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本屋の時間

2018.12.01 更新 ツイート

第50回

よく読むタイプ 辻山良雄

 一冊の本は、著者の力だけで完成するものではなく、そこには多くの人の手による「見えない仕事」が添えられている。このたび画家のnakabanさんとの共著『ことばの生まれる景色』がナナロク社から発売になるのだが(Titleでは13日より発売予定)、一年を通してこの本と向き合った人が、著者であるわたしとnakabanさん以外に、もう一人いる。

「編集者」と呼ばれる人には様々なタイプがいるが、この本の担当者である川口恵子さんは「よく読む」人だった。彼女のことを考えると、流行や話題に乗っかり何かを仕掛けていく「ガツガツとした姿」ではなく、本やゲラと向き合い、それを何度でも読んでいる姿がまず思い浮かぶ(見たことはないが……)。「編集者は第一の読者である」とはよく言われることだが、とかく「仕事」になりがちな本づくりの現場で、純粋な〈一人の読者〉として目のまえにある原稿を読むことがどれだけ難しいかは、察するに余りある。

三角みづ紀『よいひかり』 絵:nakaban

 この本を作る際の進めかたとして、1章ごとに原稿が書けたらまず川口さんに送り読んでもらっていたのだが、その原稿に少しだけ書き込まれて戻ってくる「鉛筆」が楽しみでもあり怖くもあった。そこには一つ一つの表現を直すというよりは、「ここをもう少し読みたい」とか「この章は伸び伸びと書かれていてよい」など、感想が少しだけ書かれていた。誰かに読んでもらうことではじめて、その文章は自分のなかから旅立ち、広い世界にその場所を見つけていく。それは何というか、心から安心できた瞬間だった。

 

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辻山が選んだ40冊の本にnakabanがイメージを膨らませた絵を描き、さらにその本にまつわるエッセイ40篇を辻山が書いた、絵と文が並び立つ一冊。

 

 

 実はこの『ことばの生まれる景色』は、途中で大きく全体を書き直している。それは川口さんからの求めに従い手を入れたのだが、当初からは想像もしなかったところに、最終的に着地したと思う。「次はどうなるの」という第一の読者の声に、押し出されるようにして書くことができた一冊だった。

 

今回のおすすめ本

『悲しくてかっこいい人』イ・ラン(リトルモア)

 数多くの恋愛を通り抜け、仕事や出合ったものを貪欲に吸収し、自らの表現の肥やしにする。そのようなアーティストが「ひとり」になったとき、そこにはどのようなことばが存在するのだろうか。ひたむきに生きてきた人が真摯に自らに問いかける、強くてヒリヒリするエッセイ。

◯反響多々!! 連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。



◯2022年1月13日(木)~ 2022年2月3日(木)Title2階ギャラリー

 浅生ハルミン『江戸・ザ・マニア』刊行記念 趣味はこうして受け継がれる-「ずっとの趣味」の達人たち

「盆栽」「金魚」「古地図」などなど、江戸っ子たちがハマって、エスカレートした趣味の世界。現代でもそれらを楽しむ“マニア”な方々にその魅力を聞いたイラストルポ『江戸ザマニア』。取材の中で浅生ハルミンさんが感じた、趣味の達人たちの「好き」の熱量を、本には掲載できなかった写真や資料と一緒にご紹介します。

◯2022年2月5日(土)~ 2022年2月22日(火)Title2階ギャラリー

ほっきょくでうしをうつ
阿部海太原画展『ほっきょくでうしをうつ』刊行記念

「はらがへった……どこかに えものになる どうぶつは いないのか」極限の地で出会ったのは、ジャコウウシの群れだった。探検家・角幡唯介の実体験を、画家・阿部海太が大胆に絵本化した1作。本展では油彩で描かれた絵本原画全点の展示に加え、描きおろし作品数点の展示販売も予定しています。


◯【書評】
『障害をしゃべろう! 上・下』里見喜久夫編(青土社)
たのもしい「生きよう」とする力  評/辻山良雄


連載「私の好きな中公文庫」
もう20年以上ずっと頭のどこかにある本 辻山良雄

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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