Titleをはじめてもうすぐ二年になるので、その間には数多くのお客さまと接してきました。しかしいまだに慣れないのは、「さて、こだわりの棚を拝見いたしましょう」とこちらの顔を見るなりそう言ってから、店内を見て回るおじさんです(そのほとんどはおじさんです)。「いや、どうも……」などと適当にお茶を濁していたら、たいがいの場合は「この店のこだわりはなんですか」とさらに尋ねてこられます(困ったな)。
連載を読んでこられたかたならお気づきかもしれませんが、本屋をやるにあたってはいちおう様々なことを考えているので、その一つずつをとってみればこだわりと言えなくはないのかもしれません。しかし、そうしたことを短時間で一つ一つ説明することはできませんし、それを簡単に説明できるだろうと思われていることもなんだか癪にさわります。
「こだわりは特にありません。バランスに気をつけてやっているくらいです」と仕方なく答えると、大概の場合尋ねたお客さまも肩すかしにあったような曖昧な顔をして、気がつくといつの間にか店からも出ていかれます。いや、正直に答えただけなのですけど……。
まず「こだわりを教えてくれ」と聞かれることは、取材のときにもよくあります。進んで答えたくない質問ではありますが、それはなぜだろうと自分でも考えてみると、店を簡単に消費しようとする気分がそこに表れているからではないかと思いたちました。本屋に限らず店をやっている人は、簡単には消費できない、一言では片づけられないことこそを、店で感じてほしいと思っているのではないでしょうか。
すぐに「店のこだわり」を知りたいという人は、そこにある本ではなく、その店に来たということのほうが重要なのかもしれません。足をわざわざ運んでくれるのは嬉しいのですが、店はスタンプラリーのチェックポイントではないので、店に来て写真を撮って終わりでは、お互い何かさみしい関係しか残りません。まあ、そのような偏屈な店に用事がある人も少ないのかもしれませんが……。
今回のおすすめ本
『shunshun Calendar 2018』著者:素描家しゅんしゅん 自主制作
Titleで人気の、しゅんしゅんさんのカレンダー。これ、全部素描ですよ。じっと見ていると、うっとりとして時間を忘れます。その月が終われば一枚の絵として、お部屋に飾っても素敵です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー
科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
◯【書評】New!!
『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
◯【お知らせ】New!!
店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
○黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編 / お買いもの編
◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】
スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号
『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。
本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。