アメリカの著名な起業家、ピーター・ディアマンディスは、テクノロジーの進化は、「エクスポネンシャルの6D」という道筋をたどると述べています。このようなテクノロジーの進化は、人類の未来に、具体的にどのような恩恵をもたらすのでしょうか。
News Picks編集長・佐々木紀彦さんも「AI入門の決定版だ」とお薦めの『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』著者の齋藤和紀さんが、解説します。
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飛躍的な向上を遂げているソーラーパネルの発電効率
テクノロジーがエクスポネンシャルに進化すれば、人類の抱えるさまざまな大問題が解決すると予測されています。
その一例として、まずはエネルギー問題について考えてみましょう。人類の文明を成り立たせる上では、これが最重要課題といっても過言ではありません。この問題を根本的に解決する道は、ただひとつ。太陽エネルギーの全面的な活用以外にありません。
そもそも地球上のエネルギーは、すべて太陽が源泉です。かつてエネルギーの主力だった石炭も、現在の主力である石油も、太陽から地球に降りそそいだエネルギーが形を変えたものにすぎません。風力発電や水力発電などのいわゆる「再生可能エネルギー」もそうです。
これまでは、それらの形を変えた太陽エネルギーを利用していたので、その量には限界がありました。しかし太陽エネルギー自体は、ほぼ無限に存在します。
太陽の寿命はあと50億年といわれていますから厳密にいえば有限ですが、太陽の寿命は地球の寿命でもあります。つまり人類が存在するかぎり太陽も存在するのですから、そのエネルギーをフルに活用することができれば、人類は完全にエネルギー問題から解放されるといっていいでしょう。太陽エネルギーは地球上のあらゆる場所に降りそそぐので、奪い合いにもなりません。
では、そんな夢のような未来が本当に訪れるのか。近年の技術の進歩を見れば、それは決して夢物語ではありません。太陽光発電と聞いて「必要な電力のほんの一部を担えるだけだろう」と思う人は、前回お話しした「エクスポネンシャルの6D」を思い出してください。「大した技術ではない」と感じるのは、それがまだ「潜行」の段階にあるからではないでしょうか。
実際、技術革新によってソーラーパネルの発電効率は飛躍的に向上しており、数年後には化石燃料による発電よりも価格が安くなると予測されています。すでに、最新のメガソーラーでつくられた電気の中には、契約価格で化石燃料を下回るものも出てきました。この40年間の価格の推移を見ても、1977年に76ドルぐらいだったものが、いまは0.74ドルと100分の1にまで下がっています。このままソーラーパネルがエクスポネンシャルに進化していくと、そう遠くない将来に、太陽光発電によるエネルギーの価格はほぼゼロになるのです。
ソーラーパネルが急速に進化したのは、使用する素材をコンピュータでシミュレーシ
ョンできるようになったことも要因のひとつです。
発電効率を高めるためにどんな素材がよいかは、これまで手作業による実験で試行錯誤するしかありませんでした。当然、これには膨大なコストや時間がかかります。
しかしコンピュータを使えば、さまざまな素材の組み合わせを短時間でシミュレーションし、正解にたどり着くことができます。チェスや囲碁で人間に勝てるのを見ればわかるとおり、コンピュータはあらゆる可能性を一瞬のうちに試し、その中から正解を見つけるのが得意です。そして、そのスピードも倍々で加速しているのです。まさにエクスポネンシャルなテクノロジーのおかげです。
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シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?