
第10回で書きましたが、Titleでは個人が制作したリトルプレスや、自費出版の本なども扱っております。出版社が商業的に作るものに比べると形や内容は様々であり、「作りたいものを作った」という自由な雰囲気が、その魅力です。

よく取材などで、「こうしたリトルプレスはどうやって仕入れるのですか」と聞かれることがあります。もちろん話題になっているものを調べて、こちらから連絡する場合もありますが、最近では作者が店頭に持ってこられたり、送ってこられたりする場合が多くなりました。こうしたリトルプレスは、作っている人が取扱店を公開している場合が多いので、そのサイトを幾つか見れば、置いてくれそうな店の目星は付けることができます。
しかし困るのは、Titleがどういう店かを調べずに、「個人の自主製作の本も扱っているらしい」という理由だけで持って来られる場合です。「いや、絶対面白いから」と言われても、本屋のスペースは限られているうえに、店に合わない本を並べていると、売れる本まで売れなくなります(本当です)。だから店に並べるものは、自主製作のものも、出版社が出しているものと同様に、置きたいと思うものは限られます。

これはその場に立ってみるとわかりますが、人の作ってきたものを、目の前で断ることは、精神的にとても疲れます。私の知り合いでも、「自分には断ることができないから、リトルプレスの扱いは嫌だ」という人を知っていますが、その気持ちはとてもよくわかります。
お断りする場合は、できるだけその本を否定しないように、店と合わないということを説明する場合が殆どです。しかし、「お持ちになった本は、他の本と比べたときに、知り合いでない人が、お金を払って買うまでには達していないと思う」ということを率直にいう場合もあります。大抵は納得して聞いてくれますが、まさか断られると思わなかったのか、がっかりとして帰るときの姿を見ることは、何度経験してもそのたびに心が痛みます。
店の看板を出すということは、そこに来るものから逃げることができないということです。すべてを受け容れることができれば心は痛まなくてすみますが、それだけでは店の運営はできません。
今回のおすすめ本

「雰囲気のよい」ということばは便利だけど、わかったようでわからないところがあるからあまり使わないようにしている。しかしそれでも、この本は「雰囲気がよい」。その雰囲気のよさは、使われていることば、画面として本文を見たときに文字が窮屈でないか、その本の手触りなど、あらゆることが違和感なくその本に納まっているからだと思う。しみじみと、小さなころの感覚を思い出す本です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年8月9日(土)~ 2025年8月26日(火)Title2階ギャラリー
岡野大嗣と佐内正史の写真歌集『あなたに犬がそばにいた夏』(ナナロク社刊)の刊行記念展。佐内正史の手焼き写真5点の展示販売、岡野大嗣の短歌と書き下ろし作品などなど、本書に描かれる夏の日が会場にひろがります。短歌×写真のTシャツ「TANKA TANG」ほか刊行記念グッズの販売もございます。ぜひ足をお運びください。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
〈いま〉を〈いま〉のまま生きる /〈わたし〉になるための読書(6)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は〈いま〉をキーワードにした2冊。〈意志〉の不確実性や〈利他〉の成り立ちに分け入る本、そして〈ケア〉についての概念を揺るがす挑戦的かつ寛容な本をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。