書いています。
 

 なのですけれど、前の小説を出版したのがもう随分前で「もう小説は書かないんですか?」とよく聞かれます。SNSで自分の名前をエゴサーチなんかすると、「懐かしい、昔読んでた」と、書かれていたりします。まだ現役です、一応(笑)。
 

 

 小説、書いていますよ。絶え間なく書いています。もう何年もずっと。でも、書きあがらないんです。パソコンの中には書きかけの文章がどんどん溜まってきています。脚本はね、書きあげられるんです。だってわたしが書かないとたくさんの人に迷惑がかかるから。わたし、他者に迷惑をかけるのすごい苦手なんです。
 

 時間に遅刻するのとかもものすごく苦手。〆切もできるだけ守るし。小説は書けなくても人に迷惑かけないじゃないですか。だからなんだかずっと書きあがらない。


 でも昔はいっぱい書きあげられたんです。年に四冊小説を書いたこともありました。構想二か月、執筆一か月とかを繰り返していた。なんでそんなことができたんだろう。どうして今はできないんだろう、そう考えて、ようやく分かったんですよね。
 

 

 わたしの書きたいことに、わたしが追い付けていないんです。


 わたしはここ(と、手を自分の頭上へ掲げる)を書きたいのに、わたし自身はまだここ(と胸のあたりを示す)にいるから、上手く言語化できない。言語化できないままただただ文章をこねくり回すだけでは、小説にならないんです。もちろん、ここ(とおなかのあたりで手のひらをぐるぐると廻し)らへんのものはね、書けるんですよ。むしろ気楽に書けるから、読む人も気楽に読めて良かったりもするんです。


 ほら、最近は重いものってあんまり好かれないでしょう。主人公の感情が分かりやすくて、ささっと読めるようなものが喜ばれる。でもね、そういうのは書きたくなくなっちゃったんです。なんせここ(と再び手を自分の頭上へ)を目指しちゃってるから。物書きとしての魂が。
 

 でも、分かってもいるんですよ。わたしは書き手として、ここ(ともう一度手を頭上へ)に到達することはできないんです。せいぜいがここ(と自分のおでこの辺りで手のひらを上下に揺らす)辺りで。だから苦しいんですよね。だって自分の一番大好きなことなのに、自分の望むようにはできないんですから。
 

 パンケーキにはメープルシロップがあるほうが美味しいって分かってるのに、手に入らないんですよ。そりゃ、バターだけでも美味しいですよ? なんなら生地だけでもまあまあいけますよ? でもわたしはメープルシロップの存在を知ってしまっているんです。もっともっとって思ってしまってもしょうがないじゃないですか。
 

 まあ、長くなりましたけど、わたしが何を言いたいかと言うと、今度こそ小説を書きあげようと思うんです。信頼する人に言われたんです。絶対書き上げなければ、と思わざるをえないことを。何を言われたか? 教えませんよそれは(笑)。でもなんだか、久しぶりに必要とされているような気がしたんです。わたしの小説が。


 思えばずいぶん長いこと、わたし以外の人は「わたしの小説をもういらないと思っている」と思っていました。それが一番怖かったのかもしれません、本当のところはね。
 

 ええと、ですから、書こうと思うんです。それはここ(頭上へ手を)には届かないと思うんですよ。でも、せいいっぱい、等身大で、自分の書けることを書きたいと思うんです。思えば昔は、ずっとずっと等身大でした。等身大だったから、自分の書くものに嘘はなかった。今は、ちょっと背伸びしすぎているのかも。
 

 わたしが何を書きあげるのか、そしてそれをちゃんと皆様に届けることができるのか。わくわくしながら震えています。ものすごくつまらなくて出版されない可能性もありますけど、とにかくわたしは、書きあげようと思うんです。なんか執筆宣言? みたいになっちゃいましたね。ちょっと恥ずかしいです。以上、ご清聴ありがとうございました。狗飼恭子でした。
 

(聞き手・狗飼恭子)  

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愛の病

恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。

 

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狗飼恭子

1974年埼玉県生まれ。92年に第一回TOKYO FM「LOVE STATION」ショート・ストーリー・グランプリにて佳作受賞。高校在学中より雑誌等に作品を発表。95年に小説第一作『冷蔵庫を壊す』を刊行。著書に『あいたい気持ち』『一緒にいたい人』『愛のようなもの』『低温火傷(全三巻)』『好き』『愛の病』など。また映画脚本に「天国の本屋~恋火」「ストロベリーショートケイクス」「未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~」「スイートリトルライズ」などがある。最新刊は、『遠くでずっとそばにいる』(幻冬舎)。デビュー作『オレンジが歯にしみたから』がノンカフェブックスにて復刊。中田永一原作「百瀬、こっちを向いて。」で脚本を担当。オフィシャルブログhttp://ameblo.jp/inukaikyoko/

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