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本屋の時間

2018.11.01 更新 ツイート

第48回

「e」に隠された秘密 〜よき仕事は細部に宿る〜辻山良雄

 先日、グラフィックデザイナーの寄藤文平さんがパーソナリティーを務めているラジオ「渋谷のナイト」にゲスト出演しました。3時間弱ある番組なので「何を話せばよいのだろう」と依頼を受けたときは不安でしたが、終わってみればあっという間で、寄藤さんが選曲された音楽の、半分もかけられなかったほど話がはずみました。

 ラジオがはじまってしばらくは店の話をしました。驚いたのが、寄藤さんはTitleが開店した当初、そのロゴを見ただけで「これはよくある〈おしゃれブックストア〉とは違うらしい」と思ったということです。「Titleのロゴは、棒が縦に4本まっすぐに伸びていて、その横に丸く小文字の〈e〉がある。デザイナーのセオリーでは、その〈e〉は他の文字に合わせて縦長にしてまっすぐに並べるところですが、Titleの〈e〉は一つだけ丸くて、しかも少し斜め上を向いている。これは本来ありえないことなんですよ……」と、そのロゴがいかに定石から外れたものかを、寄藤さんは10分以上にわたり力説していました。

 実は店のロゴを作るにあたって、製作者である画家のnakabanさんと議論になったのも、この「e」でした。丸い形ははじめから決まっており、他の文字と同様まっすぐに並んでいたのですが、それを少し崩したいとある日nakabanさんからメールがありました。「これでもじゅうぶん良さそうだけど……」と思いましたが、そのあとすぐに届いたロゴの案には、崩すことで何かしらの隙を発生させた、「人格のようなもの」が生まれていました。

「この〈e〉が、ほかの4つの文字と均等にあるロゴであれば、ぼくはTitleがこんなに成功していなかったと思うな(笑)」。と寄藤さんは言いましたが、本屋の品揃えもまさに同じであり、様々な隙や雑味を含みながら、全体のトーンを整えていくものです。同じ趣向やジャンルで整えられた店は一見美しいですが、そこに含まれる思考の幅は狭くなり、再訪しようという気持ちが起きにくくなります。ロゴを見ただけで、その背後にある店づくりの哲学を直観した寄藤さんはすごいデザイナーだなと改めて思いましたが、「やっぱりこれからは画家だな……」とずっと悔しがっていました。

 いい仕事は細部に宿るといいますが、それを行う人、見抜く人の凄みを垣間見た瞬間でした。

 

今回のおすすめ本

『彗星の孤独』 寺尾紗穂(スタンド・ブックス)

 音楽家で文筆家の寺尾紗穂さん。弱きものの声を丹念に聞き取ったノンフィクションがこれまでの作品には多かったが、この本は「身のまわり」を綴った待望のエッセイ集。文章、装丁ともに美しく、澄んだ歌声が聞こえてきそうな一冊です。

 

◯Titleからのお知らせ
6月1日(月)から、書店・カフェともに店頭での営業を行います。短縮営業です。詳細はこちらをご覧ください。

◯2020年7月9日(木)19時30分~ オンライントーク 参加費無料

本の世界をめぐる夜会
『学びのきほん 本の世界をめぐる冒険』刊行記念 オンライントーク

「学びのきほん」シリーズと連動するイベント、今回は『本の世界をめぐる冒険』の刊行記念。登壇者は、著者のナカムラクニオさん、この本の校正を担当した牟田都子さん、店主辻山良雄の3人。司会進行は「学びのきほん」編集担当の白川貴浩さん。各々が経験してきた「本をめぐる冒険」をざっくばらんに語り合います。オンラインのアドレス等、詳細はTitleホームページへ。

◯2020年7月2日(木)~ 2020年7月27日(月) Title2階ギャラリー

OTHERS
中山信一個展

コロナウィルスの影響により延期となった中山信一個展「OTHERS」を、7月2日より開催。新作『OTHERS』に収録されている原画30点を展示販売する他、Titleでの展示のために制作した、店主・辻山との合作短編小説「ねこのひかり」(文・辻山良雄 絵・中山信一)の原画も合わせて展示します。


 

◯朝日新聞(耕論)2020.6.18
自粛要請と自由 新型コロナ 辻山良雄さん、戸羽太さん、青井未帆さん

◯nippon.com インタビュー 2020.5.4
たたかう「ニッポンの書店」を探して
本を自分で紹介し、売ることに賭ける-東京荻窪「Title」


◯『本屋、はじめました』増補版がちくま文庫から発売、たちまち重版!!

文庫版のための一章「その後のTitle」(「五年目のTitle」「売上と利益のこと」「Titleがある街」「本屋ブーム(?)に思うこと」「ひとりのbooksellerとして」「後悔してますか?」などなど)を書きおろしました。解説は若松英輔さん。
 


 

 

◯辻山良雄・文/nakaban・絵『ことばの生まれる景色』ナナロク社

店主・辻山が選んだ古典名作から現代作品まで40冊の紹介文と、画家nakaban氏が本の魂をすくいとって描いた絵が同時に楽しめる新しいブックガイド。贅沢なオールカラー。

 

 ◯辻山良雄『365日のほん』河出書房新社

春、夏、秋、冬……日々に1冊の本を。書店「Title」の店主が紹介する、暮らしを彩るこれからのスタンダードな本365冊。

 

 ◯辻山良雄『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』苦楽堂 ※5刷、ロングセラー!! 単行本

「自分の店」をはじめるときに、大切なことはなんだろう?物件探し、店舗デザイン、カフェのメニュー、イベント、ウェブ、そして「棚づくり」の実際。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂)、『365日のほん』(河出書房新社)がある。

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