「おいしかったんですよ、ソフトクリームが」
と言った人の「おいしかった」がおいしそうだった。
「かわいいんですよ、ヤマネのぬいぐるみが」
の「かわいいんですよ」にも、かわいさがにじんでいた。
行ってみようか、清里。
わたしは山梨県の清里についてなにも知らなかった。80年代には、高原の原宿、と呼ばれたほど若者がこぞって訪れていたという観光地らしい。
80年代。DCブランドがぶいぶい言わせていた時代でもある。DCブランドの洋服欲しさに高校時代は地元大阪でバイトに明け暮れ、清里が繁盛している情報どころか、東京ディズニーランドというものが日本に完成していたことを友達のお母さんの東京ディズニーランド土産(耳かき)で初めて知ったくらいだった。
さて、清里である。一泊二日。新宿から電車に乗って約2時間30分。清里に到着した。駅前は人がまばらであったが、猛暑なので普通の光景である。そもそも昔の賑やかさを知らないから「さびれた」印象もない。
ポット型のカフェがあるらしい。
あった。
清里が若者に大ブームの頃、人気の土産物屋だった「ミルクポット」という店がカフェになって復活したのだとか。
外観が白いポット。確かに80年代風のファンシーなかわいさ。
ポットの中に入り季節のソフトクリーム、シャインマスカット味を注文する。甘酸っぱくておいしかった。
しかし、知り合いが言っていたソフトクリームはここのではなかった。それは、このあとバスに乗って食べに行くのである。
宿泊施設や牧場、土産物屋やレストランなどがぎゅっと詰まった「清泉寮」という施設にそのソフトクリームはあるらしい。
清泉寮は家族連れで賑わっていた。ソフトクリームは大行列。むろん、並んで食べる。昔ながらの素朴な味わい。ちょっと黄色いソフトクリームだった。
物販コーナーでヤマネも発見した。教えてくれた人が子供のころ家族で清里に来て買ってもらったという小さなぬいぐるみ。
かわいい……。
買うしかないだろう。磁石でくっつくタイプのヤマネを購入する。
夜は旅行会社でおすすめされたプチホテルに一泊。家族経営のアットホームな宿で、掃除が行き届き、館内のあちこちに生花が飾られていた。切り盛りしている息子さんが「お母さん、それ僕やるから」と、てきぱき働いている姿が頼もしく、食事は夜のフレンチから朝食に至るまで手が込んでいた。
翌日は清里駅から歩ける距離の「萌木の村」に行ってみる。野外ショッピングセンターとでも言おうか? レストランや雑貨屋、ホテル、メリーゴーラウンド。広い敷地に700種の植物が植えられており、植物園のようでもある。
「ROCK」というレストランのカレーが有名らしく、開店前には行列ができるのだとか。
「ROCKのカレーが関東甲信越限定でランチパックとコラボするらしいですよ」
宿の人が言っていた。
ランチパックもまた80年代の発売ではなかったか。近所のおばさんが「ものすごくおいしいから」と興奮して買ってきてくれたのがランチパックとの出会い。
え、コレ、食パンやん?
ピーナツクリーム入れてるだけやん?
衝撃を受けつつ食べたランチパックもロングセラーである。
ROCKに開店15分前に行ってみたら行列になっていた。天井が高く広々とした店内。大きな窓から園内の庭が見える。
朝食が遅かったので、少量サイズのビーフカレーをオーダー。濃い色の欧風カレー。こういうカレーをときどき無性に食べたくなる! というレストランのおいし懐かしカレー。ほとんどのお客さんがカレーを食べていた。カレーにはレーズンバターがのっていた。
はじめての清里旅。ヤマネを連れて東京に戻った。
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ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。