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モヤモヤするあの人

2018.06.08 公開 ツイート

「ここにいる男性陣の中で、付き合うなら誰?」と聞かれたとき、女子が頭の中で考えていること 宮崎智之

iStock/violet-blue

古い常識と新しい常識が混在する時代の違和感を集め、分析した6月8日発売の文庫『モヤモヤするあの人~常識と非常識のあいだ~』。発売を記念して、書き下ろしモヤモヤをお届けします。

「寝なきゃいけないとしたら……」というパターンも

ちょっと前のこと、ある飲み会で酔っ払った男性がその場にいた女性に対し、「ここにいる男性陣の中で、付き合うなら誰?」と質問し始めた。でた、いつものあれだ。学生時代から数えて、いったい何度同じ場面に遭遇したことか。筆者(男)はその場でうつむいた。

この手の質問が飲み会で投げかけられて、気まずい思いをしなかったことがない。クソみたいな質問をされて困惑する女性に、「ねえ? 誰と付き合う? 好みの顔の人でもいいよ」などとしつこく詰め寄る言い出しっぺの男性。

強制的に「選ばれる側」にまわされた他の男性陣もいい迷惑だ。時には、「目をつむって手を差し伸べ、女性にタッチしてもらう」なんて謎の儀式にも発展する。まるで競りにかけられた家畜になった気分である。勝手に巻き込まないでほしい。心からそう思う。

しかし、なんと言っても迷惑なのは女性である。周辺の女性たちに話を聞いても、このような場面に何度も遭遇し、そのたびにモヤモヤしているそうだ。

『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)によると、著者で詩人の文月悠光さんも、ある業界の集まりで同じような場面に出くわしたそうである。しかも、文月さんの場合は、「寝なきゃいけないとしたら誰?」という、さらに下世話な質問だったらしい。あまりにも酷すぎる。

この手の質問をされた時、女性は頭の中でどのようなことを考えているのか。筆者は長年、そんな疑問を抱えていた。そして今回、この原稿を書くにあたってインターネットでアンケートをお願いすると、わずか2日あまりの間に150件近い女性からの回答が集まった。どれも、熱の入った心の叫びばかりである。それほど、この質問に悩まされている女性が多いのだ。著者はさらに周辺取材も追加して、女性たちの声を拾った。

結論から言ってしまうと、取材の結果、ほとんどの女性はこの手のくだらない質問には、素直に答えないとうことがわかった。大切なことだから、もう一度言おう。女性は素直には答えない。だから、そもそもこの質問自体がナンセンスなのだ。仮に「付き合いたい男」に選ばれて気を良くしている男性がいたとしたら、それは大いなる勘違いである。

それどころか、この質問自体を不快に感じたり、状況によってはセクハラだと憤ったりしている女性の多いこと。さっそく、アンケートと取材の結果を紹介していきたいと思う。

「自分はイケてると勘違いした馬鹿」

まずは、「ここにいる男性陣の中で、付き合うなら誰?」と聞かれた時、女性がどのように感じるのか、改めて見ていこう。

「誰も得しない質問をなんでするの? センスねー!と思います」(30代)

「あーつまんねー、めんどくせーと心のどこかで思いますね」(30代)

「不愉快だけど、仕事の飲み会だったら仕方ない。お金、お金と思って我慢する」(30代)

「誰か選ばれて当然と思っているのが傲慢」(40代)

「自分が相手の恋愛対象に入っていることを想定することの自意識の高さと、建前でも答えざるを得ない状況を相手に強制することの配慮の薄さに落胆する。どうしても選ばないといけない状況になるクソ飲み会なら帰ります」(20代)

「この手の質問をする奴は、たいてい自分はイケてると勘違いした馬鹿」(30代)

「前の会社の上司が『会社の中で、誰がいい?』と聞いてきたので、『いません』と答えていました。それでもしつこく『既婚者でも誰でもいいから、一人選べ!』と言われ、適当な人を言うと、その人が好きだと広められてしまいました。それからこの手の質問には、軽い気持ちで答えちゃだめだと思いました」(40代)

「少なくとも、そういう頭の悪い質問をする人とは付き合いたくないです」(20代)

どうだろうか。ここまで不評を買っているのにもかかわらず、質問をする男の気持ちが筆者にはわからない。本人は場を盛り上げようとしているつもりなのかもしれないが、盛り上がるどころか、女性をドン引きさせているケースのほうが圧倒的に多い。実際にアンケートや取材で「ノリノリで答える」と回答した女性は、ごくごく少数だった。

また、女性からは「言い出しっぺの男性だけは絶対に選ばない」という声が多かった。その質問をした時点で論外、アウトオブ眼中である。「そう聞く人は、たいがい自分が選ばれることを期待している」との厳しい意見もある。もし、自分の自尊心を満たしてほしいがために質問している男性がいるとしたら、完全に逆効果なのでやめたほうがいい。

どうしてもなら…… 女性が男性を選ぶ3パターンの思考

しかし、とは言ってもその場をしらけさせないために、なんらかの反応をしなければいけないから、女性は大変だ。本当にいい迷惑である。女性はどのように対処し、どうしても選ばなければならない場合には、どういう基準で男性を選んでいるのだろうか。

「『いや〜、わたしなんかが選べないですよ、素敵な男性には素敵な女性が似合いますから〜』とかいう、ぺらぺらの嘘をつく」(20代)

「芸能人などの名前をあげつつ、ふざけて話題を変えることで対処します」(20代)

「彼女持ちや既婚者を選ぶ。基準は『いちばん面倒なことにならない相手』です」(30代)

「勘違いするタイプは回避して、無害そうな男性を選ぶ」(40代)

「自分の好みとはかけ離れた人、害がなさそうな人、イケメンでない人を選びます」(30代)

「2、3番目に顔が良い人を選ぶ。あーなるほどねぇ、と対処されて、その後に影響しづらいから」(20代)

「本当にいいな、と思っている人の名前は絶対に言いません。当たり障りない人か、既婚者がいたら、愛妻家で有名な人を選びます。仕事関係の場合は、その場で一番偉い人」(20代)

「一番、役職が高い人を選ぶのが無難……」(50代)

「いつもその手の気持ちの悪いセクハラ質問に対しては、役職、仕事ぶり、年齢、見た目を総合的に判断し、場の空気を読みながら忖度して相手を選んでいます」(20代)

「面倒臭いから適当に選びます。どうせそういう人たちとは二度と会わないし」(20代)

著者が取材した限りでは、女性が男性を選ぶ基準で代表的なのは、以下の3パターンである。

・ 勘違いされるリスクの少ない既婚者、彼女持ち、無害そうな男性を選ぶ
・ 忖度して、仕事関係で役職が高い男性や、その場で権力を持っている男性を選ぶ
・ 面倒臭いから適当に選ぶ

つまり、これは男性の自意識に対し、女性が接待的に上辺の返答をするクソゲームなのだ。女性は素直に答えない。その回答によって男が自尊心を満たす。これがすべてなのである。

だとしたら、この手の質問は、いったいなにが目的で行われているのか。本当に誰か教えてほしい。評判を落とすうえに、上辺の回答しか得られない質問をする男性は、マゾなのか、それとも認知の歪みを抱えた残念な人物なのだろうか。いずれにしても、誰も得しない状況にその場を陥れる質問をしているということを、男性は自覚したほうがいいだろう。

男性の“弱さ”が内包されている?

ところが、それでもこの世から根絶されないのが、この手の質問をする男性のしぶといところである。最後に、どうしても答えたくない場合、女性はどう切り抜けているのかを聞いた。クソみたいな質問に辟易している女性は、参考にしてほしい。以下、さっそく見ていこう。

「冗談で、『年収を教えて!』って聞く」(30代)

「『この中で誰が石油王なんですか?』と聞きます」(40代)

「『一番頭のよい方、立候補くださいな!』と相手に水を向けます」(50代)

「同僚に聞かれたときは『顔だけで選ばれたいですか? 金だけで選ばれたいですか? 好意はないですから、まったく参考になりませんけど聞きたいですか?』と尋ね返すことにしていました。だいたい、嫌がられて逃げられました」(40代)

「『そんな退屈な質問をしない人かな♡』と笑顔で返す」(20代)

「『ご飯に行くなら〇〇さんだけど、優しそうなのは△△さんかな』など、複数挙げてやはりはぐらかします。一人に絞ってと言われたら、『食い下がるね〜』などと言って、しつこくて迷惑がっていることがわかるように伝えます」(40代)

この取材をしている時、ある女性から「この質問には、男性の“弱さ”が内包されているね」と指摘された。彼女いわく、本当に自信がある人はこんな質問はせず、たとえお世辞だとしても自分を選んでほしい、そして自己肯定感を高めたいと思っている男性が酒の力を借りて質問してしまう、というのだ。

なるほど、彼女の言うことには一理あるかもしれない。そうでもしないと、自分の男性性を確認できない時代になったのだろうか。しかし、だからといって女性を不快にしていいわけではないし、筆者のようにモヤモヤしている男性がいることも忘れないでいただきたい。

「ここにいる男性陣の中で、付き合うなら誰?」と聞かれたとき、女子が頭の中で考えていること、それは言うなれば“虚無”である。楽しい飲み会に虚無を持ち込み、その場を荒涼とした焼畑にしてなにがうれしいのか。男性諸君は、今一度、考えてみる必要がある。

*   *   *

……さらなるモヤモヤについては、『モヤモヤするあの人』をご覧ください。

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宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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