

先日の2月21日、22日の二日間『本屋、はじめました』のプロモーションで、生まれ故郷の神戸と、その隣の大阪でトークイベントを行いました。二つの会場とも大入り満員で、来て頂いたお客さまとは、イベント終了後も話が尽きることがありませんでした。東京で行うイベントとは雰囲気も異なり、事前に本を読んできている方が殆(ほとん)どだったのには驚きました。本やイベントに対する熱気が伝わった二日間で、すっかりリフレッシュしてTitleに帰ってきました。
何しろ普段はずっと自分の店におり、しかもレジカウンターの中という〈点〉から世の中を見ているので、外の世界で何が起こっているかは想像するしかありません。関西で自分の本を熱心に読んでくださった方がたくさんいたことは、ありがたくも嬉しい驚きでした。

本屋という仕事は、実は会いたい人に会うことができるという、恵まれた仕事でもあります。本の後ろには、それを書いた人が必ずいます。実現するかは別としても、その書き手のイベントを行なうこともできますし、その本を販売している時点で、何かしらその人とつながっているとも言えます。はじめは遠くに見えるだけかもしれませんが、自分が仕事を続けていくうちに、その人と仕事ができる日がいつか来ないとは限りません。
また、同じ本を読んでいる人は、同じ関心を持っていたり、好きなものが似ていることが多いので、自然と意気投合します。今回の関西でのイベントでも、終了後にたくさんの人の輪ができており、その場で自己紹介しあう場面をたくさん見ました。今では参加型のイベントも多く、路上で自分の本を売り、その日だけ〈本屋さん〉になることができる「一箱古本市」や、好きな本を紹介しあう「ビブリオバトル」などのイベントも、全国各地で行われています。
本屋はもちろん本を買う場所ですが、それと同時に人と人が出会う場所でもあります。本の持つ可能性を充分に開くことが出来れば、本屋はもっと豊かな場所に変わっていくでしょう。
今回のおすすめ本

『アルテリ』は熊本にある個人経営の書店・橙書店が編集発行する文芸誌。石牟礼道子、渡辺京二、伊藤比呂美、坂口恭平、三砂ちづる、高浜寛など熊本出身、あるいは熊本に縁のあるそうそうたる書き手が名前を連ねています。しかしそうしたレッテルには捉われず、自由にものを表現する場所として存在感を放っているところが素晴らしい。熊本らしい、気骨のある一冊です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年7月18日(金)~ 2025年8月3日(日) Title2階ギャラリー
「花と動物の切り絵アルファベット」刊行記念 garden原画展
切り絵作家gardenの最新刊の切り絵原画展。この本は、切り絵を楽しむための作り方と切り絵図案を掲載した本で、花と動物のモチーフを用いて、5種類のアルファベットシリーズを制作しました。猫の着せ替えができる図案や額装用の繊細な図案を含めると、掲載図案は400点以上。本展では、gardenが制作したこれら400点の切り絵原画を展示・販売いたします(一部、非売品を含む)。愛らしい猫たちや動物たち、可憐な花をぜひご覧ください。
◯2025年8月15日(金)Title1階特設スペース 19時00分スタート
書物で世界をロマン化する――周縁の出版社〈共和国〉
『版元番外地 〈共和国〉樹立篇』(コトニ社)刊行記念 下平尾直トークイベント
2014年の創業後、どこかで見たことのある本とは一線を画し、骨太できばのある本をつくってきた出版社・共和国。その代表である下平尾直は何をよしとし、いったい何と闘っているのか。そして創業時に掲げた「書物で世界をロマン化する」という理念は、はたして果たされつつあるのか……。このイベントでは、そんな下平尾さんの編集姿勢や、会社を経営してみた雑感、いま思うことなどを、『版元番外地』を手掛かりとしながらざっくばらんにうかがいます。聞き手は来年十周年を迎え、荒廃した世界の中でまだ何とか立っている、Title店主・辻山良雄。この世界のセンパイに、色々聞いてみたいと思います。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】NEW!!
〈いま〉を〈いま〉のまま生きる /〈わたし〉になるための読書(6)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は〈いま〉をキーワードにした2冊。〈意志〉の不確実性や〈利他〉の成り立ちに分け入る本、そして〈ケア〉についての概念を揺るがす挑戦的かつ寛容な本をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。