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ハイブリッド巡礼記

2026.10.10 公開 ポスト

#7 走るお遍路@高知と、絶品の刺身定食!ささきかつお(作家)

6月某日

民宿で朝を迎える。高知県内の難所と言われる27番神峯寺(こうのみねじ)までは往復で3時間強とのこと。今日は28番大日寺(だいにちじ)、29番国分寺(こくぶんじ)と巡って高知駅前のホテルに投宿する予定なので、7時すぎに宿を出る。

一週間もお遍路をしているとわかることがある。山道の歩き方だ。体力があればグイグイと昔からの遍路道を登って時間も短縮できるが、不規則な段差に左膝が悲鳴を上げていた。一方、車道であれば比較的なだらかなアスファルトを自分の歩幅で進むことができる。遠回りで時間はかかるけどね。

 
「マムシ注意」にビビる

山の高く、奥にある神峯寺の参拝をすませ、荷物を預かっていただいた宿に戻る。すると手前の商店で、きのう同宿したUSAネキと店主バアさまが、あーでもない、こーでもない、的なやりとりしている。「ああ、いいとこに来た。ちょっと助けて」と手招きされ話をうかがうに、ネキが荷物を送りたいのだが、伝票の書き方がわからないようなのだ。ああ、この程度ならと出川イングリッシュでネキに説明するとあっさり解決する。するとネキ「今日はアナタと一緒に巡礼するわ」と言ってくる。どうやら私が「使える」と思ったようだ。まあ、こんなご縁も面白いので「途中までなら」とOKし、11時の「ごめん・なはり線」に一緒に乗る。一両だけのワンマンカー。ロングシートに座ると運転手さんが最後部の乗車口まで行き、ネキと私に「どうぞ」と整理券を渡してくれる。あ、と気づいたのは整理券を取り忘れたことではなく、彼に「欧米カップルお遍路、日本の鉄道に乗り慣れていないんだな」と思われたこと。そういや昔、小樽のゲストハウスで誰からも声をかけられず、数日後「Do you speak Japanese?」と言われたのを思い出した。英語はまったくだが容貌はグローバルな私であった。

USAネキと二人、太平洋の青を遠くに眺めながら、ごめん・なはり線にボォーっと乗る。ポツポツと話した英語はもう覚えていないんだけど、ふしぎな時間を過ごした。なんでこの二人がお遍路姿で高知のローカル線に乗ってんのって。一時間で、のいち駅に到着。翻訳アプリで「私は膝を痛めているのでゆっくり歩きます。お互い、自分のペースで行きましょう」と提案すると、「OK。Good luck!」とネキは颯爽と歩いていった。カッコイイなと思った。膝を痛めているのは本当で、このあとチートを使うつもりだった。ネキのように歩き遍路であれば駅から28番大日寺(だいにちじ)まで2.4キロ。次の29番国分寺(こくぶんじ)まで9キロ。ごめん、午前中の神峯寺往復(8キロ)でもうムリ。

このあとのチートお遍路は、大日寺から駅に戻って鉄道。後免駅から国分寺までタクシー。その先に高知駅方面行バス停があるので、夕方前に宿着の予定だった。普通の歩き遍路だったら一日20~30キロは歩くみたい(←同宿したオーストラリアYOU談)。自分は10~15キロくらいにセーブしないと膝が完全にパラダイスするので無理はしない。ゆっくりと、急がず28番。タクって29番と順調に進む……はずが国分寺を出た時点でバス発車まであと10分。高知平野のど真ん中。目の前に広がる青田の遙か先に国道を往来する車。1キロはあるぞ。次のバスは一時間後で……やっべえと走り出す。記憶にある写真に、青田の中をゆったりと歩くお遍路の姿があったが、いま自分はそこを全力疾走している。もう、なにしてんだか……膝がどんどん痛くなる。ギリでバスに間に合ったけど、時間に追われるお遍路ってどんなもんだろと反省する。

夕刻、宿近くの高松湯でパンチの効いたサウナ3セットからの、高知駅下の餃子の王将で「ちょいのみセット」。生ビール「2杯」に餃子、唐揚げ、キムチなどがついて1480円。

これが「ちょいのみ」なんて……高知万歳!

6月某日

高知3日目。電動アシスト自転車をレンタルし、それが正解だとわかる。高知駅から半径10キロ以内に30~34番の札所が密集しており、総距離約50キロを平均時速10キロでヘロヘロ走っても、一日で回ることができるのだ。31番竹林寺(ちくりんじ)と32番禅師峰寺(ぜんじぶじ)は山の上だが、それも電動アシストでスイスイ(膝負担も少ない)。すると、心の中の「お遍路警察」が出動しはじめる。「お前、本当にちゃんとお参りしてるか。おざなりじゃないか?」と問うてくる。ちゃんとやってるのだが、十日目くらいになると、どこの札所だかわからなくなるのも事実であった。お遍路あるある:記録として山門や本堂などを撮影してるが、どれも古い建物なので区別がつかなくなる。遍路ころがしと呼ばれる難所は記憶に残るが、帰京して写真を見て、え~とココどこだったっけ……となる。それなりに歩いている自分でもそうなのだから、車で一日十数カ所巡る人たちはどんなだろ。でもウマい飯は覚えてて、AIおすすめの刺身定食2000円は絶品だった。

ごはん、汁、おかわり放題

7月某日

区切り打ち2セット目のラスト。土佐市の35番清瀧寺(きよたきじ)、36番青龍寺(しょうりゅうじ)に向かう。朝8時前の、高知駅発のバスに乗れば余裕をもって移動できる……はずが、朝の渋滞でバスが来ない。結局、一時間の余裕分も使い果たし、雨雲に隠れた清瀧寺まで早足で上り、山上でビショビショになり、参拝後、本数の少ないバスに乗るべく箱根6区の駅伝ランナーばりに駆け下りる。

ああもう、左膝が泣いている。この原稿を書いているのは帰京してン週後なのだが、ダメージがひどくて安静&治療となる。通しで歩き遍路をしている方の強さに恐れ入る。

2巡目ラスト青龍寺も、この急階段

7月某日

帰京日。朝8時前の高速バスで岡山~からの新幹線で東京へ。バスは四国山地を抜け、瀬戸内海がバンと現れる。そのとき何かわかったような気がした。36カ所を巡り、72回般若心経を唱えた。ひたすら「無」の言葉があった。子供のころから「無」が怖かったけど、その自分すら「無」になるのだから、恐怖も、何もかも、すべてが「無」になる。そういうことかも、と。

【追記】徳島~高知お遍路(10泊11日)の費用概算
往復運賃約35,000円、バス&鉄道約20,000円、ホテル約45,000円、食費約35,000円
 

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ハイブリッド巡礼記

アラ還作家が、自著に登場する八百万(やおよろず)の神々の神社詣でと、四国八十八カ所巡礼(お遍路さん)を足掛け二年で行うことにしました。須佐神社(スサノヲノミコト)などのパワースポットで力をいただき、四国に渡って札所を巡るという「ハイブリッド巡礼」。ご当地の見どころや、グルメ、ちょっと変わったスタイルのお遍路(大変だと思うのですが……)を紹介していければと思います。

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ささきかつお 作家

1967年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2005年頃よりフリー編集者、ライター、書評家として活動を始め、2016年より作家として活動。主な著作に『空き店舗 ( 幽霊つき ) あります』(幻冬舎文庫)、「2つの意味の物語」シリーズ(新星出版社)、『名探偵はナルシスト』(静山社)、『半神さまは修行中』(岩崎書店)。

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