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本屋の時間

2018.10.15 公開 ポスト

第47回

本を読むのも本屋の仕事辻山良雄

 

写真:齋藤陽道

「選書」ということばを頻繁に聞くようになったのは、ここ10年くらいのことだと思います。そのことば自体は、もちろん以前よりありました。書店である以上「本を選ぶ」仕事は常につきまとい、特にことばとして意識しなくともあたりまえに行っていたことのように思います。

 カフェや美術館、企業のライブラリー、そして時には特定の誰かのために本を選ぶといった「選書」が仕事になる背景には、「自分で本を選べない人が増えた」ことがあるように思います。店頭で「何かおすすめの本はありますか」と聞かれることはよくありますし、見ず知らずのかたから「わたしは何を読めばいいのでしょうか」と電話をいただくこともありました(「そんなの知らないよ」と思いつつ、長い時間お話ししましたが……)。

 いつも思いますが、その人のための本を選ぶことは、人生相談にも似ています。北海道砂川市にあるいわた書店さんが行っている「一万円選書」はテレビでも放送されていたので知っているかたも多いと思います。依頼者は書店から届いた「カルテ」に従い、読書歴や自分の人生を記入して、本を選んでもらうわけですが、書店はその「カルテ」を見ながらその人のことを想像し、その人に向けた本を選んでいきます。

 わたしも番組を見ていましたが、「すごいなあ」と思い、何よりも深く共感したのは、岩田さんが毎朝自宅で本を読んでから出勤されていることでした。書店に勤めていれば「どのような本が出ているか」については、自然と詳しくなりますが、その全ての本を読むことができない以上、実際には有名な作家であっても読んだことのない人がほとんどです。それでも本を売る仕事はできますが、人に何か本をすすめることは一冊の本に関して深く知らないと、自信を持ってそうすることはできません。

 どんな人が相談にくるかわからない選書では、「自分の引き出しの多さ」が大切です。相談にきた人と、自分の引き出しに入っている本を見比べながら、必要とされる一冊を見つけていくわけですが、その引き出しが枯渇しないように、本屋はそれを日々更新する必要があります。

 

今回のおすすめ本

『馬場のぼる作品集 絵本のしごと 漫画のしごと』 馬場のぼる(スペースシャワーネットワーク)

『11ぴきのねこ』シリーズでよく知られる馬場のぼる。遺された数多くの絵本や初期の漫画を読むと、この人が弱いものへの共感を忘れず、そこにそっと手を差し伸べていた「心やさしき人」だったことがわかる。その仕事の全貌に迫る、ファンが〈待っていた〉一冊。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

◯2024年7月12日(金)~ 2024年7月28日(日)Title2階ギャラリー

Exhibition『SKETCH FROM THE ZOO BY TAKEUMA』

イラストレーターとして活躍するタケウマさんのスケッチに焦点をあてた作品集『SKETCH FROM THE ZOO BY TAKEUMA』(LLC INSECTS)の刊行を記念して、複製画の展示を開催します。のびやかに独自の考察を1枚に込めたスケッチの数々をどうぞご覧ください。
 

◯【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】

スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。

『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』

著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
 

【書評】NEW!!

『長い読書』島田潤一郎(みすず書房)ーー隅々に宿る人生の機微[評]辻山良雄
(北海道新聞 2024.5.26 掲載)

好書好日「イラストレーターの本 「本」の固定観念を覆すエッセイ」辻山良雄
(朝日新聞 2024.6.8 掲載)
 

【お知らせ】

我に返る /〈わたし〉になるための読書(2)
「MySCUE(マイスキュー)」

シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第2回が更新されました。
 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
 

黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編  / お買いもの編
 

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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