一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第53回 群ようこ『サチコ』
内向きで、控えめで、読書さえしていれば幸せ。
そんなサチコが55歳で長年勤めた職場を早期退職し、自宅から徒歩3分の「食堂キング」でアルバイトを始めた。初めての接客が不安なサチコだったが、気のいい店主夫婦やユニークなお客さんたちに囲まれ、遅ればせながら人生の色々を学んでいく。けれど、店主の腰痛が長引いて、キング閉店の危機が……!?
皆さん、こんにちは。ここに幸あり、海にシャチあり。アルパカ内田です。
なんていい小説なのだろう。ページをめくるうちに主人公に感情移入し、他人事ではなくなった。派手なストーリーではないが、この「普通さ」が格別の説得力を醸し出しているのだ。
主人公サチコは「本」が友達の、どこにでもいそうな独身女性である。恵まれた家庭に育ち、敷かれたレールを進んでぬるま湯の日々を過ごしていたが、気づけば婚期を逸し、仕事も辞めた。そんな失意の55歳を変えたのは、情に溢れた町の小さな食堂だった。
人は孤独であっても一人では生きていけない。無愛想ながらフロア係として奮闘するサチコにとって、この店はまたとないリスタートの現場だった。慎ましくも懸命に働き続ける店主夫婦や、個性的な常連たちとの交流の中で、生きる意味と自分の居場所を見つけていく。不器用すぎる彼女の存在は、決して哀れではなく、人間味があって愛おしい。その直向きな姿にストレス社会に疲弊する我が身を重ね、いつしか大きな声援を送っていた。
本書から伝わるのは、乾ききった日常に新鮮な刺激を与えてくれる「潤い」と、孤独な暮らしを癒してくれる「温もり」だ。さらに懐かしい昭和の「匂い」と、身体の奥底から湧きあがる青春の「息吹」も絶妙なスパイス。これらの要素は現代社会が忘れてしまった大切なものばかりだ。読めばちょっぴり若返るアンチエイジング小説であり、読後の爽やかさも印象深い人間讃歌の物語なのでもある。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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