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本屋の時間

2017.04.01 更新 ツイート

第9回

小さなお客さまのこと辻山良雄

 店内で出版社の友人と話をしていると、その後ろにマンガ雑誌と小さな財布を持った小学生らしき男の子が並んでいました。その子の会計を済ませると「ありがとうございました……」とはにかんだ様子で帰って行きましたが、友人はたいそう珍しい光景を見たように、しばらくその男の子の後ろ姿を、目でじっと追いかけていました。

 

 あまりそういうイメージを持たれることは少ないのですが、Titleには親子連れ、子どもたちだけのグループも多く来店します。店から少し歩いたところには、最近建てられたマンションが並び、子育て世代の人たちが多く住んでいるのです。親子連れで来たお客さまは、大概お父さんやお母さんが自分の見たい本のところに行こうとしますが、お子さんが気になる絵本をせがむか、すごい勢いで2階のギャラリーに向かって階段を上っていきますので、結局親がぶつぶつ言いながら、それを追いかけることになります(子どもはどうして階段を見ると上りたくなるのでしょう)。

 もう少し大きな子どもになると、自分の財布を持って本を買いにきます。もっともその殆どはマンガ雑誌で、男の子なら今も変わらず『コロコロコミック』(私の子どもの頃もそうでした)、女の子なら『りぼん』『なかよし』『ちゃお』のどれか。たまに来る本が好きな子なら、ケストナー『飛ぶ教室』などの古典や、細田守『おおかみこどもの雨と雪』、宗田理『ぼくらの七日間戦争』などの子ども向け文庫のシリーズを買っていきます。親にとっても、本屋というところは子どもたちだけで行っても安心な場所なのでしょう。

 子どもに本を渡すときには、甘くなりすぎないように注意します。子どもが親や先生以外の大人に触れるのは重要なことだと思うので、そう考えると大人に対するときと変わらない接客が良いかなと思いました。町なかに店があるということは、地域の中では〈本屋のおじさん〉という役も担っているのだと、店を開いてみて気が付きました。

 

今回のおすすめ本

荒井良二『あさになったのでまどをあけますよ』(偕成社)

 

「あさになったのでまどをあけますよ」の繰り返しで進む絵本は、特にストーリーはない。世界のさまざまなところで、いまこの時間にも誰かが窓を開けていることが、何かしらの救いになるという作者の祈りを感じる。とにかく、いちばん好きな絵本です。

 

<お知らせ>

◯2020年1月31日(金)~ 2020年2月9日(日) Title 2階ギャラリー

 夏雨(ナツグレ)」加納千尋写真展
 写真集『夏雨』(Kite)刊行記念

 南西諸島の奄美大島に父方のルーツがある著者が、父を含む島出身の五人きょうだいに記憶をたずね、その言葉をたよりに現代の奄美大島を撮影した写真集「夏雨」。その東京での初個展。


◯2020年2月11日(火)~ 2020年2月27日(木) Title 2階ギャラリー

 詩人・山尾三省展~詩集・原稿・写真、そして画家nakabanの装画
 山尾三省詩集『新版 びろう葉帽子の下で』(野草社)刊行記念

 日常の中で非日常的な時をつづった詩人・山尾三省。彼の詩集新版刊行を記念し、過去の全著作、直筆原稿、アメリカの詩人ゲーリー・スナイダー氏との対談時に高野建三氏が撮影した写真、詩集『新版 びろう葉帽子の下で』の装画担当nakaban氏の作品原画などを展示。

ⓒKenzo Takano


◯2020年2月21日(金)19:30~ Title 1階特設スペース

 坊さん、本屋で語る。
『坊さん、ぼーっとする。~娘たち・仏典・先人と対話したり、しなかったり~』(ミシマ社)刊行記念 白川密成さんトークイベント

愛媛県・栄福寺住職の白川密成さんのお話を聞く。本書の題名にもなっている「ぼーっと待つ勇気」や「見る」「ほっとく」「子ども」といったテーマを中心に、ミッセイさんが日常の中で考え、感じている仏教の智慧をやさしくポップに語る。

 


◯『本屋、はじめました』増補版がちくま文庫から発売されました

文庫版のための一章「その後のTitle」(「五年目のTitle」「売上と利益のこと」「Titleがある街」「本屋ブーム(?)に思うこと」「ひとりのbooksellerとして」「後悔してますか?」などなど)を書きおろしました。解説は若松英輔さん。
 


 

 

◯辻山良雄・文/nakaban・絵『ことばの生まれる景色』ナナロク社

店主・辻山が選んだ古典名作から現代作品まで40冊の紹介文と、画家nakaban氏が本の魂をすくいとって描いた絵が同時に楽しめる新しいブックガイド。贅沢なオールカラー。

 

 ◯辻山良雄『365日のほん』河出書房新社

春、夏、秋、冬……日々に1冊の本を。書店「Title」の店主が紹介する、暮らしを彩るこれからのスタンダードな本365冊。

 

 ◯辻山良雄『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』苦楽堂 ※5刷、ロングセラー!! 単行本

「自分の店」をはじめるときに、大切なことはなんだろう?物件探し、店舗デザイン、カフェのメニュー、イベント、ウェブ、そして「棚づくり」の実際。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂)、『365日のほん』(河出書房新社)がある。

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