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うかうか手帖

2025.12.09 公開 ポスト

余白の時間益田ミリ(イラストレーター)

次の用事の前に3時間ほど余白ができた。

カフェで一息?

いやしかし、とんでもなく素晴らしい秋晴れだ。

澄んだ空、鳥のさえずり、紅葉。

行くしかないな、新宿御苑。

新宿伊勢丹の地下でパンを一個買い、スタバに寄る時間もおしくて飲み物は水筒のお茶でヨシとする。

到着、新宿御苑。入場は交通系ICでピッ。券売機に並んでいるのは海外からの旅行者さんたち。日本の紅葉を見に来たのだろうか。

秋の空気がぐわんと肺に入ってくる。

「なんか、スッとする」

ひとりごとをつぶやきながら目指すベンチに進んで行く。

秋限定の好きなベンチがあるのだ。

しばらく歩けばわたしのベンチ(わたしのじゃないけど)。女性がふたり座っていた。でも、ちょうど立ち上がった。

空いた!

ちょい早歩きでゲット。

 

目の前に大きなイチョウの木。葉はレモンくらい黄色く色づいていた。

なんて、きれい。

買ってきたパンをかじりながらゆったりと見上げる。

上の方で風が吹いた。木の葉がふれあう音。イチョウの葉が雪のように降ってくる。

「いいな、あの席」

わたしが通り行く人ならきっとそう思うであろう席に、今、わたしは座っているのだった。

もう、ここだけでいいや。新宿御苑には好きなエリアが他にもたくさんあるし、たぶん冬の桜が咲いている頃だけれど、今日はこのベンチにだけいよう。マイベンチで秋を楽しむ余白の時間だった。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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