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シンギュラリティ・ビジネス

2017.07.11 公開 ツイート

世界のトップエリートは「10%アップ」でなく「10倍アップ」の成果を目指す 齋藤和紀

10%アップを目指すより10倍を目指す

 シンギュラリティ大学のプログラムは複数ありますが、GSP、EP、APの講義内容に大きな違いはありません。そこではまず、これまで本書で述べてきたような「エクスポネンシャル思考」の枠組みを徹底的に叩き込まれます。

 たとえば、「10%アップを目指すより、10倍を目指そう」という考え方。これは何度も何度もいわれました。製品のクオリティであれ、仕事の生産性であれ、多くの人は10%の向上のために大変な努力をしています。そうやって地道にコツコツと改善を積み重ねていくことが大事だと思われているわけですが、その10%の改善が注いだ労力と釣り合っていない可能性もあります。

 もちろん、「10%増」ではなく「10倍」を目指すとなったら、同じ努力ではいけません。努力の量ではなく、そのやり方自体を根本的に変える必要があります。しかしその目標が達成されたとき、そのための努力は「10%増」を目指した努力よりもはるかに報われているでしょう。

 こうした考え方の根底にあるのは、「アウト・オブ・ボックス」という発想です。私たちは既成概念という「箱」の中で物事を考えがちですが、「箱」の外にも世界があるとすれば、小さな箱を少しずつ大きくするのではなく、一気に10倍を目指す姿勢にもなれます。さらにいえば、そして、そもそもそこに「箱」があるのかどうかを疑ってみる。そもそもその「箱」は、私たちがつくりあげた幻想かもしれないからです。

 また、講義では「時代を追わずに先を見よう」という考え方も強調されました。

 たとえば小さな子供がサッカーを始めると、みんながボールを追いかけて一カ所に群がります。でも、そのボールを蹴ることができるのは1人か2人程度でしょう。そこか
らボールが蹴り出されると、またみんなでそちらに向かって走っていく。走ってばかりで、最後までほとんどボールに触れない子もいます。

 しかしアイスホッケーでは、初心者がプレーしてもそうはなりません。サッカーと比べてパックの動くスピードが速いので、「追いかけても間に合わない」とすぐにわかるからです。そのため、みんな「次にパックがどこに行くか」を予測して、先回りしようとする。ビジネスも、変化のスピードが速いときほど時代の「いま」を追わず、その先に何が起こるかを予測して動くことが大事なのです。

 そして、先を見て新しいことを考えたら、それを大々的にぶち上げて仲間を募る。これもシンギュラリティ大学の教えの大きな特徴です。

 テーマをぶち上げて仲間(この場合は応募者)を集めれば、それがいつの間にか実現している。これはシリコンバレー全体の基本マインドでもあります。とにかく最初は目立って多くの人に知られることが大事。とくに米国社会には、黙々と努力していても何も起こらず、単なる自己満足で終わってしまうという風土があるので、「良くも悪くも目立たないと負ける」という意識が強いのでしょう。

「人類の課題はテクノロジーで必ず解決できる」という信念

 さらに、そういったマインド全体を支えるのは「ポジティブ・シンキング」です。

 人間には生存本能があるので、とくに自分たちの命や生活に関わる悲観的なニュースには10倍ぐらい過敏に反応してしまう傾向があります。だからマスメディアもネガティブなニュースを盛んに発信して売ろうと考えるわけですが、それにいちいち反応していたらポジティブな考え方はできません。

 たとえば環境問題にしても、20年ほど前には「石油があと10年で涸渇(こかつ)する!」というネガティブな報道が盛んに行われました。実際には涸渇しなかったわけですが、そういうポジティブな事実は売れないのでニュースになりません。「地球温暖化でオゾンホールが破壊されている」という話もそうです。じつはすでに地球のオゾン層は改善の傾向があるのですが、よいニュースはニュースにならないので、まだほとんどの人はそれを知りません。事実に反するのに、いつまでもオゾン層の心配をしている人のほうが圧倒的に多いはずです。

 もちろん、いまでも地球や人類は困難な問題をいくつも抱えていますが、シンギュラリティ大学ではそれを「テクノロジーで必ず解決できる」とポジティブに考えさせます。

 環境問題であれ、医療問題であれ、これまで技術が追いつかずに解決できなかったものも、エクスポネンシャルなテクノロジー進化があればいずれ解決する。その信念こそが、シンギュラリティ大学で与えられるマインドセットの根幹にあるのです。

 ですからシンギュラリティ大学では、さまざまな最先端テクノロジーの現状と未来についても詳しく教えます。私が受講したEPでは、真ん中の3日間でそれをみっちり学びました。ナノテクノロジー、宇宙開発、太陽光エネルギー、IoT、ブロックチェーンなど、それぞれの領域でトップを走る専門家たちが目の前でスピーチをしてくれます。

 そうやって超一流の学者たちから直に最先端の話を教えてもらえるのが、シンギュラリティ大学のすごいところです。

 しかもこれによって、受講生が多様な分野で何が起きているのかを横断的に理解することができることも、大きなメリットでしょう。従来のビジネススクールなどでも科学技術について学ぶことはできましたが、その多くは一部の分野に特化されていました。

 しかし現在の科学技術は、たとえばバイオテクノロジーとナノテクノロジーがお互いにインパクトを及ぼし合って高い次元にステップアップを果たそうとしているように、異分野同士がつながることでシナジー効果が生じるのが特徴です。そういう実態を把握しなければ、エクスポネンシャル思考の土台となる現実認識が身につきません。

 こうして物事の考え方とテクノロジーのトレンドを叩き込まれると、受講前とは完全にマインドセットが変わってしまいます。あまり印象のよくない言葉かもしれませんがいわばシンギュラリティ大学の価値観に「洗脳」されるようなものでしょうか。カーツワイルはシンギュラリティを「人間の能力が根底から覆り変容する」レベルの現象だといいました。そんな激変期を迎え撃つリーダーを育てるには、心のあり方を一変させるような教育が求められるのは当然のことだと思います。

  * * *

 GSPへの日本人初の参加者のアイデアなど、さらに詳しくは、書籍『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』をお読みいただけると幸いです。
 次回は7月18日公開予定です。

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シンギュラリティ・ビジネス

2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?

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齋藤和紀

1974年生まれ。早稲田大学人間科学部卒、同大学院ファイナンス研究科修了。シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラム修了。2017年シンギュラリティ大学グローバルインパクトチャレンジ・オーガーナイザー。金融庁職員、石油化学メーカーの経理部長を経た後、ベンチャー業界へ。シリコンバレーの投資家・大企業からの資金調達をリードするなど、成長期にあるベンチャーや過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支える。エクスポネンシャル・ジャパン共同代表、Spectee社CFO、iROBOTICS社CFO、Exoコンサルタント。

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