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モヤモヤするあの人

2021.03.02 公開 ツイート

<役割ことばが使いづらい>

嫁、奥さん、旦那、主人…夫婦の呼び名がいまだ男尊女卑すぎる【再掲】 朝井麻由美/清田隆之(桃山商事)/文月悠光/宮崎智之

ふだん何気なく使っている「言葉」から、そこに潜む問題に気づかされる…ということはよくあることかもしれません。特集「男尊女卑は不自由だ」の再掲記事は、2018年7月に公開した、この風通しのいい座談会からスタートです。

*   *   *

彼氏・彼女か、恋人か、相方か――。自分の恋人を第三者に紹介するときになんと呼ぶか? 自分の配偶者を紹介するときは? 好評2刷となった『モヤモヤするあの人~常識と非常識のあいだ~』の発売記念イベント「恋愛でモヤモヤしている、すべての人たちへ」では、そんな呼び名にまつわるモヤモヤがたくさん浮上してきました。さて、どんな議論が展開されたのか。前後編にわたってお伝えします。
 

左から、登壇者の清田隆之さん、朝井麻由美さん、宮崎智之さん、文月悠光さん

「どうしても寝なければいけないとしたら、誰を選ぶ?」

宮崎 本日は、ワールドカップ日本代表戦の7時間前という、そわそわする日程ににもかかわらず、僕たちのイベントにお越し下さり、ありがとうございます。

本書は、ビジネスや日常生活で覚えるちょっとした違和感をスルーせずに、なぜそのことに対してモヤモヤするのかを突き詰めて考えていこう、という内容です。そして、今日のイベントは、価値観の変化が激しい世の中で違和感が集まりやすい「恋愛のモヤモヤ」に焦点を当てて、登壇者の方々といろいろと語っていけたらなと思います。

では、さっそく最初のモヤモヤを見ていきましょう。

・「ここにいる男性陣の中で、付き合うなら誰?」とか飲み会で言い出す奴

これは、本書の刊行を記念して、僕が幻冬舎plusに書き下ろしたモヤモヤです。実は、文月さんの著書『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)にも、似たようなエピソードが出てきます。

文月 初対面の方々の新年会に知人の紹介でまぜてもらったことがあったのですが、いつも馴染んでいる文化系の雰囲気とちょっと違っていまして、体育会系のノリが強かったんですね。その中にいた周りをグイグイ引っ張っていくタイプの男性が、「ここにいる男性陣と、どうしても寝なければいけないとしたら、誰を選ぶ? ランキング付けて」と、突然私に振ってきたことがありました。

宮崎 ひどいですね。僕が気になっているのは、こういうくだらないクソ質問をされたとき、女性は頭の中でどのようなことを考えているのか、ということです。取材した結果、以下の3パターンがあることがわかりました。

・ 勘違いされるリスクの少ない既婚者、彼女持ち、無害そうな男性を選ぶ
・ 忖度して、仕事関係で役職が高い男性や、その場で権力を持っている男性を選ぶ
・ 面倒臭いから適当に選ぶ

最後の、「面倒臭いから適当に選ぶ」がいいですよね(笑)

文月 私も酔っ払っていたので、やけっぱちで適当に選びました。どうせそういうこと言う人には二度と会わないですし(笑)。ただし、その質問をした人だけは、絶対に選ばないようにしました。

朝井 これって、正解のないひどい質問ですよね。だって、「勘違いされるリスクの少ない既婚者」とありますが、たとえ既婚者を選んだとしてもやっぱりリスクはあるじゃないですか。下手したら、不倫したい女というレッテルを貼られるかもしれない。さらに言うならば、その場で役職が高い男性を選んでも、「権力に取り入ろうとしている」と陰口を叩かれる可能性があります。

そして何より、別にその場の誰のことも好きじゃないのに、誰かを選ばなければいけないというこの苦行! 選んだら、「この子、コイツのことが好きなんだ」って周囲から勝手に思われるかもしれないんですよ。全然好きじゃないのに。マジで最悪です!(※朝井註 というか、このイベント後、実際にそういう勘違いを周囲にされて嫌だった過去を思い出してムカムカしました。嫌すぎて封印していた記憶です)

また逆に、選ばなかった男性のことはそれはそれで嫌な気持ちにさせるかもしれません。つまり、
誰を選んだとしても、「誰かを選んだ」「選ばなかった」という結果を女性側が背負わされることにモヤモヤする。本当にどうしようもない質問ですよ。

男が身につけるべき「ホモソ崩し」とは?

宮崎 女性が、「そういう質問、私は嫌いなんで」と断りにくいのも問題ですよね。

朝井 せっかく盛り上げようと思ってやってるんだから雰囲気壊すなよ、とか思われそう。

文月 この質問、聞く側のメリットって何なんですかね?

宮崎 まったくわかりません(笑)。自尊心を満たすためとか?

清田 この質問って、いわゆる「ホモソーシャル」と呼ばれる問題ですよね。女性をダシに男同士の連帯を味わう構造はホモソーシャルの典型的なパターンで、選ばれようと、選ばれまいと、「いえーい! 俺が1位だった」「俺は選ばれなかった!」みたいに、男同士でじゃれ合うための質問だと思う。

そういうものに巻き込まれてしまった際、自衛策を持っておこうとか、認識を改めて気にしないようにしようとか、やられた女性側に対策を求めるのは、僕は限界があると考えていて。だって、もらい事故みたいなものじゃないですか。だから、できれば男性側がどうにかそういう質問を食い止める必要があると思うんだけど、ぜひ、みなさんに紹介したい手法に「ホモソ崩し」というものがあります。

宮崎 ホモソ崩しとは?

清田 ホモソーシャル的な状態を崩す手法です。たとえば、宮崎くんがクソ質問をしたとしたら、ほかの男がすかさず「宮崎くんって、そういうことさえ言わなかったらカッコいいんだけどな~」と言ってみる。これはホモソ崩しのなかでも、知人男性に教わった「がっかりツッコミ」という技なんだけど。

朝井 ホモソ崩し、つよい!(笑)

文月 勉強になるなあ(笑)

清田 こういうツッコミを入れることによって「セクハラ質問=ダサい」という構図ができる。男の人は自分がダサい奴に思われることをとても恐れるので、しれっとその行動をやめる。こうやって男性が内側から悪ノリを壊さないと、ホモソはなかなか崩れないと思うのよ(笑)

宮崎 さっきから、どちらかというと男性に耳が痛い話が続いていますが、この取材でアンケートを取ったとき、結構、男性からも回答があったんですよ。男性も、この手の質問にモヤモヤしているということがわかりました。

朝井 男性も勝手に巻き込まれて、最下位とかだったら嫌ですよね。

宮崎 勝手に振られたみたいな(笑)。ホモソ崩し、僕も身につけていきたいです。

相方、将軍、彼ピッピ…… 恋人の呼び名は?

宮崎 次のモヤモヤは、僕と朝井さんと清田さんが、事前のネタ出しで挙げたものです。

・恋人や配偶者のことを「相方」って呼ぶ人

まずは朝井さん、これについてはどうでしょうか?
 

「相方」という呼び名問題については本書にも収録

朝井 「相方」だけじゃなくて、「彼氏さん」「彼女さん」もモヤモヤしますね。単純に「なんでそんな言い方をするんだろう」と思ってしまいます。お笑いコンビでもないのに、なんで相方って呼ぶんでしょうか。

清田 僕が大学生の時に付き合っていた人の話なんですけど、友達の時から彼女のことを「ねえ」とかふわっとした呼び方をしていたんですね。それで、僕の悪いクセなんですけど、「先生」とか呼んじゃって。

宮崎 どういうことですか?笑

清田 なんというか、敬称をつけると呼びやすくなる感じがあって、例えば「宮崎先生!」とかふざけて呼んじゃうときあるじゃないですか。相手は恋人なのに、だんだんそれが心地よくなってきちゃって、そのうち「教授」「社長」「首相」とか、最終的には「将軍」と呼んでいて(笑)

朝井 二人の間でふざけ合っているんじゃなくて? 二人の間の遊びなら、どうぞご自由にと思うんですけど……

清田 みんなの前でもそう呼んでしまっていたのよ。それであるとき「その将軍ってなんなの?」と彼女にキレられ、呼び名が確定しないまま別れてしまったという……

朝井 その話めちゃくちゃ面白いんですけど、今言いたいのはそういうのじゃなくて(笑)。

文月 第三者に恋人を紹介するときに、どういう風に呼ぶかですよね。

朝井 そうそう。

清田 お笑い芸人の男性たちって、みんな妻のことを「嫁」って言いますよね。あれ、なんか苦手なんだよなあ。

朝井 私も嫌ですね。

宮崎 「彼ピッピ」はどうですか?

朝井 そこまでいったら面白いけど(笑)。普通に、「彼氏」「彼女」じゃダメなんですか?

宮崎 僕の本にも、この問題を扱った文章が収録されているんですが、取材した限りでは、「彼氏」「彼女」という呼び名は性的なイメージが強い、と言うんですね。もちろん、そういうこともするんだけど、それが目的ではなくて、あくまで人生を一緒に伴走する「相方」として付き合っているというニュアンスなんだそうです。

朝井 それを聞くと逆に性的な感じがしますけどね(笑)。そんなこと、考えたこともなかった!

呼び名の裏に横たわるジェンダーの問題

宮崎 恋人とか配偶者の呼び名をどうするんだという問題は、特に僕らみたいな書き手にとって重要なものだと思います。だって、「彼氏」「彼女」という呼び名は、明らかに異性愛を想定したものじゃないですか。

朝井 そういう配慮をする必要があるときは「恋人」でよくないですか?

宮崎 でも、「恋人」はそれこそ性的なニュアンスが強いような……。そう考えると、一番汎用性が高いのが「パートナー」という呼び名なんですけど、横文字で意識高い感じがモヤモヤする。

文月 確かに、いざ自分が使うとなると、少し鼻に付く感じで抵抗があります。

朝井 私が思うのは、恋愛関係よりも、夫婦関係を表す呼び名が本当にないなって。恋愛関係の呼び名モヤモヤは、「鼻に付く」程度で終わるんですけど、夫婦関係の呼び名はもっとジェンダーとか、捨て置けない問題がある。自分の配偶者を人に紹介する場合は、「夫」「妻」でいいんだと思います。プレーンな感じで、背景に余計な意味合いがない気がしますし。でも、他人の夫のことは、「夫」と呼ばないですよね。だから、今のところ、「旦那さん」「奥さん」しか呼び名がないんだけど、それだとジェンダー的な問題が出てきてしまう。

文月 女性を「奥にいる人」って呼ぶのは違和感がありますよね。

宮崎 同じような問題に、「主人」「家内」もあります。夏目漱石の小説なんかを読むと、「細君」って言葉を使っていますけど、これも今の時代には絶対にそぐわない呼び名ですよね。

朝井 もう「配偶者」って呼ぶしかない!

宮崎 でも、「あなたの配偶者は元気ですか?」って聞いたりするのは……(笑)

文月 この前、ある方とメールしている時、相手が「妻さん」という言葉を使っていたのですが、たぶんそういうことを気にされている方なんだと思います。

清田 坂元裕二さん脚本のテレビドラマ『カルテット』では、「夫さん」という呼び名を使っていました。かなり「夫さん」を連呼していたので、あれは絶対に意識的にやっているはずだと思う。

朝井 ちょっとモヤモヤしますけど、それが定着すれば、違和感がなくなるんですかね。

文月 でも、やっぱり少し変な感じがする。

清田 語呂があんま良くないのが難点かもね。

朝井 夫婦の呼び名は男尊女卑だった時代からの言葉ですから、今の時代にあった呼び名がないんですよ。

清田 自分の場合、他人の前で妻を呼ぶ時は、普段の呼び名で呼んでます。

宮崎 普段呼んでいる名前、つまり「○○ちゃん」とかですよね。

朝井 でも、初対面の他人からしてみると、清田さんの配偶者のお名前を知らないわけで。

清田 そうか……。

宮崎 入籍しているのか、していないのか。していないパートナーのことをどう呼ぶのか、っていう問題もありそうです。

文月 なかなか、しっくりする呼び名が思いつかないですね。

宮崎 どうしよう。モヤモヤしすぎて、これだけでイベントが終わっちゃいそう(笑)。

清田 これぞモヤモヤ(笑)

宮崎 「相方」問題については、ここでは結論が出ないと思いますので、引き続きモヤモヤしていきましょう。語呂がよくて、ポップで、ジェンダー的にも問題がない呼び名を発見できれば、たくさんの人のモヤモヤが解消できると思います。今日は、「#モヤモヤするあの人」というハッシュタグを用意しましたので、会場のみなさんも、できれば一緒に考えてもらえるとうれしいです。

後編に続く)

関連書籍

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに〝彼氏面〟するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

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モヤモヤするあの人

文庫「モヤモヤするあの人」の発売を記念したコラム

バックナンバー

朝井麻由美

ライター/編集者/コラムニスト。著書に『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)、『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA/中経出版)。一人行動が好きすぎて、一人でBBQをしたり、一人でスイカ割りをしたりする日々。 Twitter:@moyomoyomoyo

清田隆之(桃山商事)

1980年東京都生まれ。文筆業。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛とジェンダーをテーマにコラムを執筆。朝日新聞be「悩みのるつぼ」では回答者を務める。
単書に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)、『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)、桃山商事名義としての著書に『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(イースト・プレス)、澁谷知美氏との共編著に『どうして男はそうなんだろうか会議──いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(筑摩書房)、トミヤマユキコ氏との共著に『文庫版 大学1年生の歩き方』(集英社)などがある。

文月悠光

詩人。1991年北海道生まれ、東京在住。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。そのほかの詩集に『屋根よりも深々と』(思潮社)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。エッセイ集に『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)がある。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、詩作の講座を開くなど広く活動中。 Twitter:@luna_yumi

宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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