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本屋の時間

2017.03.15 公開 ポスト

第8回

本のつぶやく声辻山良雄

 (photo : 齋藤陽道)

 

 はじめて会う人でも、その人となりは多くの場合、出会った瞬間に伝わるものです。顔の表情、声色とその大きさ、身体の動きなど、私たちはその人から様々な情報を瞬時に感じ取り、内面をある程度判断していると思います。

 本も同じであり、その本を手に取っただけで、開かなくてもその本のことがわかってしまうことがあります。それはその本の文章や言わんとしていることを、本の作り手がうまく一冊の形にしているからだと思います。端正な文章の本には、派手な色の太い文字は似合わないでしょうし、実用を主な目的とした本には、細字の明朝体ではわかりにくいかもしれません。本も人と同じで、一冊一冊の持つ個性、発する声の特徴が異なるのです。

 Titleの店頭には、通常の書店に見られるようなPOPを付けておりません。大きなPOPは後ろの本が取りにくくなりますし、何よりその本の顔である表紙がきれいに見えなくなります。本の顔をきれいに見せることで、一冊の本が本来持っている、その小さなつぶやきが聞こえやすくなります。

 その本を置く場所を整えて、そこに置いてみるだけで、それが存在感を放つ本であれば、自然とお客さまがその本を手に取ります。何の本を手に取るかは、すべてお客さまが自分の興味やその時の気持ちに合わせて決めることだと思います。本屋に出来ることは、出来るだけお客さまが本と出合う邪魔をせずに、その環境を整えることです。POPを出さないというのもその一つですし、隣の本との関係も自然なものが良いでしょう。他にもBGMや空調、レジ位置など様々なディテールの積み重ねにより、「本と出合う場所」が出来上がっていくのです。

 本屋は人の書いたもの、すなわちその人のたましいを扱う場所です。たましいが取り扱われるには、それにふさわしいような整えられた場所が必要だと思います。

 

今回のおすすめ本

植本一子『かなわない』(タバブックス) 

 店頭で発する声がひときわ大きな本。とは言え、それは声の大きさではなく、強さというべきだと思う。この本を読むともう後戻りが出来なくなるのではないか、現物を見るとそんな気持ちになる本です。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

◯2026年1月10日(土)~  2026年2月2日(月) Title2階ギャラリー

本屋Title10周年記念展「本のある風景」

本屋Titleは、2026年1月10日に10周年を迎えました。同日より2階のギャラリーでは、それを記念した展示「本のある風景」を開催。店にゆかりのある十名の作家に「本のある風景」という言葉から連想する作品を描いていただきました。それぞれの個性が表れた作品は販売も行います。本のある空間で、様々に描かれた〈本〉をご堪能ください。
 

【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売中です】

本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えました。この度10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になりました。

各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。

Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
 

書誌情報

『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』

Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)

 

◯【寄稿】

店は残っていた 辻山良雄 
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)

 

◯【お知らせ】NEW!!

養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄

今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。

 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。

偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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