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ブルーカラービリオネア

2026.09.28 公開 ポスト

「ブルーカラーの億万長者」はなぜ生まれたのか? 戦争×AI×人材不足と新しい富のルール坂口孝則

電気工事や配管といった現場仕事で富を築いた人々を指す、「ブルーカラービリオネア」。その誕生の背景に迫った、坂口孝則さんによる『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』が9月28日に発売されました。富をめぐって世界ではどのような地殻変動が進んでいるのでしょうか? 本書のプロローグから一部をご紹介します。

ホワイトカラー不況とブルーカラーの逆転

2026年1月21日。スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「AIブームは電気技師や配管工に6桁の年収をもたらす」といった趣旨の発言をした。10万ドルとしても約1580万円だ(以下、1ドル=158円で計算)。

NVIDIAはAI用半導体GPU(画像処理装置)で世界一の企業になったが、そのGPUを稼働させるために巨大なデータセンターの建設が必要だ。さらにオフィスビルとは比較できないほどの、高度な水冷・空冷システムを設置せねばならない。ひとつのデータセンターを建設するために数千人の労働者を要する。とくに熟練工が奪い合いになっている。

近年、建設、製造、物流などの現場で体を動かして働く労働者たるブルーカラーが不足している。先進国のほとんどは少子化で志望者そのものが減るうえ、ベビーブーマー世代が大量退職しているからだ。さらに、地政学の問題で米国等の先進国は自国内での建設を決めている。米国では移民の受け入れも抑えているため、人手不足に拍車がかかる。

数十年にわたって先進国では職業人の成功ルートは、大学を出てホワイトカラーになることだった。知識社会といわれ、高学歴は高年収を保証する唯一の方法だと考えられた。しかし2026年の米国データを分析すると、長年の常識が覆っている。

ITや金融から遠く、3K(きつい、汚い、危険)といわれていたブルーカラーでかつ小規模事業者たちは、高収入へと変貌した。米国では、現場の元職人が多くの資産をもつブルーカラーミリオネアになっている。低賃金の象徴だったブルーカラーは、荷台付きの大型車であり、米国では成功の象徴とされる超高級ピックアップトラックを乗り回し、誰も想像できなかった資産を形成している。

2024年から2026年にかけて、米国ではかつて高給取りだったホワイトカラーの不況が現実化している。米国労働統計局のデータによれば2024年半ば以降、約25万人のホワイトカラー人員が削減された。株価が上がっている=企業収益・利益が上昇している局面での人員削減だ。

そのいっぽうでブルーカラーは真逆だ。全米製造業者協会の報告では数十万の熟練工の求人が未充足となっている。配管工、電気工事士、溶接工が足りずに成長のボトルネックにすらなっている。熟練工の賃金はホワイトカラーを凌駕りようがするスピードの伸び率だ。賃金の絶対額も、このままいけば逆転するだろう。

米国ではホワイトカラーへの就職を拒否する若年層を「ツールベルト世代」と呼ぶ。大学でなく職業訓練校を選び、工具ベルトを腰に巻く現場職を志向する若者のことだ。大学=カレッジから、職業訓練校=トレード・スクールへの流れが加速している。つねに時代の正解は若年層が嗅ぎ取る。二人の18歳がいるとする。一人は大学へ、一人は職人の見習いになる。当然、前者にほとんど収入はないが、後者は3万ドルを稼ぐ。22歳になり前者が大学を卒業し4万7000ドルを稼ぐときには、後者は6万3000ドルを稼げるようになっている(全米建設教育研究センター=NCCERによるキャリア比較)。米国で話題になっているとおり、前者は学生ローンの返済も背負う。

ブルーカラーの金持ちは、見栄えのいいスーツを着ていない。ホワイトカラーのように都市部でのバリキャリライフをインスタグラムに投稿することもないかもしれない。ただ彼らは現場作業からはじめ、ホワイトカラーには想像もつかない形でホワイトカラーを逆転しようとしている。そしてブルーカラー「ビリオネア」なる単語まで人口に膾かい炙しやしはじめた。

「ブルーカラービリオネア」という言葉の誕生と変容

このブルーカラービリオネアなる言葉がよく知られるようになったきっかけは、ドナルド・トランプ氏だった。遡ること3回前の米国大統領選挙時(2016年)に氏の陣営が戦略的に流布したものだ。不動産王である圧倒的な富をもつトランプ氏と、建設現場や製造現場、物流、炭鉱といった労働者階級とを連帯させるためのフレーズだった。

最初は選挙キャンペーンにおいて、ドナルド・トランプ・ジュニア氏が父親を称したものだ。「ブルーカラーの気持ちがわかる大金持ち」という意味で、広く認知されるようになった。私は、なんだかブルーカラーをバカにしている気がして、このフレーズをなかなか受け入れられなかった。ただ、米国ブルーカラー層からすると「ブルーカラーの気持ちがわからない政治エリートやエスタブリッシュメント」に対抗するトランプ氏のキャッチフレーズとして鮮烈だったようだ。

私はトランプ氏に個人的な関心を抱いてきた。トランプ旋風的なるものが世界の縮図のような気がして、氏の関連映画や書籍にあたってきた。書籍『トランプ自伝──不動産王にビジネスを学ぶ』から映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』、または多くのドキュメンタリー作品までさまざまだ。氏はニューヨーク市クイーンズ区の裕福な家庭で育っている。莫大な起業資金も父親から受け継いだものだ。

だから本来は、もっともブルーカラーから遠いところにいるはずなのだが、大統領選での言説はベテラン政治家が忘却した「この国を築いた勤勉なブルーカラー」へ重点を置いていた。このブランディングは「粗野で反権威的」なスタイルであり、ブルーカラーからの人気を集めるのは必然だった。

しかし私がさらに関心をもつのは、2020年代から「ブルーカラービリオネア」が「ブルーカラーの気持ちがわかる大金持ち」という意味を超え、そして選挙スローガンを超えた点だ。ブルーカラービリオネアは、ホワイトカラーよりも「熟練技能職」のほうが稼げる、という意味に変容した。さらに、IT長者の次に、ブルーカラー出身の新たな富裕層の台頭を指すようになった。

ブルーカラー逆転の要因は地政学・AI・高度資本主義
ではこの逆転劇の背後にある地殻変動は何か。それは地政学とAIの発展と、高度資本主義の広がりによる。本書で描く現状図を要約しておこう。

米中経済戦争や2020年のパンデミックを機に、各国は「安い海外生産」よりも「自国内で止まらず作れること」を優先しはじめた。生産工場や重要インフラを自国内で物理的に再構築する歴史的な建設ラッシュが、現場を担うブルーカラーの需要をかつてない規模で爆発させている。

さらに重要なことに、グローバル化で経済格差が広がったのち、国内回帰によりエリート以外の国民が保守化・右傾化した。政治は票のために自国優先主義を謳うたいはじめた。米国ではラストベルトと呼ばれた、かつての工業地帯の労働者たちが、大統領選挙の行方すら左右する最強の政治的影響力を握るようになった。地政学的な危機と保守派ポピュリズムの融合が、意図せず「ブルーカラーの経済的逆転劇」を後押しするエンジンとなった。

そしてAIの進化による労働価値の逆転だ。生成AIは文章、翻訳、プログラミング作成や資料作成といったホワイトカラーの知的生産を容赦なく代替しはじめた。またAIのデータセンター建設需要もともなった。電気工事や配管はAIだけではできない。デジタルの急激な進化が、皮肉にも物理的作業価値を極限まで高めている。

さらに高度資本主義、とくに未公開株を扱うプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)によるブルーカラー産業の再編と大型化が加わる。人手不足によって強い価格決定力をもった配管や電気工事などの小規模事業者に、いま、莫大な投資マネーが流れ込んでいる。ブルーカラーが担うのはインフラであり、この分野はこれからも永続的に必要だ。生産が自国に回帰している状況ならなおさらだ。収益と利益が景気に左右されにくいため、ファンドがこの現場仕事への投資を加速している。

配管工等、ブルーカラー不足によって、米国では年間に330億ドル(≒5兆2000億円)の経済損失が出ているとされる(LIXIL調査)。米国AGC(Associated General Contractors of America)の調査によれば建設企業の92%が採用困難を報告しており、45%がプロジェクトの遅延に直面しているという。他調査によれば、人手不足は住宅建設のセクターで108億ドルのコストを発生させ、年間1万9000戸が建てられていない。

ファンドが目をつけたのは、この不足ゆえだ。このぶん、次から次に仕事があるため、あらかじめ儲かることは確定している。そこで、ファンドは米国じゅうの小規模なブルーカラー事業者を買収し合併させ、それまで非効率だった同分野を変えている。小規模事業者をまとめることでマーケティングや営業、運営を共通化・効率化。買収・統合した事業群が、ファンドにとって収益を生み出す“装置”になる。そしてファンドだけが利潤を得るわけではない。ファンドに事業を売却した元ブルーカラー、元職人たちは想像を絶する資産を築き上げる。

つまり、こういうことだ。

地政学がもたらす自国回帰という「舞台」があり、それがAIの発展という「起爆剤」を迎え、さらに高度資本主義によるマネーの「錬金術」によってブルーカラーの逆転劇が現実となった。ホワイトカラーが机上で生もうとする価値よりも、ブルーカラーが現場で発揮する技能こそが、もっとも希少で、もっとも資本を呼び込む資産となりつつある。

このブルーカラーの逆転劇は米国だけの事態ではない。

* * *
続きは、『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』をご覧ください。

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ブルーカラービリオネア

2026年9月28日発売『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』について

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坂口孝則

1978年生まれ。調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社所属、講演家。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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