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ハイブリッド巡礼記

2026.08.10 公開 ポスト

#3 お遍路本格スタートと、初めての「お接待」ささきかつお(作家)

お遍路を始めた理由は、2年前の夏に遡る。
火葬炉から出てきた父は無数のかけらになっていた。祖父母の葬儀で経験があったから、あとは骨壺に納めるわけねと思っていたら、台の端が持ち上げられてズザザザーッと、ドッキリ仕掛けられた芸人のごとく父は下へ滑り落ちていった。喪主は母であったが手続や段取りは自分が施主としてやっていたのでつとめて冷静なフリをしていた。だが本当はパニックってた。昭和、平成、令和と90年生きてきた父が、先週まで会話をしていた父が、ズザザザーッである。生きるって何? 死んでズザザザーッって何? もう何がなんだかで、お遍路に出ればわかるかなって思ったんです、という説明をすると聞いた人が死んだ魚のような目になるので父の供養ですと言っている。(供養は本当)

5月某日

前日はお試しみたいな感じで今治の二カ所を巡り、のっけから見事に道に迷って墓地内をさまようことになった。目的の札所にたどり着ければそれでいいのだが、無数の墓石に囲まれる恐怖心、時間的体力的なロスは避けたいところ。でもまた迷うんだろうな。人生もまた同じで。
56番泰山寺(たいさんじ)は、駅からちょっと離れた住宅街にあってすんなりと行けた。次の57番栄福寺(えいふくじ)に進むと徐々に登りになり、緑が濃くなっていく。本も書かれているご住職に会うこともできてイイ感じだなと次の札所へ歩きだすと山道感が強くなって、これでいいの? googlemapに道ないんですけど。しばらく行くと車道に出て安心するも、へんろ道の道標は再び細い道を示している。これがもう登山って感じでだんだん息が上がってくる。まだまだ登りそう、頑張るぞ、やった、山門が見えた! の奥を見てがく然となる。

マジか、まだ登るのか……
でもこんなご褒美眺望が

お遍路あるある:着いたと思いきや、本堂はまだずっと先だったりする。この58番仙遊寺(せんゆうじ)がなかなかにしんどくて、ヒイヒイいいながらやっとこさ本堂。お経を読みはじめると、あらたな問題に直面する。山寺に多くいる虻(アブ)だ。

私「無上甚深微妙法……」
虻(ブ~ン、血ィ吸うたろか~)
私「弟子某甲 盡未来際 帰依仏 帰依法 帰依僧……」
虻(ブ~ン、血ィ吸うたろか~)
私「弟子某甲 盡未来際 不殺生……」
パァン!(経本で虻を叩き殺す)

私はお大師様の教えを学べないかも。暑い時期にお遍路をされる方は防虫対策をされた方がよいです。ちなみに仙遊寺で絡んできた虻たちは山をおりて町中までずっと一緒だったから友だちになったような気がした。時間はとうに昼をすぎており、腹へったなあ……あ、あの看板は「ラ・ムー」だ! 西日本をメインに格安で商品を提供しているスーパーで、以前の旅行でも大変お世話になった。となればここで昼食を購入して、駐車場の片隅で食べることにしよう。パン108円×2、お茶63円。

ほんとは毎食現地の美味い店で食べられたらいいのだけれど、88カ所を巡ると相当な金額になる。食べ物ではないが納経帳に記帳いただくのに500円/一カ所かかる。×88=44,000円ですよ。お遍路って、お金、時間、体力、精神力がないと続かないと思う……モグモグ、焼きそばパンうめえな。と、手前に停まっていたミニバンから、地元のお姉さんが降りてこっちに向かってくる。

「お接待です」
「あ、ありがとうございます!」

おおお、初めてのお接待。これがお接待かあと気持ちが上がる。お接待とは、地元の方々がお遍路に無償で「おもてなし」をしてくれること。食べ物だったり、車に乗せてもらったり。お接待をしたことで、その方にも恩恵があるとされている。いただいたのはリポD、おせんべい。

左:昼メシ、右:お接待

「がんばってください」とお姉さんは励ましてくれた。現代のお遍路は車がほとんどで、自分のような歩きスタイルは珍しくて目立つのだろう。お姉さん的には「徳島の1番から長い時間をかけてこの今治50番台にたどり着いたんですね」と認識しているはずで……すみません、実は昨日からの新参者で、でもありがたくいただきます。リポDでパワーチャージして59番国分寺(こくぶんじ)まで到着。JR線に乗って今治駅に戻る。5時間かけて歩いたが、帰りは電車で10分だった。連泊しているカプセルホテルのサウナ入って、アジフライ定食いただいて、お遍路2日目はおしまい。

サウナ飯うまし

5月某日

今治から電車で松山空港へ。途中にある53番円明寺(えんめいじ)、52番太山寺(たいさんじ)に立ち寄る。山深くにある太山寺の本堂に一人。ウグイスの声と自分の読経しか聞こえない贅沢な空間。数時間後に東京に戻り、新宿の雑踏と喧噪にめまいが……。(次回は、徳島の1番札所からです)

【追記】出雲~今治旅(4泊5日)の費用概算
往復飛行機32,800円、バス&鉄道13,340円、ホテル約23,000円、食事代約15,000円
「ホテル代とメシ代安くね?」と思われそうだけど、前述ラ・ムーのくだりでご推察ください。

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ハイブリッド巡礼記

アラ還作家が、自著に登場する八百万(やおよろず)の神々の神社詣でと、四国八十八カ所巡礼(お遍路さん)を足掛け二年で行うことにしました。須佐神社(スサノヲノミコト)などのパワースポットで力をいただき、四国に渡って札所を巡るという「ハイブリッド巡礼」。ご当地の見どころや、グルメ、ちょっと変わったスタイルのお遍路(大変だと思うのですが……)を紹介していければと思います。

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ささきかつお 作家

1967年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2005年頃よりフリー編集者、ライター、書評家として活動を始め、2016年より作家として活動。主な著作に『空き店舗 ( 幽霊つき ) あります』(幻冬舎文庫)、「2つの意味の物語」シリーズ(新星出版社)、『名探偵はナルシスト』(静山社)、『半神さまは修行中』(岩崎書店)。

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