電気工事や配管といった現場仕事で富を築いた人々を指す、「ブルーカラービリオネア」。その誕生の背景に迫った、坂口孝則さんによる『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』が9月28日に発売されました。富をめぐって世界ではどのような地殻変動が進んでいるのでしょうか? 本書の「第一章 地政学が強制する『3K仕事』の国内回帰」から一部をご紹介します。

国内回帰がもたらしたブルーカラー地位上昇
国内回帰の結果どうなったか。まず米国の事例から見てみよう。
2026年2月、米国の議会でまさかチップの話が大統領から出るとは思わなかった。これは半導体の意味を指すCHIPかと思ったら、感謝の印として渡す心付けの意味のほうのTIPだった。トランプ大統領がチップを非課税にするという。それが勤勉な米国民の贈り物になるのだ、と。
実際にトランプ大統領は選挙戦で残業代やチップを非課税にすることを公約に掲げていた。労働者階級は生活物資の値上がりに苦しむ。そこでせめて特定の収入だけは非課税にすることでトランプ氏への支持を取り付けようとした。現に2025年に成立したトランプ氏の減税では、チップでの多額控除が認められた。
私は半導体のCHIPと飲食店で現場従業員が受け取る心付けTIPを比較したが、これは偶然としてはできすぎている。というのも、CHIPのほうは、いわゆるブルーカラーの需要増を象徴する単語であり、TIPのほうは政治がターゲットとする有権者が気にする単語だからだ。実際にトランプ氏の減税は自身の支持層を固めるものだった。
なぜならチップが非課税となり、さらに残業代も控除されれば、いま働いているひとたちが労働時間を増やそうとするインセンティブになる。人手不足が緩和され、経営層にも高評価の政策になる。収入が増えたぶんは、消費も増えるから米国経済に寄与する。これはまさにブルーカラーを起点とした政策である。

地政学的な潮流は、当然ながら政治家の票にも使われる。「国内に産業を回帰させる」→「労働機会が増える」→「成果をアピールしブルーカラー層の票田にする」といった三段論法である。そしてその傾向は数年、続いている。
少し遡ること2023年。米国では大規模ストライキの数は23年ぶりの多さとなった。労働組合の支援を受けていることもあってジョー・バイデン大統領(当時)はその動きを歓迎した。象徴的なのが2024年、フォルクスワーゲンの米国工場(テネシー州)で絶叫した、「フォルクスワーゲンの労働者はまた一つ、大きな山を動かした」。声の主は全米自動車労働組合の会長であるショーン・フェイン氏だった。氏をハリケーンと呼称するひともいるほどの強硬派だ。
この歴史的な意義は、労組結成に消極的な南部の州で、ついに労組誕生が決まった点にある。フォルクスワーゲンはドイツ資本で知られる自動車メーカーだが、フェイン氏は組合忌避の文化を“打破”したのだ。フェイン氏はブルーカラー労働者の重要性を繰り返し説き、ゼネラル・モーターズ、フォード、ステランティス(旧クライスラー)のいわゆるビッグ3を相手に一斉ストを実施。なんと25%の賃上げを実現させた。
バイデン氏もドナルド・トランプ現大統領もブルーカラーの支持が重要だと認識していた。それは選挙で接戦州となるのは、自動車産業で有名なミシガン州などだからだ。数の多いブルーカラーの支持を集めなければならない。経済安全保障の問題も加わり、政治的にも、ジーンズを穿いてヘルメットをかぶった「奴ら」は政治家がもっとも理解を示すべき「仲間」となった。
ブルーカラーはいまや、国益を物理的に創り出す戦略的資産であり、政治の最高権力者たちが奪い合う最強の主役となったのである。
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続きは、『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』をご覧ください。
ブルーカラービリオネア

2026年9月28日発売『ブルーカラービリオネア エリートより稼ぐ「奴ら」の正体』について












