先日発売になった雑誌『新潮45』10月号の内容が問題となり、様々なメディアでも報じられたことはご存知のかたも多いと思います。『新潮45』はその後休刊が決まりましたが、雑誌に対する是非だけでなく、話は発売元が出している本を売り買いすることへの是非にまで広がり、この時代に本を売ることの難しさを改めて考えさせられました。
書店は街に開かれた場所です。そこには誰でも入ることができるし、ほかの人に迷惑をかけることがなければ、気のすむまでいることができる場所でもあります。その意味では、書店はそれを経営する個人(もしくは法人)のものでもありますが、その店を利用する客のものでもあります。
しかしどんなに大きな書店であれ、世のなかにあるすべての本を置くことができない限りは、そこに並ぶ本には店のフィルターがかかっています。そのフィルターは「売上」や「公益性」を重視するものかもしれないし、その本棚を担当する人の、個人的な「嗜好」や「心情」を表すものかもしれません。店の規模や考えかたによりフィルターの性質は異なりますが、その要素の濃淡でできていることに違いはないと思います。
Titleは大型店とは異なり、店から注文しない限りは本が入ってくることはないので、そこには自ずと「わたし」のフィルターがかかります(それはわたし個人の嗜好と、実際店で求められる本とのバランスで出来ています)。そこから外れる本はもともと店には並べていませんが、それを「注文したい」というかたがいれば、取り寄せてその人にはお渡しします。
もともと置きたい本を自由に並べ、それを人に届けるための永続性のある場所を作りたいと思い、自分で本屋をはじめたわけです。本を売るという行為は、そうした「売るわたし」の思いに根差している以上、その心情に反してまで売りたい本は、本来はありません。本を売ることはモノのやり取りであると同時に、モノに託された思いのやり取りでもあるので、店に並べられた本は書き手の思いとともに売り手の思いも伝えています。本を選ぶフィルターの基準はあれども、そこに売り手の思いとの矛盾があれば、売場は次第にちぐはぐなものとなり、長期的には店を続けるスピリットを奪っていくものだと思います。
「客」として「店」でものを買う行為には、「その店の姿勢に対して票を投じている」という意味が暗に含まれます。店は票を投じられる対象となっていることを意識しなければならないし、この度の騒動は、もはやそれが「品揃えや利便性だけ」という時代ではなくなっている現れでもあると思います。
今回のおすすめ本
働いている時間も、休んでいる時間も、同じ自分の時間である。それを分けるのではなく、大切な自分の時間として考えれば、自ずと働きかたも変わってくるのではないか。それをかたちにした、27人の生きかた。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー
科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
◯【書評】New!!
『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
◯【お知らせ】New!!
店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
○黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編 / お買いもの編
◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】
スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号
『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。