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ハイブリッド巡礼記

2026.09.25 公開 ポスト

#6 台風通過から、お遍路は高知へささきかつお(作家)

お遍路はスケジュールの立て方も一筋縄にはいかない。車なら渋滞があるし、歩きなら自分の体調にもよる。公共交通機関なら災害などでの遅延、運休だ。台風が四国をかすめる6月末、徳島で足止めをくらいそうになっていた。

6月某日

いよいよ高知県に入る──と思っていた前日、JR四国のHPを見ると「阿南駅~阿波海南駅間 夕方から運転再開予定」との案内が出る。トクトクトクと脈が早まる。夕方までに23番薬王寺(やくおうじ)をすませていないと、そのあとのスケジュールが一気にくずれてしまうのだ。この23番から室戸岬の24番最御崎寺(ほつみさきじ)あたりが交通版「遍路ころがし」ともいえる難所で、自分のように電車バスを使っているお遍路は一本逃すと予約していた宿に着けなくなってしまう。だから高知の宿は予約していなかったのだが、さあどうなる?

徳島駅から阿南駅までは動いているから、とりあえず18番恩山寺(おんざんじ)、19番立江寺(たつえじ)は行っておこう。あとは阿南駅まで行って、動けないなら徳島駅まで戻るしかないか……と思って時刻表を見ると、徳島バスの高速線の一部区間はJRのきっぷで乗ることができるという。これに乗れば阿南から薬王寺のある日和佐駅まで行けるじゃん! と心中小躍りする。

翌朝7時に宿を出て徳島駅から南小松島駅までJR。そこから歩きで18番、19番。立江駅から阿南駅までは再びJR牟岐線。阿南からバスで日和佐駅に午後1時すぎに到着! お大師さま、ありがとうございます。バスに揺られているうち、この一週間ずっと重かった雲に青い切れ間が見えはじめ、今年はじめてセミの声を聞く。

@日和佐。晴れてきました

日和佐の町は札所と海の観光地で、さあて無事に到着したことだし、何か美味いもんでも食べたいなと駅前を歩くと土日昼限定でラーメンやってますの看板。個人経営のお好み焼き屋さんだったので、かなり自信作なんだなと暖簾をくぐる。予感的中、自分を褒めたい。

ラーメンうまし。ごはんは「お接待」←感謝!

薬王寺門前に温泉施設がある。お大師様がお湯を見つけられたとのことで「これは入っとかなきゃ!」となる。じつは徳島で5連泊した安宿の大浴場が故障していたのだ。シャワーだけで過ごしてきた身体に、温泉が染みる染みる。このあと駅前のビジホにチェックインして、スーパーで安くなってたお刺身&お寿司をいただいて、おやすみなさい。徳島ラストナイト。

6月某日

いよいよ高知県の札所に入る。室戸岬の高台にある24番最御崎寺(ほつみさきじ)は、23番から77キロ。歩きなら2泊3日の行程となるが、時間的体力的にキツイので交通機関に頼る。朝7時に宿を出てJRで日和佐から牟岐、バス1時間で道の駅東洋町、さらにバス二回乗って室戸岬に着いたのは10時半ころだった。車窓左にずーっと太平洋。ここを三日かけて歩けば悟りも開けるんだろうなとボーッと海を眺めてた。頭が空っぽになる時間だった。

室戸岬のバス停から最御崎寺までは山登りとなる。観光案内所で荷物を預かっていただき、ほっそーい遍路道を入っていくが、これまたなかなかの登りで息が上がっていく。車遍路や自分のようなバス電車使いを、ガチ歩きの方々がよしとしない書き込みを見たことがある。まあ確かに長い歴史の中では歩きがデフォだったけど、いろんなスタイルがあっていいじゃないの、というのが世の趨勢であり自分もその多様性に賛成で──でもまあ歩くべきところは歩いて、なかなかにしんどくて……やっとこさ登ったところに駐車場があって、車から降りてきたカップルが「やばーい、ちょー景色イイ~」って言ってるのを見て軽くイラッとする。お大師さま若き修行の地で、自分は何も得られていない気がする。

24番札所と室戸岬

高知に入ったこの日は、あと二つ札所を巡って、高知版「遍路ころがし」と呼ばれる27番神峯寺(こうのみねじ)麓の宿に着くスケジュールだった。一時間おきに出るバスにうまく乗っていけば、夕方に到着できると確信して宿の予約を入れた。26番金剛頂寺(こんごうちょうじ)もなかなかの山登りと聞いており、その手前の25番津照寺(しんしょうじ)が室戸の町中にあるので、そっちをさくっと行ければと思っていたら……甘かった。

津照寺&手水桶の水台

もうね、どこの札所も都営大江戸線の深い地下ホームで、エスカレーター使えないって感覚。帰京してから駅の階段が苦にならなくなるという効果を後日実感。登った先に太平洋の絶景と、文化元年(1804年)に寄進された手水舎の水台を見て、空間と時間がクラッと歪む。

このあと26番金剛頂寺(こんごうちょうじ)を往復2時間かけて参拝。日も西に傾いてきた時間にバスは投宿先に向けて走っていく。と、途中のバス停から白衣姿の欧米系お姉さんが乗ってくる。向こうもバス内にお遍路がいるとわかって「ハーイ」となる。話してみると、fromUSA。YOUは何しにお遍路に? と聞くと「I am Buddhist」「へ~」と会話ができたのはこれくらい。もっと英語が話せたらなと思うけど、こんなときにしか思わないんだよね。彼女と投宿先が同じとわかり一緒にチェックイン。

この日の宿泊者のうち、日本人は自分だけだった。宿主さんに聞くと、歩き遍路の宿泊客はほとんどが海外の方で、日本人は減っているんだとか。「なんで欧米の方たちがお遍路なんですかね?」「サンディアゴ巡礼がオーバーツーリズム気味で、そっちから流れてきてるみたいですよ。四国をぐるっと一周できるのも面白いみたいで」「へ~」しまなみサイクリングといい、お遍路といい、グローバルの波がこんなとこにもかぁ。(続く)

世界の国からお遍路さん

【余談1】
地方バスは楽しい。どこの路線かナイショだけど、通院する地元バア様が、親戚である若い運転手の背後に座って「アンタ早く結婚しなさい」と説教してるやりとりに笑ってしまった。

【余談2】
9月下旬は高知~愛媛を巡礼予定。朱の金剛杖、緑の輪袈裟オッサンお遍路がいたら、それたぶん私です。みなさまよろしくお願いします。
 

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ハイブリッド巡礼記

アラ還作家が、自著に登場する八百万(やおよろず)の神々の神社詣でと、四国八十八カ所巡礼(お遍路さん)を足掛け二年で行うことにしました。須佐神社(スサノヲノミコト)などのパワースポットで力をいただき、四国に渡って札所を巡るという「ハイブリッド巡礼」。ご当地の見どころや、グルメ、ちょっと変わったスタイルのお遍路(大変だと思うのですが……)を紹介していければと思います。

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ささきかつお 作家

1967年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2005年頃よりフリー編集者、ライター、書評家として活動を始め、2016年より作家として活動。主な著作に『空き店舗 ( 幽霊つき ) あります』(幻冬舎文庫)、「2つの意味の物語」シリーズ(新星出版社)、『名探偵はナルシスト』(静山社)、『半神さまは修行中』(岩崎書店)。

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