1. Home
  2. 生き方
  3. あなたとわたしの生存確認日記
  4. 昨夜、今年一番こわい思いをした(9月23...

あなたとわたしの生存確認日記

2026.10.18 公開 ポスト

昨夜、今年一番こわい思いをした(9月23日)― ソファで朝まで寝てしまった。燃え殻

2026年9月23日

 

昨夜、今年一番こわい思いをした。

時刻は深夜一時を少しまわった頃。すべての用事を済ませ、文化村近くのガードレールに腰掛けて、ひと息ついていると、三、四十代(いや、二十代後半かもしれない)くらいの男性が声をかけてきた。

酔っている雰囲気はなく、格好にも清潔感があった。黒のポロシャツにジーンズ、黒のスニーカー。髪型は短髪で、ゴジラの息子、ミニラに似ていた。

「あのさ……ちょっといい?」と、男性が言う。

こちらは疲れきり、手には飲みかけの豆乳の紙パックを持っていた。道でも聞かれるのかと思い、「はい、どうしました?」と言うと、「あの、女紹介してよ、女」と真顔で言ってきた。

ここで動揺すると危険だと思ったので、「あー……、いま、もう帰らないといけなくて。すみません」と淡々と伝え、そそくさと歩き出した。これは危ない。渋谷危ない。そう思いつつ、ダッシュでその場から離れた。

変な人もいるもんだ、と思いながら一度振り返ってみる。

すると、その男性がこちらをじっと見ながら、ついてきていた。大恐怖。

このまま家に向かうのはマズいと判断し、まずは大通りまで出た。そしてそこで、もう一度振り返ってみる。しっかりついてきている。『千と千尋の神隠し』のカオナシのように、一定の距離を保ちながらついてくる。

今年一番焦りながら、コンビニを見つけたので、急いで店の中に入った。男性はコンビニには入ってこず、外からこちらをずっと見ていた。

コンビニのアルバイトに、助けを求めようかとも思ったが、なんとなく言いづらい。

しばらく飲み物コーナーで、ジッとしていた。その間も、ときどき外の様子を窺う。しっかりいた。

たぶん十五分くらい経って(体感では三十分以上)、外を確認すると、男性の姿は消えている。でも、まだ安心はできない。コンビニから出て、周りも確認してみた。いなかった。

そのあと、何度も振り返りながら、早足で帰宅した。

間違いなく、今年一番こわい出来事だった。

***
窓を開けて、網戸にして寝ようとしたが、まだこわくて、窓を閉め、除湿をかけて寝た。

***
とある映画のコメントを送るのを、すっかり忘れていた。

なぜか寝ながら、そのことを思い出してしまった。真っ暗な部屋で起き上がり、もう一度映画を観てコメントを送るか、朝まで寝るかを一度考えた。

信じられないことに、眠気を振り払って起きて、映画を観た。そしてコメントを送る前に、ソファで朝まで寝てしまった。

***
昨日、不審者(?)がいた場所を通りたくなくて、大きく迂回し、打ち合わせ先に向かった。知り合いの女性から、変質者に追いかけられた話や、痴漢に遭った話を、いままで何度か聞いたことはあった。どれほど恐ろしく、トラウマになりかねない出来事なのか。自分で体験して、やっと身をもってわかった気がする。一度感じたこわさは、その瞬間だけで終わらない。ふだん歩いていた道まで、遠ざけたくなる。

* * *

毎日の購読をご希望の方は、「燃え殻 底なしの出会い」をご登録ください。

 

{ この記事をシェアする }

あなたとわたしの生存確認日記

今日も無事でしたか? 燃え殻さんが毎日配信するレター「底なし日記」より、週に一度一日分を転載します。
(アイコンイラスト:大橋裕之)

バックナンバー

燃え殻

1973年生まれ。2017年『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビュー。同作はNetflixで映画化、エッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+でドラマ化、『湯布院奇行』が朗読劇化(原作)、『あなたに聴かせたい歌があるんだ』がコミック化とHuluでドラマ化(原作と脚本)された。著書に小説『これはただの夏』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』『ブルー ハワイ』『愛と忘却の日々』ほか多数。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP