
(photo : 齋藤陽道)

先月に発売した初めての著作『本屋、はじめました』と同時期に、ある書店主の本が発売になりました。大井実さんが書いた『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』(晶文社)です。ブックスキューブリックはTitleと同じように小さな空間ですが、その中にバランスよく店主が選んだ本が並んでいます。実はTitleを開店させるにあたり、常に頭の片隅にあったのがこの店であり、店主の大井さんには個人で店を開く際のアドバイスなどもいただきました。『本屋、はじめました』と『ローカルブックストアである』は多くの書店で隣に並べられることが多く、SNSのタイムラインでそうした画像も多く見ましたが、偶然とはいえ不思議な縁を感じずにはいられません。
ブックスキューブリックに限らず、全国に好きな本屋は、幾つもあります。京都の恵文社一乗寺店は有名な店ですし、知っている人も多いと思います。いまは本のセレクトショップと言われる店も増えましたが、ここはその先駆けではないでしょうか。大型書店の棚から本を一冊抜き出してきて、そこについていた埃を払うと、急にその本の持っていた魅力が引き出されてくるという、その魔法のような手つきにいつも感心させられました。素晴らしい空間の中では置かれた本が特別に見えるという点でも、特に学びが多い店です。
名古屋のちくさ正文館は人文書で有名な店です。店長の古田一晴さんは「インターネットは使わない」と仰っていますが、行くたびにいつも「こんな本があったのか!」という驚きで静かに興奮します。どこで情報を得ているのかといつも不思議に思うのですが、置く本を丁寧に選び、発売から時間が経っても大事にしていることが、店を見ているだけで伝わってきます。
どの店も、そこに置かれている本の一冊一冊が積み重なることで、全体の空気感を醸し出しています。そうした〈手を入れられた〉本の空間では、入った瞬間に受け取る密度が高く、気分が高揚してきます。そうした高いテンションを維持していくことが、本屋における商売の秘訣と言えそうです。
今回のおすすめ本

大井実『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』(晶文社)
大井さんは、自分の本屋を経営することはもちろんですが、「ブックオカ」という福岡のブックイベントの実行委員長を長年務められています。本が町の中で存在感を放つにはどうすればよいか、地域の中で本屋はどういう役割を果たせるか……などについてずっと考えてこられました。そうした自負がこのタイトルに現れていると思います。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年7月18日(金)~ 2025年8月3日(日) Title2階ギャラリー
「花と動物の切り絵アルファベット」刊行記念 garden原画展
切り絵作家gardenの最新刊の切り絵原画展。この本は、切り絵を楽しむための作り方と切り絵図案を掲載した本で、花と動物のモチーフを用いて、5種類のアルファベットシリーズを制作しました。猫の着せ替えができる図案や額装用の繊細な図案を含めると、掲載図案は400点以上。本展では、gardenが制作したこれら400点の切り絵原画を展示・販売いたします(一部、非売品を含む)。愛らしい猫たちや動物たち、可憐な花をぜひご覧ください。
◯2025年8月15日(金)Title1階特設スペース 19時00分スタート
書物で世界をロマン化する――周縁の出版社〈共和国〉
『版元番外地 〈共和国〉樹立篇』(コトニ社)刊行記念 下平尾直トークイベント
2014年の創業後、どこかで見たことのある本とは一線を画し、骨太できばのある本をつくってきた出版社・共和国。その代表である下平尾直は何をよしとし、いったい何と闘っているのか。そして創業時に掲げた「書物で世界をロマン化する」という理念は、はたして果たされつつあるのか……。このイベントでは、そんな下平尾さんの編集姿勢や、会社を経営してみた雑感、いま思うことなどを、『版元番外地』を手掛かりとしながらざっくばらんにうかがいます。聞き手は来年十周年を迎え、荒廃した世界の中でまだ何とか立っている、Title店主・辻山良雄。この世界のセンパイに、色々聞いてみたいと思います。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】NEW!!
〈いま〉を〈いま〉のまま生きる /〈わたし〉になるための読書(6)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は〈いま〉をキーワードにした2冊。〈意志〉の不確実性や〈利他〉の成り立ちに分け入る本、そして〈ケア〉についての概念を揺るがす挑戦的かつ寛容な本をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。