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モヤモヤするあの人

2018.06.15 更新

中編

大雪の日の遅刻も絶対に許さない「社畜ポリス」が闊歩する現代日本常見陽平/宮崎智之

古い常識と新しい常識が混在する時代の違和感を集め、分析した文庫『モヤモヤするあの人~常識と非常識のあいだ~』。とくに、会社や仕事をめぐる働く現場の理不尽さにモヤモヤした気持ちを抱く人も多いのではないでしょうか? 著者の宮崎智之さんと労働社会学者の常見陽平さんと語りあったモヤモヤ問題、2回目は、モヤモヤと向き合うときの姿勢から話は始まります。
(撮影:菊岡俊子)

「モヤモヤ」はビジネスの種にもなる

常見 本書には、マナーの問題も多く話題にされています。学生とランチするときによく注意するのが、「洋食を食べるときに皿を持つな」というマナーです。あと、自分の両親のことを、父・母ではなくて、お父さん・お母さんと人前でも平気で言う。

しかし、彼らには彼らなりの合理性があって、お皿を持つのはこぼさないよう工夫して食べているつもりなのでしょうし、学生にとって大切な拠り所である家庭のメンバーについて、親しみを込めてお父さん・お母さんと言っている。モヤモヤしますが、彼らなりの合理性を一度受け止めないといけないということを最近よく感じます。

宮崎 僕も就職活動をするまでは、父・母と呼ぶマナーを意識していませんでしたからね。

常見 そもそも、アカデミズムやジャーナリズムの世界だって、解き明かされていなかったり、評価が定まっていなかったりするものがたくさんあるんですよ。ある学説がもてはやされたかといっても、それが必ずしも正しいとは限らない。例えば、「若者が会社を3年で辞める」ことについては、調査が積み重ねられてきましたが、単純にデータだけでは割り切れない部分がある。若者をとりまく環境や教育、ライフステージなど、さまざまな問題が絡み合っている。だから、スパッとは割り切れないモヤモヤを大切にして問いを立て、そこから社会の気配を読み取ることが重要になります。

宮崎 すぐにスッキリさせない姿勢は、僕も重要だと思います。

常見 もう一つは、モヤモヤはビジネスの種だと思うんですよね。「どうしてだろう」と感じるところに、根本的な人間の不満や世の中の不条理がある。それを、どう取り除くかを考えることが、ビジネスにつながることがあります。そういう意味でも、モヤモヤを持ち続けることに意味があると思っています。

宮崎 まさに「モヤモヤ力」ですね。確かに、ビジネスのシーンでも役に立つかも!

大雪でも定時に出社する人は社畜なのか?

宮崎 常見さんのご著書『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』(晶文社)を楽しく読ませていただきました。会社員を早々にドロップアウトした僕ですが、「もう少し会社を活用すればよかった」と反省しました。一方、僕の本には、「大雪でも定時に出社する人は社畜なのか?」という話題があります(笑)

常見 それな!(笑)

宮崎 毎年、冬になるとSNSで同じような議論が繰り返されていますよね(笑)。インターネットの発達により、在宅でも可能な仕事が増えているのにもかかわらず、なぜか会社員には大雪でも定時に出社しなければいけないという同調圧力のようなものがある。どうして、そんな現象が起こるのか。

本書では「社畜ポリス」という言葉で説明しました。「会社員はこうあるべき」「いかなることがあろうと、定時出社は社会人の常識」という社畜的な考え方を内面化した自警団(ポリス)たちがうるさく風紀を取り締まるから、ほかの会社員たちも彼らの取り締まりから免れるために、危険を冒して定時出社しなければいけないのだ、と。

常見 ただ、「〇〇だったら帰ろうよ」という言説が、ふつうに議論されるようになっただけでも、まだマシになったと思いますよ。かつて、僕は大雪が降っているのに残業して営業会議をしたことがありますからね。「今日は早めに帰ろうよ」と言って会社を出たのが22時。電車もダイヤが大幅に乱れているから、一生懸命タクシーを探して帰ったという。なんで、そんな日にわざわざ営業会議をしなければいけないのか。だから、相変わらず同じ議論が繰り返されているとはいえ、少しは前進したと思います。

宮崎 今だったら、スカイプとかで会議すればいいだけの話ですよね。

常見 まだ携帯電話にインターネットがつながっていない時代のことですからね。当時、「新人は営業先に訪問したら、お礼状は手紙で書け!」なんて“常識”もありました。しかも、上司のチェックを経なければ、その手紙を出せないという。「字が汚い!」とか「これじゃあ契約はもらえないぞ!」とか怒られながら書いていました。今だったら、メールを送信すればいいことを、そこまで徹底していた。

飛び込み営業で名刺を集める新人たち

宮崎 『社畜上等!』には、常見さんが新人の頃、飛び込み営業して名刺を集める荒業が行われていたエピソードが書かれていますよね。部長クラス以上の名刺をゲットすると、ポイントが上がったり。

常見 やりましたね(笑)。しかも、わざわざ大阪に出張して、アウエイな環境で飛び込み営業をやらされました。お金も時間も、どれだけかかっているんだって話ですよ。まあ、それは理不尽でした(笑)

宮崎 今でも理不尽なことはたくさんありますけど、全体的に見れば、昔よりは少なくなってきましたよね。名刺を集める研修も、個人情報などに問題もあって、おそらく今は減っているのではないかと思います。ただ、昔と違うのは、今はSNSがあるから、理不尽なことが可視化されるということです。

常見 まだまだ理不尽なことは多いですけどね。東京で知的労働をしている人と、地方のロードサイドで暮らしている人とでは見えている世界が違うので、そこらへんには留意なければいけません。文化系の趣味を持っている人と、ロードサイドのTSUTAYAでEXILEを借りている人でとでは、感覚が違うわけで。

宮崎 その通りです。

常見 社畜の話に戻ると、日本の雇用問題の根底にあるのが、「就職」なのか「就社」なのかという問題があります。宮崎さんみたいにフリーランスになるタイプは、職に就くという感覚で働いていたと思うのですが、会社にしがみつく就社という感覚の人も多い。そういう人の中には社畜と呼ばれるような人たちがいる。

宮崎 それは根深い問題ですね。就社するという感覚の人が、社畜になりやすいと……

(後編につづく。6月18日公開予定です)

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関連書籍

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに〝彼氏面〟するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

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モヤモヤするあの人

文庫「モヤモヤするあの人」の発売を記念したコラム

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常見陽平 千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

北海道札幌市出身。
一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。
『社畜上等!』(晶文社)『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(KKベストセラーズ)など著書多数。
公式サイト http://www.yo-hey.com

宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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