電気工事や配管といった現場仕事で富を築いた人々を指す、「ブルーカラービリオネア」。その誕生の背景に迫った、坂口孝則さんによる『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』が9月28日に発売されました。富をめぐって世界ではどのような地殻変動が進んでいるのでしょうか? 本書の「第二章 AI・ロボティクスによるホワイトカラーの無価値化」から一部をご紹介します。

AIが活躍できない現場
「車を修理してほしかったり、家の配管を修理してほしかったりする場合、中国人は役に立たない。なぜなら彼らは中国にいるからだ」
米国でこういわれるフレーズにこそ、明確な現状が映し出されている。
中国人は何でも作ってくれる。ただ、目の前の修理はできないのだ、と。彼ら、製造を担う中国の労働者は「安い現場の働き手」と一括りにされ、先進国では自前で抱える必要がないとみなされてきた。ただし、インターネットの画面は釘を打ってくれないのだ。スマートフォンは何でもできるという幻想があるものの、家の配管や庭の整備などはできない。
たとえば、ここ数年、持続可能な開発目標「SDGs」が流行している。SDGsは解説不要だろうが、国連で採択された国際目標で、人権遵守や貧困撲滅、環境保持を掲げて世界中の政府が推進している。また、軌を一にしてSDGsを掲げて世界の企業はグリーンな環境を希求している。
そのグリーンな世界の未来図を描いているのはホワイトカラーだが、たとえば再生エネルギー機器があってもケーブルの接続工事を担うブルーカラーがいなければ役に立たない。欧州では「グリッドロック(Gridlock)」という言葉が流行しており、これはグリーンを実現するには送電網(Grid)が足りないという意味だ。
「空調機器の設置に作業者がレクサスでやってきた」
英語圏で少しSNSを探したら同様の投稿が見つかるだろう。注文者のホワイトカラーよりも高い車でブルーカラーがやってきて作業を行う。なかには医者よりもブルーカラーの収入が高い場合もあるだろう。
ホワイトカラーは机上で会議に参加したり、エクセルで表計算をしたりする。しかし、真夏に40度を超える猛暑のなかで、エアコン室外機の設置をしてくれない。あるいはドライバーでネジをまわしてくれない。とくに、エアコンが止まってしまった家主の表情を読み取り、コミュニケーションをとりながら、家主を“冷却”させることはできない。
私たちのホワイトカラー・ビジネス世界では労働の代替がずっと議論されてきた。よく使われた軸は二つあって、一つ目はルーチンか非ルーチンか、だった。ルーチン的な、誰でもできる作業であれば、正社員ではなくても非正規労働者でも、あるいは外注でもできる。しかし、もはや非正規も外注もいらない。AIにお願いすればいい。
そして二つ目の軸は、手作業か認知的タスクか、というものだった。手作業とは、文字どおり人間の肉体的な動作が不可欠なもので、後者は頭脳労働と言い換えてもいい。頭脳労働といっても、そもそもAIを作るためのプログラミングを書くような上位数パーセントの天才なら高額な報酬を得るだろうが、AIはホワイトカラー仕事の大部分を置き換える可能性があると述べた。残るは実際の手作業だ。
AIが仕事を代替するといっても、その代替はホワイトカラーがやっている頭脳労働であって、手を動かしてメンテナンスを行う作業までは、しばらく代替しない可能性が高い。フィジカルAIと叫ばれるものの、多様な現場の多様で物理的な作業の大部分を直接的には代替できていない。たとえば、床下に潜る、あるいはプレスマシンの上にたまった埃を掃除する、ナットの緩みを締め直すなどだ。
もともとは、手作業のほうがすぐさまロボット化できると考えられていた。しかし、クレーンの操作や、手術、清掃業務は、はるかに代替が困難だった。洗濯物を畳んで、クローゼットに入れることすらまだ実現できていない。もちろん、クレーンの遠隔操作はじょじょに可能になっている。手術もロボット化の検討が進んでいる。
また自宅のゴミ取りの一部はルンバなどが置き換えている。ただオフィスのトイレをすべてロボットが清掃できるようにはなっていない。多様な形状のトイレがある。クレーンでいえばさまざまな現場があるし、手術もさすがにロボットに完全には任せられていない。非定型的な場面における手作業は、まだまだデジタルサービスによって代替される可能性は低い。

断言はできないが、おそらく10年では暴風雨のなかトラックでやってきて送電線を修理できるロボットは登場しないだろう。また詰まったトイレを直しながら世間話するロボットも、おそらくできないはずだ。
たとえば各建設のプロジェクトでは作業内容や環境がつねに変わり続ける。ネットワークの接続も不安定だ。作業のレイアウトも固定的ではない。働く仲間の動きもランダムで、何が起きるかわからない。そんな現場で、ハシゴや足場を上ったり、下りたり、また、工具をわずかなスペースに通して操作するなど──ロボットでは不可能だ。
とくに住宅建設の現場は独自のレイアウトと、変化する気象条件、変動していく材料により自動化が難しい。というのも、優れた器用さや、触覚が必要な場所では現在でもロボットでは代替困難だからだ。
つまり可変的で物理的に柔軟な対応が必要とされる場合は自動化が難しい。配管工は、狭い空間で不規則な寸法で、腐食している可能性のある対象を扱う。予期しない障害物があるだろうし、お客からの要求を聞き、ときには価格の値下げ要請も聞かされるかもしれない。テクノロジーは多くのツールを提供しているものの、中心となるのは人間とならざるをえない。
限られた情報で問題を診断しなければならないし、複雑な状況に置かれる。また、コストや時間や耐久性を考慮して、顧客と話しながら最良のアプローチを採用する必要がある。さらに、作業の前にはお客に説明して、安心させて、信頼を築くことも重要だ。もちろん、これらも高度に発展したロボットが担うかもしれないが、すぐには難しいはずだ。
またシステムを導入したといっても、注文と異なる材料が納品されたとして、その解決策を即興で考えるのは経験豊富な建設作業員たちだ。長年の実務経験をもとに、現場で連携したり取引先に適正な指示を出したりして回避策を考える。
なお、私は建設現場のすべてが非IT的、非進化的だといってはいない。もちろんドローンの活用によって計量が容易になり、プロジェクト管理のソフトウェアも進化している。GPS誘導システムを備えた掘削機があり、パワーアシストスーツもある。構造物の3Dプリント技術だってある。レンガ積み、石膏ボードの設置などのロボット、遠隔操作可能な重機なども発展している。過去では過酷なコンクリート仕上げ職人は四つん這いで毎日を過ごしていたが、現在ではレーザー誘導スクリードマシンを操作している。
私はその他のブルーカラーの業務も未来永劫、ロボットに代替されないとは断言していない。しかし、現時点で高度な溶接ロボットは50万ドル強で、かつ作業の柔軟性はない。また他のロボット価格を見ても明らかなように、非定型業務を代替できるレベルにない。いつかはできるだろう。ただ、この10年では完全代替しないといっているにすぎない。
実際にゴールドマン・サックスは建設業のわずか6%、メンテナンス作業の4%しか短期間には自動化されないだろうと述べている。
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続きは、『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』をご覧ください。
ブルーカラービリオネア

2026年9月28日発売『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』について












