1. Home
  2. 生き方
  3. 本屋の時間
  4. 本を運ぶ人

本屋の時間

2018.11.15 公開 ポスト

第49回

本を運ぶ人辻山良雄

写真:齋藤陽道

 朝、店まで来ると扉とシャッターとの間に、その日届いたダンボール箱が置かれています。Titleに来る新刊本の多くは「取次」と呼ばれる問屋によって、日曜日以外は毎日届けられますが、全国の書店に並ぶ本も、こうした表からは見えない人たちの仕事により、支えられています。

 取次の人は個人的に何人も知っていますが、その多くは〈淡々と〉仕事をしている印象があります。出版社や書店の人間のように、一冊の本に関して思い入れ深く話すことはまれで、その関心は、「どうしたら〈その思い入れの深い本〉をいち早く適正に、全国の書店に届けることができるか」ということに向けられている気がします。それは彼らがもともと、倉庫でダンボール何十箱と荷受けをして、自分の手で本の冊数を数え、毎日トラックを走らせて全国の書店に荷物を届けるという、〈肉体労働者〉の集まりであったことと関係があるでしょう。

 以前は取次会社に入社すると、何年かのあいだは自社の物流倉庫で働きながら、本の動きを身体で学ばされていたと聞いたことがあります。最近では、新卒で入ったばかりの若いかたと店頭で話すことも多いので、それも少しずつ変わってきているのだろうと思いますが、ディスプレイで見る「100」という数字と、運び慣れた100冊の本の塊とでは、やはり実感できるものが変わってきます。ベテランの取次人と話していると、何千何万という数の本が、実際にはどのくらいの量感があり、それを動かすにはどれだけの人手と時間が必要か瞬時に把握できるので、たいしたものだと思います。

 

 取次は一度契約を結んだ書店とは、余程のことがない限り、それを打ち切ることはないとも聞いたことがあります。それは彼らが「本を運ぶ」というシステムそのものであり、ある意味で採算性よりも使命を優先させてきた表れなのだと思います。

 時代とともにシステムは、その存続のために調整されていくもので、取次というのはそうした効率化がまず行われる職種ではありますが、その一方で「人の手が通った物流」というものを求めたい気持ちも、まだどこかに残っています。

 

今回のおすすめ本

『90年代のこと 僕の修業時代』 堀部篤史(夏葉社)

 営む店でも書く文章でも、堀部さんには「芸」がある。そしてそれは、彼が長年自分の足で集め、浴びるようにして摂取した本や映画、音楽などのカルチャーにより支えられている(つまり、簡単に集めたものは、簡単に失われるということだ)。
 時代が変わっても、物事の本質は変わらない。そう思わせる、誠光社店主の本。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

○2024年10月4日(金)ー 2024年10月22日(火)Title2階ギャラリー

柊有花『旅の心を取り戻す』展

柊有花 詩画集『旅の心を取り戻す』(七月堂)の刊行を記念した展示を行います。イラストレーター・詩人として活躍中の柊さんらしい、絵と言葉の展示です。「旅」というテーマで作ったこの本を起点に、さらにイメージが広がる空間が広がります。会場では新刊の詩集のほか、展示に併せて制作されたグッズや、作品の販売も行います。
 

◯【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】

スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。

『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』

著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
 

【書評】NEW!!

『アウシュヴィッツの小さな厩番』ヘンリー・オースター [著]/デクスター・フォード [著]/大沢 章子 [訳](新潮社)ーーアウシュヴィッツを含む3つの強制収容所を生き延びたユダヤ人が書き残した悪夢のような日常とは? [評]辻山良雄
(Book Ban)

『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)

 

【お知らせ】NEW!!

我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」

シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
 

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

{ この記事をシェアする }

本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP