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あなたとわたしの生存確認日記

2026.03.08 公開 ポスト

真正面から全部で悲しい、までにはちょっと(2月8日)―焼きそば粉末スープ。ミニ七味。サッポロ一番塩らーめんのゴマ。燃え殻

2026年2月8日

今朝は、窓から伝わる冷気で起きた。ベランダに雪が薄っすら積もっている。

雪が降ると、街が静かでいい。そして眠くなる。

二度寝後、ジャージ上下にダウンジャケットを羽織って、選挙に向かった。投票所になっている小学校の校庭が雪でぬかるんでいて、スニーカーが泥だけになった。

午後から、実家の父のところへ。

父への手土産は草餅と桜餅。母へは、好きだった赤飯を買った。

 

妹も来て、家族三人でお茶を飲みながら、母の話。父は過剰に盛るタイプなので、いやいや普通にしてくれ、と思うところもある(母がいないのに、母のベッドに湯たんぽを作って入れる、とか、ときどきこちらと会話しながら、母に語りかけるとか)、ただ、冷蔵庫の中に母が買っていたピーマンを見つけ、「お母さん……」と涙目になったとき、さすがに心配になった。ある程度の盛りはあるにしろ、もちろん落ち込みはすごい。母はピーマンを使って、なにを作ろうとしたんだろう、と三人で話た。母は冷蔵庫に、焼きそばの粉末ソース、ミニ七味、サッポロ一番塩らーめんのゴマなどを大量に残していた。

妹はお湯を沸かし、台所を片付け、ご飯を冷凍にしたり、味噌汁を作ったり、大忙し。感謝しかない。

***
渋谷道玄坂で、Tシャツ短パンの外国人ふたり組が、ランニングをしていた。信じられず、二度見。

***
その場で怒りをあらわにできないタイプだ。イヤだなあ、くらいは思う。でも、その場ですぐに怒りが沸点に達する、ということがない。だいたいが、半月、長いときだと半年くらい経って、シャワーを浴びているときなどに突然、「あれ、ムカついてた!」となる。鈍感と言えば鈍感なのかもしれない。怒りや悲しみを感じることにどうしても時差が生まれる。

まだ母のことで、真正面から全部で悲しい、になっていない気がする。まだらに悲しい、くらいな気がする。真正面から全部、になったら仕事ができなくなるかもしれない、と思っている。だから、そうなる前に、と今日原稿を三本書いた。書いてしまった。自分のそのドライな考え方が、この世の全部に冷めているみたいで、ときどき本当にイヤになる。

* * *

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(アイコンイラスト:大橋裕之)

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燃え殻

1973年生まれ。2017年『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビュー。同作はNetflixで映画化、エッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+でドラマ化、『湯布院奇行』が朗読劇化(原作)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』がコミック化とHuluでドラマ化(原作と脚本)された。著書に小説『これはただの夏』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』『ブルー ハワイ』『愛と忘却の日々』ほか多数。

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