(photo : 齋藤陽道)
あけましておめでとうございます。今年も「本屋の時間」をよろしくお願いします。
正月の本屋には、普段よりは少しゆったりとした時間が流れています。そんな気分を反映してか、時間がある時に読みたくなるような少し厚めの本や、シリーズものがまとめて買われるのも、この時期の特徴です。以前、書店に勤めていた時には「この時期には普段と違う本が売れる」と言われてきましたが、それはゆっくりとした気持ちでいるお客さまが、棚に置いている商品を、いつもより念入りにご覧になっているからではないでしょうか。

正月ではなくても、Titleは都心より少し離れた荻窪にあり、しかも駅からは少し歩いたところにあるので、普段から店の中で急いでいる人はあまり見かけません。
お客さまに店内でゆっくりとくつろいだ気分になっていただくためには、そうした環境を整える必要があります。店主の視線を感じないレイアウト、BGM、室温、並べている本に違和感がないこと……。本を選び、本と出合うのはお客さまなので、店としては主張をせず、その出合いを邪魔しないように心がけています。
Titleにカフェがあることも、店内の時間を落ち着いたものにさせていると思います。本を探したあと、カフェの中でその本をゆっくりと読む人も多いですが、最近では先にカフェで落ち着いてから本を探す人も増えてきました。温かいコーヒーを飲んで緊張がほぐれたあと、ゆっくりと本棚を見ると、本がまた違うように、心に直接語りかけてくるような気にもなるでしょう。そうして自分の五感を頼りにして出合った本を連れて帰っていただく。レジに本をお持ちになるほころんだ顔を見ることが、本屋の喜びでもあります。
今回のおすすめ本

『中谷宇吉郎 雪を作る話』(平凡社STANDARD BOOKS)
「雪は天から送られた手紙である」という有名な一節は、聞いたことがある人も多いと思います。中谷自身は探求心に溢れた科学者で、そのまなざしは常に、真理を獲得することに対して向けられていました。その真っすぐで透明な視線が、詩情に満ちた言葉を生むことになったということが面白いと思います。中谷のエッセンスがわかる一冊。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年11月28日(金)~ 2025年12月22日(月) Title2階ギャラリー
劇画家・バロン吉元が1971~72年に発表した代表作『昭和柔俠伝』(リイド社刊)の復刊を記念し、同作の原画のみを一堂に集めた初の原画展を開催します。物語の核となる名場面を厳選展示。バロン吉元はいかに時代を切り取り、そこに生きる人々の温度を紙にこめてきたのか……。印刷では伝わりきらない、いまだ筆致に息づく力を通して、原稿用紙の上で世界が立ち上がる軌跡を、原画で体感いただける機会となります。
◯2025年12月25日(木)~ 2026年1月8日(木) Title2階ギャラリー
毎年恒例の古本市が、今年もTitleに帰ってきました! Titleの2階に、中央線からは遠いお店からこの辺りではお馴染みの店まで、6店舗の古本屋さんが選りすぐりの本を持ち寄って、小さな古本市を開催します。10回目の今年は、新しい店も参加します! 掘り出しものが見つかると古本市、ぜひお立ち寄りください。
【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になります】
本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えます。同日よりその10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になります。
各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。
Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
■書誌情報
『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』
Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
心に熾火をともし続ける|〈わたし〉になるための読書(7)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
あらゆる環境が激しく、しかもよくない方向に変化しているように感じる世界の中で、本、そして文学の力を感じさせる2冊を、今回はご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。















